04-24.フライトシステム
「え、今なんて仰いましたか?」
カレンさんとクララさんと3人で“ワルキューレ”の改修について話をしている中で僕はクララさんが放った言葉に耳を疑ってしまい、つい聞き返してしまった。
だって、クララさんの言葉があまりにも衝撃だったから。
「“ワルキューレ”に【フライトシステム】を搭載するのはどうかと、そう言いました」
フライトシステム。それは文字通り、MKに飛行能力を付与する機構だ。
戦艦級、例えば“ソメイヨシノ”や“ハーリンゲン”の様な大型船には既に搭載されており、あの巨体を大空に押し上げる事が出来る非常に便利な物だ。
しかしその構造の複雑さから、長年小型化に苦戦している装置でもあり、近年ようやく小型化が成功して“リトルダーナ”の様な小型艦にも搭載される様になった代物……なのだけど、いや、まさかもうMKに搭載出来る程に小型化出来ていたのか。
フライトシステムは宇宙空間では意味をなさないが、地上戦、もとい地球における戦闘に於いては絶大な効果を発揮する。
地上をスラスターダッシュで駆けるMKを空から狙い撃ちに出来るんだ。その優位性は語らずとも理解出来てしまうほど。
いや、しかし、MKに搭載出来る程に小さいフライトシステムをこの時代に作れてしまうという事、もしくはもう完成している可能性すらあるというのか。
それを問うとクララさんはにこやかに答えてくれた。
「実は当社では数年前からMKに搭載出来るサイズのものの開発に取り組んでいました。しかし完成には至らず。そんな時に舞い込んできたのが……」
「アカギ教授の新型試作機の製造依頼、ですか」
「ええ。アランもあれから何かしらのインスピレーションを受けたらしいですが。私の場合は部品の小型化のノウハウに着眼しました。元々“ワルキューレ”に搭載する予定だったのですが、なにぶん月は大気がありませんので実験出来ずに完成する事が出来なかったのです」
新型試作機には確かにフライトシステムの構想が盛り込まれていた。けどまだMKに搭載出来る大きさにするには至ってはおらず、試作機の製造は頓挫している状態なのだとか。
さすがのアークティック社もブラックテクノロジーがたくさん盛り込まれている機体の製造には苦戦しているみたいだね。けど、こうして一歩一歩進んでいるみたいだし、何よりこうしてフライトシステムの完成に至っているんだし、確実に成果は出ているみたいだった。
隣にいるカレンさんも少し口端を上げているところを見ると、いや、知っていて言わなかったなこれは。
それにしてもフライトシステムがこの時代に出来ているなんて思わなかった。
エディの“ブルーガーネット・リバイヴ”も一応は飛行出来る仕様になってはいるけど、あれはエネルギータンクに直結したジェットスラスターを焚いて飛翔する、飛行というより大ジャンプだ。
クララさんが開発したフライトシステムのスペックは分からないが、1周目の人生の知識からすると初期型のフライトシステムは機体を浮かせてホバリング、それから背面スラスターで飛ぶ。
戦い方でいうと戦闘機とかよりヘリコプターとか、そんな感じの戦い方になるかも知れない。
ライドブースターに乗っての戦い方がようやく確立されつつある現代においては非常に有用な装備であるといえる。
“ソメイヨシノ”で開発したフォトンフィールドとS.V.S、アークティック社で開発したチェイサーミサイルとフライトシステム。
それらを“ワルキューレ”に搭載したら……なんて夢のある機体なんだろうか。想像するだけでこう、胸が高鳴ってきてしまう。うん、ロボはやっぱりロマンだ。
でも、まぁ普通に考えて全部乗せなんて出来ないんだよね。
ただでさえ高価なルナティック合金を装甲に使っているのだから普通にコストがかかる。そう、“ワルキューレ”は本体だけでめちゃくちゃ高い。いや、まぁ“ソメイヨシノ”がバックにいてくれるからお金は目を瞑ったとしても、全部乗せてしまったら重量が重くなってしまって、せっかく軽い素材を装甲に使っているのに意味が無くなる……は言い過ぎにしても、アドバンテージを捨てる事になってしまう。
フライトシステムにフォトンフィールド? いやいや、お金がいくらあっても足りないし、そもそもエネルギー問題はどうする。
今でも“ワルキューレ”の全力稼働は3分が限界だ。フライトシステムを搭載したとしてその活動時間はどれだけ短縮されてしまうのだろうか。
エネルギー問題に関してはカレンさんと前々から練っているプランがあるから後で検討するとして、武装盛り盛りのいわゆるフルアーマー化は難しい。少なくとも現段階では。
けど、アランさんのチェイサーミサイルとクララさんのフライトシステム、それを得られるようにもなれば確実に“ワルキューレ”はパワーアップする。
それに僕もみんなに頼りっぱなしというわけではない。前々から悩んでいたが、ガーランドとの戦闘で決心がついた、新武装の構想。それを今回の改修に盛り込もうと思う。フライトシステムとの相性も良いはずだ。
「どうした? なんだか嬉しそうだが?」
と、僕の表情を伺ったカレンさんがそう聞いてきた。
自分の顔が緩んでいた? それは少し恥ずかしいけど、そうか、けどそんな顔をしていたかも知れない。けど、こうして自分の期待をどうするのか、そんな話をしている時が一番楽しいのは間違いない。
「そうですね、カレンさんもクララさんもこの話を聞けばこんな顔になるかも知れません」
「?」
僕たちは兵器の話をしている。それは確かに人の命を奪うものだとは思う。
けど、それ以上にこんなにも美しく、今まで人類が積み重ねてきた全てが注がれて形になっている。
MKは兵器。でも、それは僕達は技術者からしてみたら科学の集合体であり、やはり物凄く美しいものだと思った。
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