04-23.三人の技術者
クララ・ハザス。
“ワルキューレ”設計を担った技術者で、アカギ教授の教え子の1人。栗色の長髪とオレンジ色の瞳。目鼻立ちがくっきりとしたラテン系女性。確か年齢は30代後半くらいだったか。大学卒業後にアークティック社に入社してMK開発の最先端で活躍した人物。
何故僕が、彼女の事を知っているのかというと、1周目の人生の知識……もあるけど、そもそも彼女自身が有名人であるという事。何しろアークティック社の傑作機だと言わしめたあの“ティンバーウルフ”を生み出した人だ。
“ワルキューレ”のあの驚くほど手に馴染む操作感がこれで納得出来た。
彼女を僕とカレンさんは起立して迎え入れる。すると彼女は柔らかい笑顔で手を差し出し「クララ・ハザスです」と、また柔らかい口調でそう言った。
「カレン、貴女と会うのは一年ぶりくらいかしら。ディスプレイ越しに何度も話をしているからそんな感じはしないけれど」
「違いない。いや、しかしそうか。“ワルキューレ”はクララ、君が設計したものだったのか」
とそう話す2人は、知り合い……だったのか。
カスタマイザー専用機を開発したクララ氏と、その機体とパイロットを拿捕しようとしていた組織に属しているカレンさん。
物事の両端に在る様に見える2人が元々の知り合いだったなんて。2人とも知らなかった事だったとはいえ、なんと数奇な事なんだろうと思う。でも僕たちがいる世界、技術というのはそうやって折り重なって進展していく。
誰かの知識が誰かの知識を育てて新たな物を産み出す。そして、誰かが望んだその技術は必ずしも全人類共通の幸せではないと。その一端が垣間見えた、そんな気がした。
アークティック社を代表する技術者であるクララ氏と第4世代MKを早期に生み出したカレンさん。互いの意見を交換していたりしていたのかな。そういう横のつながりがあってこその“ワルキューレ”であり“ファントムクロウ”なのかも知れない。
僕はクララさんに簡単な自己紹介を行うと、クララさんは僕のことは知っていてくれた。経緯はともかく、一応“ワルキューレ”の正式なパイロットになったわけだから、その開発者であるクララさんには僕の事は伝わっていたみたいだ。
そしてクララさんは、僕が生きていて良かったと言ってくれた。
「アラスカで拿捕された時いた時は本当に驚きました。無事で良かったです」
と。もちろん社交辞令かも知れないし、そもそも自分が手がけた渾身の機体である“ワルキューレ”が奪われたからなのかなと、そんな事も過ったけれど、彼女からはそんな雰囲気は感じられ無かったから恐らく本心だと思う。
見ず知らずの人を心から心配するのは意外と難しい。と僕は思う、少し薄情かも知れないけれど。
だからそんな事を恐らく本心で思っている、または社交辞令だったとしても、それを相手に伝わらないように配慮が出来る彼女は大した人物だと生意気ながら思った。だから僕は心から謝罪をする。
「クララさん、貴女が大切に作った“ワルキューレ”を壊してしまいました。僕の力不足です、すみませんでした」
それは僕の心からの言葉だった。
相手がガーランドだろうと、第2世代MKである“ラッター”に負ける要素は皆無だった。パイロットが僕じゃ無かったらもしかしたら勝てていたかも知れないと思うとやはり悔しい。
もちろんその事実を飲み込んでもっと腕を磨く心算だけど。それはそれとして、手塩にかけたMKが壊されたらいい気はしないと思う。けどクララさんは微笑みすら浮かべていた。
「何をおっしゃいますか。貴方は見事に“ワルキューレ”を駆り、私の友人達を救って下さいました。聞けば人的被害は皆無だったそうではありませんか。それ以上の戦果がありますか。貴方のようなパイロットに恵まれて彼女も幸せですよ」
そんな言葉を僕に言ってくれた。
僕は心の中では自分の様な半端者に“ワルキューレ”などという機体は勿体ないなんて思っていた。だけどそんな言葉を、嬉しい言葉を言ってもらえて救われた気がした。
だって“ワルキューレ”はエディの為に作られた機体だったから。エディは“ワルキューレ”の事が好きでは無かったみたいだけど、それはエディ自身が自分がカスタマイザーだからと自分で自分を区別してしまっているからで、僕はこの“ワルキューレ”から技術者の魂、の様なものを感じていた。
それは悪を砕く正義の力なのか、自ら持つ技量を存分に発揮した渾身の作品だという意地なのかわからない。けどこの“ワルキューレ”は間違いなく逸品である。だから僕は“ワルキューレ”を壊してしまって申し訳なく思うし、彼女にはもう一度立ち上がってほしいと思う。
「だからもう一度蘇らせます。私たちの手で。コータくん、貴方の力も貸して頂けますか?」
そんな素敵な申し出を断る理由など1ミリもない。
僕は差し出されたクララさんの右手を取り握手を交わした。
「私の力も使ってくれると嬉しいのだが?」
と、カレンさんも私の事を忘れるなと言わんばかりの様相だ。もちろん彼女の様な技術者の力を借りられるのであれば心強い。
そして僕達は語り合う、新たな“ワルキューレ”の姿を夢見て。
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