04-20.月へ
月にあるアークティック本社に出向く為に、僕は“リュウグウ”に停泊していた小型空母“ノト”を借り受けた。
“ノト”はナナハラ重工製の空母の一つで、MK3機を格納できる船倉と宇宙空間を他の小型船に追従を許さない程に早い船速で航行出来る言わば高速輸送船だ。最低搭乗員数もなんと3人。
その代わりに自衛する為の武装を一切積んでいないので、万が一会敵したら船速に任せて逃げるしかない。その為に護衛として“ファントムクロウ”を2機搭載している。
月への遠征について来てくれたのは、今回のパイプ役のカレンさん、護衛役を駆って出てくれたマリオン・シュバリエ三尉とレベッカ・フォーマルハウト二尉。それと操舵の手伝いをしてくれる二曹だ。
マリオンさんとレベッカさんは第一小隊のパイロットで、前回の作戦中にガーランドに撃墜されてしまった2人だ。
機体は大破してしまったけど、2人とも怪我がなく元気だ。怪我が無かったのは僕がガーランド機を引きつけていてくれたからだと言ってくれていて、そんな必要全然無いんだけど恩を感じてくれているみたいだ。
本当、全然そんな事気にしなくていいのに。なんだかんだ言って“ソメイヨシノ”のクルーは義理堅い人が多い様な気がする。
あの二曹も僕なんかのために休み返上で来てくれているんだし。いや、本当はすごくありがたいけど。
何故か“ソメイヨシノ”のパイロットは女性が多い。
うん、そんな気はしていた。そしてこの“ノト”にも男は僕と二曹だけだ。いや、本当助かるよ、自分から月行きを言い出しておいてなんだけど、気づいたら女性ばかりなんだもん。
さすがに女性だけの艦となれば、僕もそれなりに気を使わなければならないし。
◇
“リュウグウ”を出発してしばらく。巡行モードに移行してオートパイロットに切り替えると、艦内は落ち着いたムードが漂った。
艦橋の隣にはリビングのような部屋が備え付けられておりドリンクも気安く取れる様になっている。
皆思い思いのドリンク入りのパックを持参してソファに、椅子に腰掛ける。会敵の確率もない事もないけど、アークティック社の配慮で、それに準ずる輸送船にカモフラージュしているし電子パスもある。
うん、そんなものまで用意してくれるなんてやっぱりアークティック社は〝ど〟ブラックだったよ。
尚、巡航中でも艦内には人工重力が設定されている。身体を無重力になれさせてしまうと体力低下に繋がる為だ。とはいえ、せめて寛ぐ時くらいはと今は月ほどの重力に設定してある。
動く度にマリオンさんの長い金髪がふわふわと揺れて大変そうだった。それと、その、
「あはは、マリオンの胸揺れすぎだろ」
「嫌ですわ、見ないでくださいまし」
「いやノーブラだろそれ、あざといぞ」
目に毒だ、僕は見ないぞ。などと思っているとレベッカさんがこんな事を言う「ロゼッタは楽だな、乳揺れないんだから」と。
ん、ロゼッタって誰だ。ロゼッタって女性の名前、だよね……って、ああ、ウソ。そういう事だったのか。
「ぼ、ボクだってそのうちお姉ちゃんみたいに大きくなるはずなんだから!」
と顔を真っ赤にして怒る二曹殿改め、ロゼッタちゃん。二曹殿は、そうか女の子だった……え、てことはこの艦の中に男は僕だけって事なの?
というか、僕、二曹、改めロゼッタさんにめちゃくちゃ失礼じゃないか、謝った方がいいのかな。いやいや謝ったら逆に失礼だ、落ち着け僕。
「でもコータはどこでそんな腕を磨いたんだ? 国連のテストパイロットに選ばれてる時点でエリートなのはわかるけどさ。まさかあのガーランドと引き分けるとは思わなかったぞ。おまけにオツムの出来もいいときてる」
「いや、でもガーランドと決まった訳では」
などと自分の中の自分と会話しているとロゼッタさんのお姉さん、レベッカさんがソファに胡座をかいてそんな事を言った。
金色の短髪を7:3に分けた活発な髪を撫でる。ロゼッタさんとは恐らく倍ほどは歳が離れているだろうレベッカさんはカッコいいお姉さんと言った感じの人だ。
「いえ、あれは間違いなくガーランドですわ。ヤツの肉声と“ワルキューレ”が受信した音声が一致したではありませんか」
と、丁寧な言葉を使うのはマリオンさん。ふわふわとした金髪とエメラルド色の瞳、カレンさんと同じくらい長身だから、多分185cmくらいあると思う。すごくスレンダーで容姿も整っている。どこかの王国の騎士階級だった人らしく、気品もあるすごく綺麗な人だ。
「次出会ったら◯◯を◯◯して◯ァックしてやりますわ」
「それいいな! あはは!」
けどたまにこうしてF用語連発するんだよなぁ……。いや、男の兵にはそういう人多いけどマリオンさんが使うとギャップが半端ない。レベッカさんも膝叩いて笑ってるし。
あれ、今思えば僕以外全員レイズ出身者じゃないか。数ヶ月前の僕には想像出来ない状況だ。
レイズでもやはりガーランドの名は知れているようで、当然と言えば当然なのだけど、国際連合では英雄視されているガーランドだけど、レイズでは真逆で死神扱いされていたらしい。
そしてガーランドの部隊にはカスタマイザーが多数所属しているのではないかと、もっぱらの噂だったそうだ。
軍を代表するガーランドであるから、当然その直属の部下も手練れ揃いだろうけれどそれでも化け物じみた動きをする者が多数いたそうだ。
それは国際連合側にはない常識だった。その常識がなかったのでカスタマイザー研究施設からガーランドと思しきパイロットが現れてもすんなり納得したのだろう。彼女たちからしてみたら「やっぱりそうだったか」と、そういう事なのだろう。
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