04-18.遭遇
「……ガーランド!」
接触回線から聞こえてきたその声はあの日、“ダリア”から発せられた声そのものだった。
聞き間違えるはずなんてない。耳の奥、脳にこびりついて離れないあの冷たい声と言葉。
無理だ、諦めろ。そう言い放ったあの声。
全身が震え、操縦桿を握る拳がギリと音を立てる。
レイズが運営しているであろうカスタマイザー研究施設から出撃してきた。やはりレイズとカスタマイザーと関係があったのか。5年後のあの事件の準備をこんな早い段階から始めていたなんて。いや、もちろんその考えには至っていた。
でも実際にこうして現実を目の当たりにするとショックだった。
国際連合を守るために戦い、〝聖騎士〟と呼ばれる英雄にまで上り詰めた男が敵国と結託してテロの準備を始めている。
『……』
「やはりガーランドか!」
たった一言で気づかれるとは思わなかったのか、名前を言い当てられたガーランドは口をつぐんだ。
そうだ、確かにたった一言。でも僕がヤツの声を聞き間違えるはずがない。
だってコイツはリオを、リオを……!
僕は“ワルキューレ”のポテンシャルで力任せにガーランドの“ラッター”を押し切ろうとする。
しかしヤツは機体を巧みに操り、“ワルキューレ”の力を逃して逆に弾かれる。ガーランドは素早い動きで90mm、いや、口径が大きい。恐らく120mmマシンガンを発砲。カメラなどが割れては困るので頭部のみシールドで防ぐ。ルナティック装甲は120mm弾だとて無効化する。
それに気づいたガーランドは直ぐに射撃を中断、同時に“ラッター”は背を向けて移動を図る。
真空、無重力の宇宙空間でのMK戦ではポピュラーな戦い方、まるで戦闘機の様なドッグファイトのような戦闘方法だ。
態勢を立て直してすぐに後を追いかけて追撃を仕掛ける。
頭部バルカンで牽制しながら右腕にマウントしたフォトンライフルを構えて照準、発砲。
青色のフォトンビームが“ラッター”の背部に迫るが紙一重で身を翻して回避する。
真後ろからの射撃を躱した!?
機体を蛇行させるでもなく、ほんの少し機体を捻っただけ。たったそれだけでフォトンビームを躱すなんて。背中に目が着いている様な、そんな挙動だった。
もちろんMKには死角になりがちな背後をカバーする為に様々なセンサーが搭載されている。それは第2世代MKである“ラッター”も例外では無い。
しかし見えているから躱せるというわけでは当然無い。まるでそこに弾丸が来るのがわかっているかの様な……。
一発、二発と射撃を行うが結果は同じ。機体スピードはこちらの方が上なはずなのに距離が縮まる事はない。でも、逃がさない。
「墜とす!」
頭部バルカンで牽制し、“ラッター”の回避方向を誘導、或いは限定させる。そしてフォトンライフルを放つ。しかし、回避される。それを何度か繰り返していくうちに、ほんの少し反応が遅れた様に見えた。ようやく見せた一瞬の隙。それを逃す心算はない。ここぞとばかりに照準して、発砲した瞬間に“ワルキューレ”の周囲で爆発が起こった。
警告。左腕、左大腿部が欠損。
ルナティック合金を打ち破るほどの攻撃!?
それに一瞬で思い至る。爆発、そう、グレネードの類いだろう。恐らくガーランドが逃げながら置いていったグレネードをモロに食らってしまったらしい。
悪態をつく間も無くガーランドが駆る“ラッター”が反転、マシンガンを構えて発砲、マントを貫き被弾する。しかし効果が無いのに気付いたのか、フォトンセイバーを引き抜いて斬撃を繰り出す。
僕は“ラッター”にフォトンライフルの銃口を向けるが発砲には間に合わず、一閃で切り捨てられる。フォトンライフルは両断されて爆発を起こす。それと同時に右腕マニュピレータが吹き飛んだ。
苦し紛れに頭部バルカンを放ち、後退する。すかさずガーランドが距離を詰めてくる。そう、僕にとどめを刺す為に……。
シールドもセイバーもライフルも失った。バルカンも残弾が少ない。そもそも両腕が無ければ武器が扱えない。万策尽きたか……いや、まだ“ワルキューレ”にはあの武器がある。
「チェイサーミサイル!!」
照準している暇などない。素早く武器を選択して親指のトリガーボタンを押し込む。すると腰部にマウントしてあった3基のミサイルが射出された。
意表をつけたか、そう思ったがガーランドは二発を素早く回避、もう一発は腕部に内蔵されている12.7mmチェーンガンの弾幕で撃ち落とした。完全に意表を突いたはずだ、しかし、それをも難なくクリアされる。
本当に“ラッター”か、そう疑いたくなる様な俊敏な動き。これが〝聖騎士〟の実力か。
でもほんの少し時間が稼げた。両膝のスラスターで素早く後退。
「もう一度だ!」
今度はキチンと照準してチェイサーミサイルを放つ。三つのミサイルは白い糸を引き、まっすぐに“ラッター”に向かう、はずだったが、もう既にそこにガーランドはいなかった。
「くそ、早すぎるだろっ!」
僕がトリガーボタンを押す瞬間に回避行動を始めていた。まずいと思って発射を中止しようと思った時にはもう遅かった。
最後の最後の武器、残り三発だったチェイサーミサイルはあらぬ方向に飛翔していく。僕の心に虚無感が広がっていった。
これを外したら、もう頭部バルカンしか残されていない。そうなれば全力で逃げるしか……いや、その選択肢はない。僕が引いたらコイツは“ソメイヨシノ”の元へ向かうだろう。対艦武装は持ってはいないみたいだけどガーランド相手では無傷では済まない。
これが当たらなければ、後がない。
チェイサーミサイルはカスタマイザー専用兵器。そう、カスタマイザーじゃなければ曲がらないのは分かってる。でも、これを外したらおしまいだ。
頼む、頼む、曲がれ、曲がってくれ!
「曲がれ……!!」
そう念じた瞬間、“ワルキューレ”のシステムが反応して360°モニターに【Chase】の文字が表示された。
白く細い尾を引いて飛翔していた三つのミサイルが急角度に曲がり、ガーランドが駆る“ラッター”に向けて方向を変え、そのまま着弾した。
でも〝聖騎士〟の異名は伊達ではない様で、咄嗟に一基のみ叩き落とした。しかし残りの二基はそれぞれ右肩と右脚に当って機体を大きく損傷させた。
互いに動く事もままならない状況になってしまったけれど、すぐに味方機が来て回収してくれた。
追撃……は、無理か。
けど追撃した所で何の意味もない。僕の持つ全てを駆使してもガーランドが駆る“ラッター”に勝てなかった。
これほどの性能差がある機体を以ってしてもガーランドとの技量差を埋めるには至らなかった。
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