04-30.1.PLANET DANCE①
カスタマイザー研究施設の守備隊の基地と思われる拠点があるとされる宙域に到着した“ソメイヨシノ”から出撃したウエハラ率いる第一小隊……実際の隊長はアリマ二佐だけど、彼は艦橋から指示を送るアヤコ先輩の補佐官として働いている。
実質的な現場指揮は副隊長であるウエハラが担っていた。
座標をその場に固定した“ソメイヨシノ”から出撃し、各自の判断で散開する第一小隊。傍目で見るとバラバラとした統率の取れていない動きに見えるかも知れない。
でもそれは間違いで、それぞれが自身の力量を深く理解し、隊員同士の死角をカバーし合った彼女らにしか取れない陣形だった。
僕は“ワルキューレ・ブレイズ”に搭乗して、その陣形の後方に位置取る。改修して格段にパワーアップし、それに合わせてエネルギー効率の向上を図り、それに成功した。
けどその改善は決して満足いくものではなく、増設した装備に伴うエネルギー消費を補うに留まっている。なのでやはり無理な稼働は抑える必要があり、運用は慎重にならざるを得ない。
出撃してから間もなくすると、先鋒を務めていたレベッカさんとマリオンさんが戦闘を開始。真っ黒な宇宙空間にフォトンビームの線が流星の如く瞬いた。
続いてロゼッタの様な射撃が得意なチームが中距離から支援を行う。ややあってエースのウエハラが駆る“ライオウ”が戦場を駆け回る。
それぞれが自身の持つ力を最大限に発揮し、連携を取る。このまま押し切れるか。そう感じ始めた時にやはりというのか、敵の増援、正確には第二陣が基地から出撃して来る。
それは先鋒で歯が立たない、そう思っての行動に違いなく恐らくこちらが本命の部隊だろう。
『コータ!』
ウエハラが僕の名前を呼ぶのと同時に僕は操縦桿を押し込んでいた。
「今行きます」と。
◇
待機姿勢から一変、背部に装備したフライトシステムのスタビライザを展開させる。
左右の主翼は水平に、ウィングレットの様な小型の翼は左右対称に45度角に広がる。
宇宙空間では役に立たないなんて思ったけど、それは僕の間違いで、空間戦でもこのフライトシステムは姿勢制御に大いに役に立つ。
それにMK本体とは別ジェネレーターを利用しているので、例え推進剤が枯渇しても“ワルキューレ・ブレイズ”本体のジェネレーターに切り替える事が出来る。
「っ」
急加速による加重が身体をシートに押し付け、パイロットスーツがそれに反応して対G機能が作動し僕を守った。そして小型自動車程のサイズの小隕石が眼前に迫る。
「フィールド展開」
僕のその一言に“ワルキューレ・ブレイズ”のOSが反応し、360°モニターに【Photon field】と表示されて宇宙を飛行する“ワルキューレ・ブレイズ”の眼前にフォトン粒子で構成された不可視の障壁が展開される。
バリアは小隕石を弾き飛ばし、“ワルキューレ・ブレイズ”の進路を切り開く。それにより最短距離、最速で急行できる。
ロゼッタ機と“ルビリア”が鍔迫り合いをしているのが見えた。
パワーでは“ファントムクロウ”の方に軍配が上がるが、生憎ロゼッタは近接戦が不得手だ。あのように懐に入られてはいつか剣を弾かれる。
フォトンライフルの射程ギリギリか……。
射程に不安がありながらも僕は“ワルキューレ・ブレイズ”に新型のフォトンライフルを装備させる。
以前のタイプより砲身を長くして射程を意識した設計にした代物だ。
「ロゼッタ!」
『!?……コータくん!』
僕の接近に気づいたロゼッタが苦労しつつも機体を捻る。ロゼッタ機が射線から外れた事を確認してから操縦桿のトリガーボタンを押し込む。
収束されたフォトン粒子の弾丸がマズルより吐き出されて宇宙空間を切り裂いた。
発射されたフォトンビームは“ルビリア”の右腕を焼き、脇腹を右から左に貫通していった。ロゼッタ機が離脱した瞬間に“ルビリア”は爆発飛散した。
敵パイロットの捕獲も頭の隅にはあったけどロゼッタの援護を優先させた。
『……! あ、ありがとう、コータくん』
「マリオンさんの援護を」
『あ、うん、分かった』
ロゼッタは小さく頷くとなお交戦中のマリオンさんの元へ向かった。
次は、ウエハラの所……は、なんとかなりそうなので、レベッカさんの所だ。再び最大出力で急行する。
「レベッカさん、援護します!」
敵機20機程と一定の距離を保ちつつ銃撃戦を行なっていたレベッカ機の脇をすり抜けて敵小隊との距離を詰める。
するとレベッカさんが僕の背中にいう。
『コータか! 野郎ども、コータに当てんなよ!』
『了解!』
背中でレベッカさん達の声を聞きつつ、僕は両腕マニュピレータに一対のフォトン拳銃【フォトンシューター】を装備させる。
背面スラスター全開、最大スピードを維持しつつ敵機の懐に飛び込む。
恐らく敵パイロットは僕のこの行動を無謀と受け取ったのかも知れない。けれどその動きには明らかに動揺が見てとれた。
僕はすかさず右腕のフォトンシューターの銃口をその“ルビリア”に向けて発砲。青色の鋭いフォトンビームが敵機頭部を瞬時に弾き飛ばした。
発砲と同時にフォトンヒューズが排莢されて新しい弾丸が弾倉に装填される。
続いて左にいた“ルビリア”の、同じく頭部を今度は左手のフォトンシューターで撃ち抜く。
次は右、左、右……。腕をクロスさせて、機体を回転させながら一発一発を確実に頭部に当てていく。
頭を失ったMKの動きは極端に悪くなる。各センサーが作動しなくなり、機体自体が状況把握が出来なくなり、情報を推測し始めるので、情報処理能力が重くなる。これはMKのOSが高性能機だから故に起こる弱点でもあった。
一応全ての射撃を頭部に狙いを定めてはいるけど、百発百中なんて出来るはずもなく、時には肩や腰を、無理ならやむなく胸部、コクピットを撃つ。
左右交互に10発ずつ打ち終われば空になったマガジンをパージして両大腿部のホルスターに戻す。装甲内でマガジンが装填されるからだ。
しかしそれを待つ時間はない。素早くリアスカートアーマーにマウントしてある大口径の実弾銃を二丁引き抜き、さっきの要領で発砲を続ける。
気がつけばあれだけいた“ルビリア”は全て処理し終わっており、僕の戦いを目の当たりにしたレベッカさんの口端がワイプ越しにも分かるほどひくついていた。
『に、20機の“ルビリア”を瞬殺かよ……バケモノか』
「いや、こんなにハマるなんて思いませんでした」
『謙遜するな、ダンスみたいに軽やかなステップだった』
まさかこの戦法がこんなにハマるなんて思わなかったよ。数人の敵パイロットは死なせてしまったとは思うけど、多くの“ルビリア”を実質、無力化する事が出来た。僕自身、この戦果には驚いていた。
「敵パイロットの保護をお願いします」
僕はレベッカさんにそういってから再び機体を滑らせる。今から地球に降下しなければならないのだから、活動時間の残りは多くない。
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7月から毎日投稿を続けて参りましたが、諸事情により投稿ペースが緩やかになってしまいそうです。
間違いなく前進はしていきたいと思っておりますが、続きを楽しみにしてくださっている読者様にはご迷惑をお掛けします。
具体的には週に数話程の予定でおりますが、どうか変わらぬご愛顧賜りますようよろしくお願いします。