04-09.外套
大気圏を離脱した“ソメイヨシノ”は直ぐに電磁迷彩を身に纏い暗闇に身を隠す。これで光学センサーで捉えられない限り発見されるリスクはかなり減った。そしてこの広い宇宙空間で光学センサーのみで発見するのは非常に困難だ。
闇に紛れてたどり着いたのは恐らくソメイヨシノ隊の基地だと思われる施設だった。
巨大な艦体を持つ“ソメイヨシノ”を丸々収容できるドックを持つその基地は、巨大隕石をそのまま利用し、偽装した宇宙基地。
クルーから“リュウグウ”と呼ばれるその宇宙基地で“ソメイヨシノ”は長旅の傷を癒し、補給を受ける。カスタマイザー研究所に襲撃を仕掛ける心算みたいだけど、補給無しで突撃するなんて事はしないみたいだ。
それはそうだよね、研究施設とはいってもその存在は禁忌のものだ。それを守る為の守備隊は絶対に居るはずだから、入念な準備が必要だと思う。
今まで艦内のみで行われていたニウライザの開発研究も“リュウグウ”に滞在している研究員と合流したことでより効率的に行えるようになるはずだ。
僕はカレンさんの部下でもあるその研究員達に申し送りをして、数回の会議を終えてから“ソメイヨシノ”艦内の格納庫に保管してある“ワルキューレ”の元へ向かった。
“ワルキューレ”以外の機体は基地にある整備用ドッグに移動して調整が行われる。
本来なら“ソメイヨシノ”より広い設備がある基地のドッグで整備を行った方がいいんだけど、出来るだけ人目に晒したくないという僕の要望にソメイヨシノ隊が応えてくれた形だ。
“ソメイヨシノ”に収容されていた機体は例の【FXカーボン】を用いた改造を全ての機体に施すみたいなのでかなりの作業量になるから、それなりに日数もかかると思う。
全装甲の裏面にFXカーボンを貼り付ける作業自体はそんなに大変なものでもないと思うけど、それでも初めて行う作業だろうから慣れるまでは手こずる事もあるかもしれない。
僕にも依頼していた資材が届いているはずなので、今日はその資材を使った施工をするつもりだ。もちろん僕の役割はニウライザ開発であるし、今の時間は開発チームも稼働しているので、いつでも駆けつけられるように心づもりはしておく。
模擬戦は近日中に基地周辺の宙域で行われる予定になっている。
最近は当然だけど“ワルキューレ”での戦闘はしていないし、機体も宇宙に対応できるセッティングにしてあるので、大きな作業はその資材の加工と取り付け。
依頼していた素材とは他ならぬ対フォトンコーティング加工が施されたFXカーボン。そう、僕がカレンさんに教えて、今まさに“ファントムクロウ”を中心とする機体に取り付け作業が行われているあの素材を“ワルキューレ”にも取り付けようとしている。
装甲に高い硬度を誇るルナティック合金を使っている“ワルキューレ”に対して、“ラッター”や“ザブロック”、“ティンバーウルフ”などの従来機にも使われているセラミウム製装甲を採用している“ファントムクロウ”。
“ファントムクロウ”の追加装甲を外して機動力を確保する代わりに失った防御力を補う為に利用するのがこの対フォトンコーティング加工を施したFXカーボンだ。
ではなぜ“ファントムクロウ”とは違い、既にルナティック合金製の装甲を持つ“ワルキューレ”にFXカーボンを用いるのかというと、主な目的は防御力の向上に期待した物ではない。いやもちろんその付加価値にも魅力はあるのだけど、あくまでも副産物、オマケだ。
今回“ワルキューレ”にFXカーボンを用いる理由は機体の姿を隠すため。
前述した“ソメイヨシノ”が行った電磁迷彩。それを|対フォトンコーティング《A.F.C.》されたFXカーボンに施す。それを“ワルキューレ”にマントの様に纏わせる事により、機体を識別されない様にするための小細工だ。
基本的には機体を隠せさえすれば良いんだけど、せっかくのFXカーボンなんだし、防御力向上も期待したい。
納品されたFXカーボンを高出力ヒートカッターを使って切断。機体に取り付けやすい様にアタッチメントを取り付けて“ワルキューレ”に文字通り纏わせる。
今は人工重力下にあるからマントの様に垂れ下がってはいるけど、無重力になったらヒラヒラとしてしまって視界の邪魔になってしまうかもしれない。
まだまだ改良の余地はあるけど、とりあえずこれで機体を識別されにくくなったはずだ。
“ワルキューレ”のみならずMKの頭部には色んなセンサーが搭載されているからマントで覆うわけにはいかないので、頭部は露出しているけど、応急処置としては上等だ。
肩アーマーに設けたハードポイントに黒いマントを装着した“ワルキューレ”は騎兵の兜じみた頭部も相まって、それこそ中世の騎士を思わせる外観になった。
カッコはいいけど、このままじゃ両腕で扱う武器が使いにくそうだな、マントから腕を出しやすい様にするには……そうか、スリットを入れればいいのか。
全身を覆う必要があるからなるべくFXカーボンの面積は少なくしたく無いし。
それにしてもこのマントなら背中を守るために役立ちそうだね。ヒラヒラして使い方次第ではパイロットが邪魔だと感じる事もあるかもしれないけど。
対フォトンコーティング加工してあるとは言ってもフォトンビーム自体には耐性がないはずだし、実弾に対した防御力は確かにあるけど金属製の装甲に比べたらやっぱり頼りない。しかしその軽さと柔らかさは確かにこの素材の強みだ。使い方によっては気に入るパイロットもいるかも知れない。
けどまぁ、ゆくゆくはフォトンフィールドなどのバリアが普及してくるとこういった類のものは廃れていくんだろうけど。
「フォトンフィールド、か」
フォトン粒子で構成した障壁を発生させる機構、フォトンフィールドの理論は簡単なものではないけど、これだけ早い時期にフォトンライフルが生み出されているんだ、もしかして現時点の科学力でも作成可能なんじゃないのか。そんな事がふと頭をよぎった。
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