04-15.彼が与えたもの ※アスカ・ウエハラ視点
※アスカ・ウエハラ視点
カスタマイザー研究所がある宙域に停泊した“ソメイヨシノ”からゆっくりと出撃した私は“ライオウ”を艦の左舷に寄せて待機した。
私が編入した第一小隊の全機が配置に着き次第、“ソメイヨシノ”の主砲を発射する。もちろんわざと照準を外して。
その威嚇射撃に驚いて発進してきた敵MK部隊を直接叩くのが今回の私たちの仕事だ。
今までに何回か別の場所にある施設を攻撃した事があるけど、どの施設の守備隊にも必ずと言っていいほどカスタマイザーが混じっていた。
配備されている機体は平凡でも、パイロットがカスタマイザーであればそれは脅威になりえる。
毎回と言っていいほど苦労したし、正直、命からがら逃げ帰って来たこともあった。こちらから仕掛けておいて情け無いけど。
だから今回も多分カスタマイザーが混ざっている。
でも、今の私たちなら十分に対応出来ると言い切れる。それは私たちがレベルアップした、というわけではなく、私たちの機体が格段に強化されたからだ。そう、それは紛れもなくコータがもたらしたものだった。
正直、私には科学とかMK開発の知識とか全く分からないから理屈は分からない。けれど彼がもたらした技術が異次元じみているものだというのはよく分かる。
ニウライザ開発の実質的な主任を勤めながらも“ファントムクロウ”や“ライオウ”の改修にも携わった。それに新兵器の開発まで手掛ける。
更に自分でMKの整備もこなし、終いには自らの手でそれを自在に操るパイロットだ。彼の腕に敵うものはこの艦にはいない。エースだと言われていた私も結局は彼から一本も取れなかったのだから。
当初持っていた彼に対する憎悪はもう影を潜めてしまっていた。それ程に彼が“ソメイヨシノ”にもたらした影響は大きい。
この3ヶ月間で私の“ライオウ”は変貌を遂げた。
カレンが生み出したこの機体を彼が生まれ変わらせたのだ。
艦橋からの合図で主砲が放たれる。すると巣を突かれた蜂の様に十数機のMKが出撃してきた。
肉眼では確認出来ないが、“ライオウ”の高性能機光学センサーがそれを捉えた。
『隊長、準備は良いですか?』
「隊長はユースケでしょ」
『そう、でした。ははっ、私の中で隊長と言えば隊長ですから』
「いや、分かるような分からないような」
ワイプに映るヨーコはペロリと赤い舌を出しておどける。全く緊張感のない子だ。でも、あんな大怪我をしたのにまたこうしてMKに乗っているんだから、その心は大したものだと思う。
そうだ、ヨーコのあの義手ですらコータが与えたものだったわ。
「シーガル1から各機へ。散開し敵機を迎撃。パイロットは殺さないで。以上、行動開始」
『『了解』』
“ソメイヨシノ”に寄り添う様に待機していた8機の“ファントムクロウ”が私の合図で散開して迎撃に向かった。背面スラスターから噴出される粒子が流星の尾の様に見えた。
「コータ、アンタはそこで待機。“ワルキューレ”は相変わらず燃費悪いんだから」
『分かってます。あなたこそ機体壊さないでくださいよ』
A.F.C.マントに身を包んだ“ワルキューレ”は私たちの機体よりも活動時間が短いのは改善しきれていないので、“ソメイヨシノ”の傍らで待機だ。
そうならない様にはするつもりだけど、何かあったらすぐに駆けつけてくれる手筈になっている。
私はコータとそんな軽口を叩き合ってから皆より少し遅れて発進する。
この“ライオウ”なら今からでも十分陣形の先頭に立てる。
「ヨーコ」
私のその一言で全てを理解したヨーコが短く言う、『“ライオウ”発進します』と。
◇
コータによる改修が施された新しい“ライオウ”には操縦者の動きをそのまま機体に反映させるモーショントレースシステムが搭載されている。
理屈とか仕組みはもちろん全然分からないけど、専用のパイロットスーツに身を包んだ私と同じ動きをするようにしてくれた。
もともと人体に近い動きが出来る機体だったけど、まさか本当の意味で思い通りに動く様になるとは思わなかった。
最初にその仕組みの事を言われた時に思った。飛んだり跳ねたり、移動はどうすれば良いのかと。
MKはマシンだ。人間と同じように歩いたり走ったりは出来るとしても、スラスターダッシュやジャンプはどうしたら良いのか分からなかった。
今まで両手両足で行っていた操作が出来なくなってしまった。
けどもちろんコータは手を打っていた。そう、2人乗りにしたんだ。
モーションは私が、それ以外のオペレーションは復帰したヨーコが担う。
2人の息を合わせなければ上手く立ち回れない。もちろん特訓はしなければいけなかった。でも私とヨーコにとっては難しい事ではなかった。ヨーコは若いけどセンスがあるパイロットだし、コータの用意した高性能の義手をよく使いこなしていた。
仲間の命を奪ったコータが設計した義手を使う事に抵抗はあっただろうけど、カスタマイザーを根絶させようという想いは同じであると知り、彼女なりの葛藤はあっただろうけど、それでもなんとか飲み込んで。それすら力にしたヨーコは本当に強い女性だと思った。
高性能の義手になったとは言っても、まだ使いこなせているわけではない。
でも、だからこそ、私の第二の手足になって私をサポートしてくれる。……いや、違うな。
ヨーコと私は2人で一つの機体を駆るパートナーだ。
『隊長、行きます』
「うん」
私の短い返事を聞いたヨーコの操縦で新生“ライオウ”は宇宙を駆け出した。
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