04-22.技術交換
大破した“ワルキューレ”の搬入作業をロゼッタ達に任せて、僕とカレンさんはアランさんの案内で施設内のとある一室に通された。
月も“リュウグウ”と同じく重力をコントロールされている様で、地球のそれと同じくらいに感じられた。
格納庫などにはその様な調整がされていなかった事を思うと、それらの場所でされる作業を考えれば納得だった。
改めてアランさんと向き合い、彼の質問にいくつか答えてから僕は思っていた疑問を彼にぶつけることにした。
それは、チェイサーミサイルに使われている装置はどうやって生み出されたのか。という事。
アカギ教授に依頼した新型試作機を実質的に製造しているのはこのアークティック社だ。
パイロットの意思を直接機体に伝える素材を用いた設計になっているから、このチェイサーミサイルもその素材を参考にして作られているのではないかと僕は思った。
それをアランさんに問うと、チェイサーミサイルのシステムは自分で組み上げたんだと主張しつつも、閃きはそこから得たとあっさりと認めた。
閃きって……とも思ったけれど、まぁ、今はそれはいい。
僕が聞きたかったのは、その新素材からインスピレーションを得て、それを新兵器、チェイサーミサイルに反映させることが出来る技術をアークティック社が持っているのか、という事が知りたかった。
5年後のブラックテクノロジー。それを正確に理解し、それが例え劣化版であろうと実現する事が出来る技術を有している事が分かれば、自ずと新型試作機の完成時期が予想出来る。
新型試作機の開発を行うに当たって最も時間がかかるのが、その素材自体の開発だ。それがチェイサーミサイルのように形になって来ている。それは当初僕が予想していた5年後のあの日を待たずして早期に実現すると、そういう事だ。
そうなればガーランドがどう動くかは分からないが、強力な機体が自分の力の及ばぬ所にあるという事実がヤツの愚行を抑止する方向に働かないだろうかと、そう思う。しかし、
「どうして作動したのか分からないんですか」
「だな。アレはカスタマイザー用に作った装置だ。ノーマルのパイロットが乗り込んで作動するなんて思わなかったんだ。まぁそれを今から調べるんだが」
と、チェイサーミサイル開発者のアランさんでも何故チェイサーミサイルが動いたのか理解出来ずにいるようだった。
「でも“ワルキューレ”のメモリにはデータが保存されていますよね? それを見ることは出来ませんか?」
「それは、もちろんあるが。そんなもの見て何が分かるっていうんだ?」
新型試作機をアークティック社に製造依頼した段階で技術の漏洩は起こると分かっていた。だからこのアイデアをアランさんが独自に解釈して技術として実現させた事自体は問題じゃない。それはいい。
アークティック社にその技術が本当にあるのか、いや、世界シェアナンバーワンのアークティック社であればいずれかは実現させるんだろうけど。
これまで僕が見てきた技術力の進展速度が著しく速い。そうなれば“ダリア”や“ライラック”などの新型MKも早期に完成する可能性がある。それよりも先に、あるいは同時期にこの試作機も完成していなければならない。
一番開発に時間がかかると思っていたあの新素材の完成の予兆が、今回のチェイサーミサイルの一件で垣間見る事が出来た。
そう、実験にしては上出来なんだ。
アランさんが開発したチェイサーミサイルの技術を逆に僕が盗んでさらに発展する事が出来る。
言わば、チェイサーミサイル自体があの新素材の試作なんだ。まぁそんな事を聞いたらアランさんは怒るだろうけれど。彼も他人の知識、技術を流用しているのだから文句は言わせないし、言わないと思う。
カスタマイザー専用兵器であったチェイサーミサイルがノーマルの僕でも動かせた。何故、どうして。それはデータを基に調べを進めればいずれ分かる。今はとりあえずそれだけでも良い。
“ワルキューレ”の中にあるデータ、それを見てどうするんだとアランさんは言った。それは彼が僕のことを一パイロットとしてしか見ていないからの言動であって、僕が技術者であるとしればしっかりと理解してくれるはずだ。
しかし、あのガーランド相手に機体性能で優っていても苦戦を強いられる事が分かった。けど同時に機体性能で優っていれば、なんとか引き分けにまで持っていけるという事も分かった。
この月では“ワルキューレ”の修理の他にも得られるものがたくさんあるはずだ。それはやはりカレンさんの様に顔が効く人物の同行が必須だったから本当に助かったよ。
ニウライザの開発も最終段階だとは言っても、長い期間月に滞在するわけにはいかないから早急に作業に取り掛からなければ。
月までの道中、僕は“ワルキューレ”に行うための改修案をデータにまとめた。改修に必要だと思われる物資も“リュウグウ”から持参してある。
あと必要なものは、チェイサーミサイルのデータと弾頭、それから、“ワルキューレ”自体を設計した技術者の意見だ。
チェイサーミサイルがあるからカスタマイザー専用機などという位置付けになっている“ワルキューレ”だけど、それ以外の部分は他のMKと比べても非常に高い汎用性を持っている機体だと言える。
そんな機体を生み出した技術者の意見も改修案に取り込みたかった。もちろんどんな人なのだろうという興味もない事もない。
彼、または彼女は無惨に大破した“ワルキューレ”を見て怒るだろうか、或いは泣くだろうか。
僕の操縦が下手だからと怒るかも知れない。けれど怒られたとしても、意見を交換して一緒に物作りをできれば良いかなと思う。
そう、少し遅れてやってきた彼女、クララ・ハザスと。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!