04-26.結合作業
「コータくん、それってもしかして“ワルキューレ”の装甲に使われてる、えーと」
「ルナティック合金、だよ。持ってみる?」
「ありがとう……わぁ、すごく軽いね。こんな素材がMKの装甲になるくらい固いだなんて思えないよ。……それでこの破片をどうするの?」
月の博物館からアークティック本社に戻った僕は早速一室を借りて作業を始めていた。
借り受けた作業室には様々な工具や溶接機などMKの整備に使う物がひと通り揃ってる。この部屋にない物でも工場も隣接しているので設備には事欠かない。
僕が何をするのか興味があったのか、ロゼッタも同席している。僕が手渡した手のひらサイズの金属片を不思議そうに眺めて疑問を口にする。
純白の塗装を剥がしたルナティック合金の見た目はアルミニウムのような色をしている。そして、それと同じくらいに軽い。
「これと掛け合わせるんだ」
「わぁ、すごく綺麗だね。でもこれは……なんだろう? ダイヤモンドかな?」
と僕の手のひらに乗せた透明度の高い鉱物をくりくりとした丸い目で不思議そうに眺める。好奇心丸出しなので僕としては説明しがいがある。いや、説明したがるのはあまり良い癖ではないのは自覚してるけどさ。当人が聞きたがってるんだから説明しても良い……よね?
「これは【スタークリスタル】だよ、ロゼッタも聞いた事ある?」
「あ、知ってる。月で採れる宝石だよね」
スタークリスタルは月で採掘される鉱物。比較的大量に採れる上に見た通りに透明度が高く加工がしやすいので、装飾品に多く使われている、いわば月特有の宝石だ。
見た目が美しく、月でしか採れない事もあり、発見当時は高値で取り引きされたが、硬度が高くないのですぐ割れたり欠けたりしてしまう為に、宝石としての価値を下げていった。
でも利用価値がなくなったかと言うとそうではなくて、電気をよく通すので電子機器内の部品の一部として今でも重宝される鉱物。
「そ。これと、これを掛け合わせる」
「そんな事が出来るの?」
「それは、うん。前にやった事があるからね」
そう、前にやった事がある。防衛学園で。
1周目の人生で巡り巡って僕のところにもルナティック合金は辿り着いた。それはもちろんこの“ワルキューレ”とは関係のない物だったけど。
その時にふとした事がきっかけで、このスタークリスタルとルナティック合金を結合したらどうなるんだろうと思い、実験した事があった。
既に実験済みなので、ロゼッタの質問に答えるのであれば、イエスとなる。
けれど鉱物と合金を繋ぎ合わせるなんて容易ではない。ましてやかなりの硬度を誇るルナティック合金をとなると話はもっと大袈裟になる。
この二つを繋ぎ合わせるには両方を溶かす程の熱量を発する装置が必要で、それはこの世界にはなかなかある物ではない。けれどここはこの世の科学の最先端、アークティック社だ。
フォトン粒子を利用した溶接機。数年後には世界に普及する、けれど今はすごく貴重な溶接機。
“ワルキューレ”の装甲と装甲を溶接するための高出力溶接機だ。これが無ければルナティック合金装甲は実現出来ていないはず。
「それで、その二つを繋ぎ合わせるとどうなるの?」
興味深々といった様相のロゼッタだけど、いや、彼女がここまで興味を示すとは思わなかったな。
彼女は確かにMKのパイロットだけど、こういうメカニックな部分にはあまり頓着があるようには見えなかったから。
そして彼女の質問に答えるなら、こうだ。「綺麗な金属になる」と。
正直、1周目の人生で2つの物資を繋ぎ合わせて出来た物質を調査するには至らなかった。ただ人体に影響がある様な物質ではないという事だけは調べられたけど。
ただ出来た物質はほんのりと透ける純白色の金属になり、光を当てる角度を変えると虹色のラメが入った様に優しく光る。
ここまでくるとそれをどうするのか分かるかも知れない。白状すると、僕はその金属でリオに贈るアクセサリーを作ろうと思ってる。
いや、アクセサリーなんて作った事はもちろん無いんだけど、幸いにして手先は器用な方だしこんなにも道具は揃ってる。
月にいる間がチャンスだと言ったのはこれが理由でもある。
その出来た金属をどうするのかと、ロゼッタは僕に聞いたけれどなんだか恥ずかしくて言えなかった。
でもきっと彼女はずっとここに居るつもりだろうから、いつかは気付くと思う。
だから僕は敢えて、よしと口に出して作業に取り掛かる。上手く出来るか分からない。でも、大好きな人を想うこの時間が僕にとってはすごく有意義だった。
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