04-21.アークティック本社
月。豊富な地下資源があるとされ、かつてはそれの所有権を巡って大規模な戦争が起こったという。
奪い奪われが続いていくうちに、天体条約……天体の所有権を各国に認めない条約が締結された。昔は宇宙条約なんてものがあったらしいけど、本当それに限る。天体の所有権なんて争いに直結するものは無くなってしまった方が良い。
近年の宇宙開拓は太陽系の外にまで手が届きそうなので、その条約の強制力も弱まりつつあるのだけれど。
そんな条約の中、最も月に近い位置にあるコロニー群を統括している国がリトアーク・キングダム。エディの母国だ。そのリトアーク・キングダムに所属する企業がアークティック社だ。
天体条約が締結されてはいるけど、アークティック社は月に眠る希少鉱石の採掘やそれを用いたMK開発で多大な功績を上げているので月面の研究、などという名目の下で堂々と月面に本社を構えている超上流企業だ。
開発されたMKは国際連合軍はもとより、レイズにまでも流通しておりダントツの世界シェアを誇る。更には“ソメイヨシノ”の様な極秘傭兵組織とまで繋がっている。つまりは常に様々な思惑が渦巻く世界情勢の真っ只中にある企業だと言っても良いかもしれない。
そんな企業に無事に航海を終えた“ノト”は到着する。
真っ白な月面に張り付く貝殻の様な外観をするアークティック本社に収容された僕たちは早速大破してしまった“ワルキューレ”を修理すべく、ドックに移動させたんだけど、
「おいおいおいおい! なんだこれは、何してくれたんだよ!」
手脚のマニュピレータが欠損しているので身動きが取りにくい“ワルキューレ”をロゼッタ(呼び捨てにしてくれと言われた)に手伝ってもらいながら搬入作業をしていた時、格納庫に文字通り飛んできた白衣姿の男性が大破した“ワルキューレ”を前にして絶叫に近い声をあげた。
彼が“ワルキューレ”の開発者……ではなく、恐らくチェイサーミサイルの開発者アラン・ビルシュターク氏だろう。“ワルキューレ”とチェイサーミサイルは開発のベクトル自体が違うから。
白髪混じりの短髪と無精髭。腕まくりをした白衣から覗く二の腕は筋肉質だが月での生活が長いせいか色白に思えた。
などと思っていると床を蹴り、手すりを器用に伝ってコクピットまでするすると登ってきて中を覗いてきて僕を睨みつけた。うわ、めちゃくちゃ怒ってるよ。あの時のウエハラと同等以上に。そう、今にも僕を殴りつけようとする程に。
「お前がパイロットか!」
と。頷いたら殴られそうなので咄嗟に「違います」と言うと、ウソをつけと速攻でバレた。いやだよ殴らないでくれ。
「ミサイルが反応したと聞いたが。それは本当か?」
「え、ああ、はい。一撃目は反応しませんでしたが……」
「カレン、コイツはカスタマイザーじゃないんだよな」
口調が強いのは性分なのか、そもそも気にしていないのか。会って数秒でコイツ呼ばわりとか割と本当にやめて欲しい。
僕があからさまにいやな顔をしてやると、僕の気持ちを分かってくれたのかカレンさんが肩をすくめてから言う。
「ああ、彼はノーマルだよ。ほら、検査結果もこの通り。それにコイツ呼ばわりは止めてあげてくれ。アランも彼の戦闘データは見ただろう。私は彼ほどのパイロットに出会った事がない」
「ああ、見たぞ。初見で“ファントムクロウ”を5機撃墜したってな。まぁ大したもんだ」
そうやって今度は褒めてくれた。なんだか掴みどころのない人だな、この人がアカギ教授が持ち込んだ例の新素材を独自に再現した人なのか。
確かに少し変わった人だ。だけど確かにパイロットの意思を武器に伝える事が出来た。理屈は分からないけれど、カスタマイザーではない僕の意思を、だ。それには僕自身も技術者としてすごく興味がある。
「エディータ少尉に届けるはずの機体がどこぞの子供が乗ったって聞いて肝を冷やしたが、ミサイルを操作出来たんだから、まぁそれはそれでいい。少し話を聞かせてくれ」
「えと、ああ、分かりました」
僕はロゼッタに手伝って貰いながら“ワルキューレ”をハンガーに固定させるとカレンさんと一緒にアランさんに続いた。
初めて目にするアークティック本社の設備はどれも次世代的なものが多く、タイムリープしてきた僕ですらその設備には唸ってしまった。
ここは現在科学の最先端、アークティック本社なんだと実感してしまった。
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