04-17.イレギュラー
カスタマイザーの研究施設から飛び出してきたMK達の全てはレイズで開発され、生産されてきた量産機“ルビリア”だ。
広い視野を獲得するための大きなバイザーアイ、両側頭部のブレードアンテナ。やや丸みを帯びた装甲。背面に装備したスタビライザはまるで航空機のようだ。“ルビリア”はアークティック社で製造された“ティンバーウルフ”と同コンセプトで作られたとされており、それよりは後発機だ。
故に“ティンバーウルフ”の問題点が改善され、より使いやすい機体に仕上がった……などという話もあるけど、僕は“ティンバーウルフ”より扱いやすい、整備しやすい機種を知らない。敵国の機体であるから触れた事はないので真相は分からないけど、本当かどうかは少し怪しい。
そもそも“ティンバーウルフ”の問題点ってなんだ。
けどまぁ、確かに機体スペックは名機と言われる“ティンバーウルフ”に引けを取らない。全てはパイロットの腕次第ではあるけれど、パイロットのもつポテンシャルを最大限に引き出す機体なんだそうだ。カスタマイザーが乗り込み、戦場で出逢えば場合によっては手がつけられない脅威になり得る。
その噂に違わぬ動きを見せる“ルビリア”。でも、こちらはそれを凌駕するジェネレータ出力を誇る第4世代MKだ。それに更なる発展を遂げさせている。
数ヶ月の間に“ファントムクロウ”や“ライオウ”は格段にパワーアップした。
しかし、戦闘を開始してしばらく。こちらが優勢であるとそう感じ始めた最中に味方機間の通信が混乱し始めた。
『こちらシーガル3、背後を取られました! 引き剥がせな――』
『シーガル3、どうした!? ――くそ、マリオンがやられた!』
『レベッカ、落ち着いて! 隊列を組み直す、一旦後退――『んなこと言ったって――』レベッカ!?』
味方機からの識別信号がひとつ、またひとつと消えていく。戦場でイレギュラーが発生しているのは明らかだった。
僕は迷わず“ワルキューレ”の出力を上げて現場に急行した。
◇
現場に急行して直ぐに戦場を引っ掻き回した張本人と対面……いや、対峙する事になった。
“ライオウ”は中破、大破した“ファントムクロウ”を守りつつ数機の“ルビリア”を相手している為にこちらに駆けつけられない。
研究施設から飛び出してきたからにはあちら側の守備隊であると想像できる。現に接近するワルキューレに気付くと相手にしていた第一小隊の機体を蹴り飛ばして一直線にこちらに向かってきた。
黒と濃紫を基調とした機体色。丸みを帯びた頭部、ガスマスクを連想させる面構え。動力パイプや所々の装甲が塗装されておらず剥き出しの状態になっているところから想像するに、修理中なのか、それともまだ完成していないのか。
『――』
なんだ、何かを感じる。
いつも戦っている時に過ぎる感覚とは違う何か……。これは……相手パイロットの意思?
『――』
真正面から向かってくる黒色の機体がフォトンセイバーを引き抜いて黄金色の刃を展開させる。それに合わせて僕もフォトンセイバーを引き抜かせる。
一合打ち合う。
フォトン粒子同士がぶつかり合い、雷光の様な光が互いの機体を照らした。
ここまで来てようやくその機体に気付く。これはカスタマイズされてはいるが、サンクーバの時に戦った機体“ラッター”だ。
前大戦、レイズの主力となった量産型のMK。それがこの“ワルキューレ”と互角に打ち合っている。
そう、それは信じられない事だった。
第2世代MKである“ラッター”と第4世代MKである“ワルキューレ”の単純なジェネレータ出力は倍程も違う。それが正面から打ち合って押し切れない。
改修を施した“ファントムクロウ”も歯が立たず数機が墜されてしまった。これだけのスペック差を埋めてしまうほどの実力を持ったパイロットが操っているという事か。
出力では圧倒しているはずなのに全く押し返せない。
『……受けたか』
「っ!?」
僕が自身の技量不足を感じ、歯噛みしていると【接触回線】を通して相手パイロットが呟いた声が聞こえた。
太く低い、男の声だった。
僕はその声を聞いた事があった。忘れもしない。
そう、忘れたくても忘れられない男の声。
僕と、僕の大切な女性の命を奪った張本人。新兵を虐殺した極悪非道のテロリスト……!
「……ガーランド!」
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