04-29.神出鬼没の海賊ども
月での滞在は短かったけれど、僕は確かに新型試作機の片鱗を見た。
今ある科学をさらにもう一段階程引き上げる事が出来れば、当時最強だと言われていた“ダリア”や“ライラック”をも上回る高性能な機体になると断言出来る。
それほどにアークティックの持つ力は絶大だった。
クララさんやアランさんを筆頭に数々の技術者が新型試作機の開発に携わってくれている。彼らならば必ず成し遂げる。
「結局、現在の技術ではこの出力を出すのが精一杯でした。せっかく月まで機体を運んでくださったのに申し訳ありません」と、“ワルキューレ・ブレイズ”を引き渡してくれる時にクララさんは申し訳なさそうに、そして悔しそうに言った。
“ワルキューレ・ブレイズ”のエンジン、ジェネレータは従来通りの物を使っている。
もっと出力が出るジェネレーターの研究をしてはいるそうなのだけど、今以上の出力を出すとジェネレーターの冷却が間に合わず、エンジンそのものが焼き付いてしまう事になる。
それをなんとか改善したいと考えていたクララさんだから、それが本当に悔しかったんだと思う。
けど未来を知る僕からしても、“ワルキューレ・ブレイズ”や“ファントムクロウ”、“ライオウ”に搭載されている様なジェネレータを超える物はあと数年は生まれない。
いや、正確にはジェネレーターのスペック自体は余り向上せず、代わりに排熱処理装置の性能が上がってきたり、FXカーボンの普及などでジェネレーター本体以外の発展で出力を出しても良くなっていく。
実際、“ダリア”や“ライラック”などもジェネレーターの大きさなどの違いはあれど基本的には今の“ワルキューレ・ブレイズ”に載っているジェネレーターと変わりはない。
そう、改善すべきはそのジェネレーターからエネルギー供給されるMK本体であり、更にはそれに扱われる兵装なのだ。
より少ないエネルギーでより強い弾丸を弾き出すライフルが、より燃費の良いバリアを張るシールドが。それらオプションの方を工夫する必要がある。
エンジンの発展速度は非常に緩やかで、少なくとも僕はこれより最適なジェネレーターを知らない。
だからクララさんが悔やむ事はないのだ。
“ワルキューレ・ブレイズ”と出会って一ヶ月が過ぎた。そう、そんなやりとりを月でしてから、もうそれだけの時間が過ぎた。
ニウライザの精製は大成功し、中国の山奥にニウライザ精製工場を作った。
あまりにも準備が良過ぎるので、アヤコ先輩に真相を問うと、元々ナナハラ重工グループの製薬工場だった所でニウライザが完成したらそこで作ろうと思っていたらしい。
あ、うん。やっぱりナナハラ重工は完全にバックにいるみたいだ。
しかしナナハラ重工といい、アークティック社といい、そんな大企業が極秘裏にとはいえ世界情勢に関与してきているだなんて。二社ともMKに関する企業だから、紛争と切っても切れない間柄だから、と言うのを抜きにしても、“ソメイヨシノ”に協力している以上、その運動を支持している事になる。
ガーランドの後ろにもそれなりに大きな影が見え隠れしている。国か、企業か、それ以外か。それは分からない。
けどなんだって構わない。僕のリオを救うという目的には何も変わりはない。何がどうなって、どう転がろうとそれは変わらない。どれだけ問題が大きくても打開案を絞り出して打開を図るだけだ。
「貴方に会えて良かったわ」
“ワルキューレ・ブレイズ”の傍らで身支度を整える僕にアヤコ先輩はそんな言葉をくれる。それは僕も全くの同意見だった。
牢屋に入れられて、人殺しだと言われ、殴られて。隊員に睨まれて、リオと離れ離れになって。
それは決して美しいものばかりではなかった。けど、“ソメイヨシノ”で得たものは大きなものだった。
かつて敵だった、いや、敵だと思っていた彼らと協力してニウライザを作り、MKに更なる発展を与えた。
仲間意識なんてものではなく、同じ目的地に向かう為に同席しただけに過ぎない。でも道中、話をしあう事で互いを知り、理解していく。
貴方に会えて良かった。そうアヤコ先輩は言ってくれた。だから僕もこう返す。
「僕もです」と。
“ソメイヨシノ”は極秘組織だ。一度別れたらそう簡単には会えない。
神出鬼没の海賊、テロリスト。そんな風に言っていた“ソメイヨシノ”のクルーと頻繁に会えなくなるのが今は少し寂しくさえ思う。
でも、目指す場所は同じ。互いの道はいつか混じり合う。そう思う。
その先にはきっとガーランドが待ち受ける。
ヤツをE.M.Sと“ソメイヨシノ”と両方から追い立てる。そうして逃げ場を無くして行けば何処かで反乱を諦めてくれないか。そんな事を思っている。戦わずして収めるのが一番良いから。
これから僕はそのための準備、カスタマイザー研究所を守っていた守備隊の補給基地だと思しき拠点に攻撃を仕掛ける。
地球に近い位置にあるその基地の制圧が終われば、そのまま僕だけ地球に降下する。A.F.C.マントがあれば大気圏の摩擦熱にも耐えられる。
出撃準備を終えてヘルメットを脇に抱える。ロゼッタにもらったヘルメット。
目の前にはアヤコ先輩とカレンさん。そして少し離れた所に壁に背を預けたウエハラが。その脇には義手を取り付けた少女、ヨーコ。更にはロゼッタ、マリオンさん、レベッカさん達第一小隊のメンバーがこちらを見ている。
彼女らとは今から同じ戦場に立つが、アヤコ先輩やカレンさんとはここでお別れだ。だから僕はカレンさんに近づいて、
「カレンさん、これ」
「ん、なんだこれは?」
僕は最後に手に持っていたメモリーカードをカレンさんに渡した。
「僕の妄想が詰まっています。それをいつか貴女と実現させたい。いつかそんな日が来る事を祈っています」
と。するとカレンさんはそれを指に挟んで目を細める。
「ふふっ、それは楽しみだ。絶対だぞ、コータ」
約束だと、最後に彼女はそう言った。
あの月で話した夢のような機体の話をいつか気兼ねなく出来る様になるのなら、僕は嬉しい。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!