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04-11.赤いモビルナイト


 宇宙空間に機体を滑らせ、所定の位置に移動させる。その間に機体各所、装甲の間などに潜ませている姿勢制御用スラスターが小さく、細かく噴射して姿勢を安定させる。


 身に纏わせたA.F.C.マントが靡かないのは機体から放出される微細な磁力によりまとまりを持たせたからだ。これで戦闘にも支障はない。


 真空。音のない世界。太陽光が“ワルキューレ”のルナティック合金製の装甲を容赦無く照らしていた。


 僕が発進してしばらくもしない内に“リュウグウ”から流星じみた赤色の一筋の光が飛び出してきた。ウエハラが駆る“ライオウ”のスラスターの噴射光だった。やはり機動力に重きを置いた機体なだけあって、足が速い。計測した“ライオウ”の速度は“ワルキューレ”の最高速度に近い。出撃して直ぐなので全力稼働しているとは思えない。

 “ワルキューレ”より20%程、いや、もっと早いかもしれない。


 ウォーミングアップのつもりなのか、数回蛇行してから“ワルキューレ”と一定の距離を空けて停止した。映像を拡大させて“ライオウ”の武装を確認。やはり飛び道具、銃の類は持っていないようだ。


『ようやくアンタと戦えるわけね』


 モニターにバストアップのウエハラの姿がワイプで表示される。大きな吊り目が僕を見据える。僕を打ちのめすのを心底楽しみにしている、そんな様相を呈していた。


「楽しみにしていたんですか? 戦闘民族じゃあるまいし」

『ふふ、戦闘は好きよ』


 ウエハラは弾んだ声でそう言うと、にたぁと口端を釣り上げた。いやいや普通に怖いよ。


 艦橋のシナガワ一曹の合図でカウントダウンが始まる。今回の模擬戦は一対一の決闘方式だ。

 相手の機体に仕込んであるレシーバーを反応させて一本取った方の勝利だ。

 有効無効の判断はインストールしてあるソフトウェアが判定する。


 カウントダウンが進む。あと5秒。


 (はた)から見たら僕は猛獣がいる闘技場に投げ入れられた奴隷に見えるかもしれない。

 その上、猛獣は飢えに飢えさせられてようやく目の前に出された食事を前に舌舐めずりをしている。


 けど僕に大人しく食われてやる心算などない。


 僕には剣が、盾がある。“ワルキューレ”がある。


 カウント、ゼロ。

 

『START』


 360°モニターにその表示が表われた瞬間に正面に小さく映っていた“ライオウ”が猛烈な加速をして間合いを詰めてくる。背部スラスターから噴出した赤い粒子が彗星の様に尾を引いた。


 極端な軽量化と次世代ジェネレータの出力を関節トルクに極振りしたピーキーな機体“ライオウ”。

 超近距離戦を得意とした“ライオウ”はやはり機動力を活かして距離を詰めてきたか。


 純粋に力とスピードで勝負をつける気か。


 ならば迎え打とうと、僕は“ワルキューレ”に腰部にマウントしていた模造剣を右腕マニュピレータに装備させて構える。この間、ほんの数瞬。

 空気も重力も無い宇宙空間。しがらみから解き放たれた“ライオウ”は今まで見たどのMK(モビルナイト)よりも早かった。


 正面からか。


『――』


 違う、これは、上。


「!」


 急角度で軌道を変え、視界から消えた“ライオウ”が上方から斬撃を繰り出した。これが宇宙空間での戦闘か。上も下もない自由な戦い方が出来る。


 いつの間にか飛び込まれた、この間合いで、懐で振れる武器?


 見れば逆手で握られた一対のナイフ型の模造剣だった。素早く繰り出された両手の斬撃を僕は剣とシールドで、更に放たれた蹴りを足裏で受け止めて蹴り返す。それぞれを何とか捌いて膝部スラスターを焚いて後方に退く。


 なんて素早い連撃だ。捌けた自分に自分が一番驚いていた。繋いだままになっている艦橋との通信先でどよめきと歓声が起こった。

 いや、うん、僕もまさか捌けるなんて思わなかった。というか、それを思う間もなかったけど。


 どうやらそれはウエハラも同じ様で、受け止められたのが信じられないと言った様子で目を丸くしている。この模擬戦ではジャミング粒子は撒いて無いからこうして方々に通信を繋いだままに出来る。

 

『受け止めた!? なら……!』


 でもウエハラはそんな事は気にしていない様子で次手に移る。そう、思考を、動きを止めてはいけないんだ。僕も受けてばかりではなく攻撃に移らなければ。


 けれどウエハラもそう簡単に反撃を許してはくれない。


 素早く力強い斬撃を繰り返してくる。それを剣とシールドでなんとか防ぐ。僕も隙を見て、いや、隙なんて1ミリもないんだけど、それでも隙を作ろうと頭部バルカンで牽制する。


 けどウエハラも巧みに機体を操って回避する。


 ……認めたくないけど、ウエハラの操縦技術は卓越していた。

 

 これが“ソメイヨシノ”のエースの力なのか。


『防戦一方じゃない! 打ち返してみなさいよ!』

「言われなくても!!」

『ふふ、楽しい! 楽しいわ!』


 ワイプに表示されたウエハラが獰猛な笑みを浮かべてそう叫ぶ。


 くそ、バトルマニアめ。狂気しか感じないんだけど。


 防戦一方では勝てない事だって分かっている。

 あの感覚と“ワルキューレ”の反応速度の速さで何とか対応出来ているけど、ジェネレータの出力は最大にしないとウエハラの動きに対応出来ない。

 

 ジェネレータ出力の値を示す計器は針が振り切れそうだ。つまり“ワルキューレ”の活動時間は3分も無い。


 “ライオウ”の動きを目で追い、手脚で“ワルキューレ”を駆り、頭で対応策を考える。


 対策が浮かび、実践、それがすぐに打ちひしがれる。

 拳で、蹴りで僕の策を次々に打ち破る“ライオウ”……いや、ウエハラ。


 どうしたら一本取れる、どうすれば。



 

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[一言] 白と紅の激しい近接戦だとランスロットと紅蓮のバトルが思い浮かぶw
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