04-30.3. PLANET DANCE③
最初の一機が背中を見せてからは早かった。
隊長機が撃墜された事により、統率力を失った守備隊の陣形が一気に崩れ始めた。
ウエハラとヨーコが駆る“ライオウ”がそれの一部に対して追撃を仕掛けている。深追いして撃滅しようという心算ではなく、パイロットを保護するためだ。
カスタマイザーならニウライザの投薬を、そうでなければ捕虜として迎え入れて情報を引き出す。もちろん平和的な手段で。間違ってもウエハラも感情に身を任せて捕虜を殴るなんて事は二度としないだろうし。
近くの敵は大型S.V.Sのマゴロクで、遠くの敵は新兵器のチャクラムを投擲して、機体の自由を器用に奪っていく。でもやっぱり射程に限界があるし、それに数が多い。ウエハラが相手出来ない機体がざっと十数機ほどバラバラと逃亡を図る。
MK単体で逃亡なんて、この広い宇宙空間では自殺行為に等しいというのに。すぐに推進剤が枯渇して漂流する事になる。
『コータ!』
それを危惧して、つまり敵に情けをかけてというわけでは無いだろうが、ウエハラが僕に合図を送る。それに短く返事をして僕は“ワルキューレ・ブレイズ”のOSにインストールした音声認識AIに命令する。
「チェイサーミサイル!」
360°モニターに【Chaser missile ready】と表示される。そしてピッ、ピッ、という小気味良い音と共に未だ背を向けて逃走していく敵機を次々と捕捉、ロックしていく。
全ての“ルビリア”に照準されている事を確認し、直ぐさま操縦桿のトリガーボタンを押し込んだ。
するとリアスカートアーマーの内側に格納されていたチェイサーミサイルが一斉に飛び出した。
改良を加えられたチェイサーミサイルは弾頭こそマイクロミサイル程の口径に小型化したが、その分数を増やした。具体的には24基の弾頭を仕込んである。
飛行機雲の様な細い糸を引いて宇宙空間を飛び、それぞれがそれぞれの目標に向かって飛翔していく。
いくつかの“ルビリア”はそれに気づかず直撃したが、勘の良いパイロット数機は一斉に回避に移り、ミサイルの射線から逸れていく。
そう、それを追跡する。別々の場所にいて、別々の方向に回避する複数機を。
間を置いて集中する。時間にして一瞬。けどそうしないと作動しない。
方向を指し示すんじゃない。
イメージを伝える。直撃するイメージを……そう、“ルビリア”の腰部に当てるイメージ。
……いける。
「追跡!!」
するとOSが反応してモニターに【Chase】と表示された。
それぞれのミサイルが急角度に、全てバラバラの方向に曲がり、それでも全ての弾頭が“ルビリア”に着弾して炸裂した。
「今、作動したか」と僕がAIに問いかけると【positive】との返答があった。テストでは上手くいっていたけど、こうして実戦で成功させられてとりあえず安堵する。
増援は無く、どうやら全ての敵機を無力化出来たみたいだ。こちらの被害は、多少ダメージを受けた機体はあるだろうけど、怪我人などは居なさそうだ。
ややあって現場を確認したウエハラから通信が入り、破壊した“ルビリア”の損傷具合から恐らくパイロットも無事だろうという事だった。
彼らの回収はウエハラ達に任せよう。作戦が終わったら僕は地球に降下する手筈になっている。
僕は格納していた対フォトンコーティング加工されたマントを機体に装備させる。するとその様子を見ていたウエハラが通信を寄越してきた。
通信を繋いだは良いけど、何を言ったら良いのか、正確にはどう自分の気持ちを伝えたら良いか迷っている。そんな様子が彼女の表情から見てとれた。
同じ時間を過ごしても僕は彼女の仲間の仇だ、それは変わらない。でも、目指す目的地は同じで、不思議な運命の巡り合わせで協力関係になった。
僕は僕の目的の為に力を貸したけど、そこに何の気持ちも乗らないほど僕の、またはウエハラの心はドライでは無い。
お互いにどう言葉をかけたものか悩む。けど結局、僕は彼女にこう言った、「ご武運を」と。
するとウエハラもふっと笑って『アンタもね』とこう返す。
僕はその言葉と、ロゼッタやレベッカさん、マリオンさんに見送られながらグイグイと引っ張る重力に身を任せる。
その力は力強く、まるで僕に早く帰って来いとそう言っている様な気がして、なんだか少し嬉しかった。
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このお話で第四章は完結です。
次のお話は幕間を挟みまして、次の章に続きます。
地球に帰ってからの物語になるかと思いますので、お楽しみに。
次の投稿は11月30日の水曜日19時の予定です。