04-10.空間戦用意
“リュウグウ”に停泊して補給を受けている“ソメイヨシノ”の格納庫。そこで僕は“ワルキューレ”に乗り込み、発進の準備を進めていた。
二曹に貰ったヘルメットも僕のパイロットスーツにピッタリとマッチしており、無事テスト運用を終えたところだった。
初めての宇宙空間での操縦は確かに慣れるまでは難しかったけど、シミュレータと要領は同じだったので感覚を掴むのは割と容易だった。
僕の場合はシミュレータよりも実践の方が上手くいく傾向にあるから、今回もやってみてから考えようという精神でトライしたような状況だ。
そして今はいよいよ“ソメイヨシノ”のエースパイロットであるウエハラとの模擬戦の日だ。
いよいよと言うほど楽しみにはしていなかったけどね、いや、でもあの赤い機体“ライオウ”には興味をそそられてはいたけども。
あの極端な調整をした機体をどう操るのか、どう操ればあの機体を上手く使えるのか、それに関してはとても楽しみにしていたと言っても良いかも知れない。
問題はウエハラの持つ技術や、“ライオウ”が持つポテンシャルを僕が引き出す事が出来るのか、という事だ。
どれだけ強力な機体を持っていたとしても、僕が彼女にとって本気を出すに値する実力を持っていなければそれは叶わないんだから。
戦闘経験はもうゼロではないし、何人かの屍は、越えてきた。けれど相変わらず僕は僕の腕に自信は持てていなかった。
『……以上が模擬戦のルールです。演習宙域のエリアは“ワルキューレ”に転送済みです。エリアを出ても負けにはなりませんが、こちらからモニター出来なくなってしまうのでなるべくエリアは出ないでください』
“ワルキューレ”のコンソールパネルを弾いて各部のチェックをしていると、艦橋にいる通信兵が戦闘可能エリアのデータを転送してきた。
確かにエリアは限定されているけど、相当に広い宙域が指定されている。これならどれだけ動き回っても大丈夫そうだ。
「分かりました。繰り返しになりますが、周辺の宙域の索敵は終わってますよね?」
『周辺宙域にデブリ以外の艦影、機影無し。引き続きドローンによる警戒を継続します。心置きなく戦ってください』
周辺宙域の監視は光学センサーをはじめ多彩な索敵手段を持ったドローンを方々に放って索敵を行ってくれていた。
僕としては味方、つまりは国際連合軍に“ワルキューレ”を捕捉されたら厄介なので、それの懸念があってのことなのだけれど、“ソメイヨシノ”は“ソメイヨシノ”で秘匿性の高い部隊だ。一応マントで機体は隠しているとはいえ、念には念をだ。
敵対する部隊に捕捉されると厄介なのは“ソメイヨシノ”とて同じ事。ましてや試作機である“ライオウ”を発進させるんだから、その必要性は高いだろう。
僕は艦橋にいるシナガワという通信兵にお礼を言う。すると彼女はアナウンサーのようにハキハキとした、そして澄んだ通る声で応えてくれた。
「ありがとうございます」
『“ワルキューレ”、模擬戦用武装をマウント後、射出用カタパルトへどうぞ』
模擬戦用武装とはレーザーライフルと刃を落とし、代わりに強化ゴムで刀身を保護した模造剣、言わばMK用の竹刀の様な物だ。
ライフルの方は可視性のレーザーを発射出来、対象の装甲に潜ませてあるレシーバーで受信して当たり判定を行う。
地上で行った模擬戦のようにゴム弾を使う方法もあるけど、宇宙にはゴム弾を形成している自然由来成分を分解するバクテリアがいない。少しでも宇宙ゴミを少なくしようというアヤコ先輩の配慮だった。
“ワルキューレ”の脚部をカタパルトに乗せると人工重力がカットされ、身体がふわりと軽くなる。この感覚は先立って行った空間機動の訓練で味わったけど、まだこの感覚には慣れないな。いや、不快じゃなく。面白い感じがするから好きだったりする。
『各乗組員に通達。これは実戦ではない、模擬戦です。繰り返す、これは模擬戦です。第一カタパルトから“ワルキューレ”発進します。パイロットは発進して下さい……あ、いえ、少しだけ待ってください』
「……?」
なんだろうと思っていると艦橋と動画通信が繋がれた。表示されたのは白い軍帽を被ったアヤコ先輩だった。
『コータくん、アスカの無茶な申し出を受けてくれてありがとう。きっと彼女のスキルアップに繋がる』
「いえ、僕も空間戦は初めてなので。貴重な経験です」
と言うと、僕が宇宙で戦った事がない事を今知ったのだろう、アヤコ先輩の後ろのクルー達が少し騒めいた気配があった。
「初の相手がウエハラ三佐?」「トラウマにならなきゃ良いけど」とまるで同情されている様子である。いや、まぁ、そうなるよね。
負けるつもりはもちろん無いけど、僕だってそう簡単に勝てるとも思っていない。
一矢報いるつもりですとアヤコ先輩に伝えると、彼女はふっと笑い「アナタに100ドル賭けてるんだから頑張って」と激励されてしまった。
え、ちょっと待ってよ、マジか、アヤコ先輩も賭博に参加してたのか。真相はどうであれ、僕をリラックスさせるために言ってくれたのか?
いや、でも僕の知るアヤコ先輩はそういう遊びじみた事をする人だし、もしかしたらもしかするかもしれない。
けど、僕の立場はすごく微妙な位置にある。だからせめて楽に臨める様に彼女なりに気を遣ってくれたのかな。
「ありがとうございます」
『いえ、こちらこそ。気をつけて』
僕は彼女の心遣いに感謝してから短く言って操縦桿を押し込んだ。
「コータ・アオイ、“ワルキューレ”、行きます」
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