04-03.提案
“ソメイヨシノ”の第一格納庫にズラリと並べられたMK達。
第2世代水陸両用MK“ザブロック”。
月に本社があるアークティック社製の第3世代MK、“ティンバーウルフ”。
そして“ソメイヨシノ”の主力でもある第4世代MK“ファントムクロウ”。
それらが立ち並んでいた。そう、立ち並んでいるんだ。
MKを立たせた状態でハンガーに固定して整備する方法はレイズで行われている整備方法として聞き及んでいる。
E.M.Sや“リトルダーナ”などではMKをうつ伏せにし、水平に寝かせての作業をしていたのでこの方法はやった事がない。
整備のやりやすさや、やりにくさは双方にそれぞれあるだろうけど、こういう違いも僕にとっては興味の対象だった。
整備が完了しているであろう“ファントムクロウ”に歩み寄り、ハンガーの足場をカレンさんと二人で登って行く。その間に“ファントムクロウ”の説明を受ける。
構造自体は“ティンバーウルフ”などのMKとさほど大きな差異はない様だけれど、ジェネレータ出力が上がっている為に関節の駆動モーターや各所に潜ませてある機動用スラスターなどを性能が良いものにしてある様だった。
性能が良いもの。ひとことにそう言ってしまうのは簡単だけど、それこそが難しい。
例えば“ティンバーウルフ”に今“ワルキューレ”や“ファントムクロウ”が搭載している高出力のジェネレータを搭載したなら機体に使用されている様々な部品、ネジからフレームやらが一斉に悲鳴を上げるだろう。
機動力を上げるならそれに伴って機体剛性も上げなければならないし、関節モーターやスラスターなどもそれに対応出来る物にしなければならない。それにハードだけでなくソフトウェアも同じく。
それらが全てこの“ファントムクロウ”には施されている。これを更に発展させるとなるとどうなるのか。
次世代量産機としては十分な仕上がりだ、寧ろ完成しているように思う。それをカレンさんに伝えると彼女は“ファントムクロウ”の装甲を指でコンコンと弾いた。
「ふふっ、ありがとう。しかしコイツの装甲がネックなんだ」
「それは……そう、ですね」
「説明は要らないか? 理解が早くて助かる」
僕が合点がいったという風に頷くとカレンさんは苦笑した。
カレンさんが言っているのは“ファントムクロウ”の外部装甲の厚さ、即ち、重さだ。
胴体や四肢に取り付けられたマッシブな追加装甲。それは人間で言えば鎧の様な役割を果たしている。銃弾を弾き、刃を受け止める。機体自体を守る非常に重要な部品であるといえる。
しかし鎧を身に纏えば機動力が落ちる。それだけではなく機体重量が増えれば燃費効率が低下して活動時間の短縮を余儀なくされる。
製造コストの高い次世代量産機を守る為に装甲を厚くしざるを得ないので、代わりに機動力を削っているのだという。
“ワルキューレ”に使われているルナティック合金に換装するという手もないこともないが、大量に仕入れるのはいくらなんでも難しい。
“ソメイヨシノ”の懐事情は分からないからなんともいえないけど、いくらお金を積んでもルナティック合金の元になる鉱石は月でしか採掘出来ないレアメタルだ。入手は困難だと思う。
「出来れば追加装甲を外して身軽にしたい。それでいて同程度の防御力を、そうじゃなくてもそれに見合う機動力を与える方法が思い至らないんだ。そこで君に助言してほしくてね。しかしそんな都合の良い話が「ありますよ」あるはずが…………は?」
カレンさんが紫色の瞳で僕を見る。今までに見たことのないくらいにまんまるな目だった。いつもは切長の目なのに。その変化が失礼かもだけど面白かった。
そういえばカレンさんの瞳の色ってエディの瞳の色に似てるな、なんて思っているとようやくカレンさんの時間が動き出した。
「今なんて?」
「ありますよ、と」
そう言ってから少し思い出しながら僕はカレンさんに説明する。
「ナナハラ重工の子会社に繊維を作っている企業があるでしょう」
「あ、ある……のか、すまない、私は知らないが」
「そうですか、いや、知らなくても仕方ありません。その子会社で作られている【FXカーボン】という素材があります。それに対フォトンコーティングを施してみてください。繊維が変化して硬度が上がることが分かっています……あ、じゃなくて、分かってくるはずです」
しまった、分かっているのは未来での話だった。いや分かってくる筈っていう表現もおかしいんだけどさ。
ナナハラ重工の子会社で作られているその【FXカーボン】という素材はロケットブースターなどに組み込まれており、断熱材として開発された繊維だ。
この時代では誰も気付いていないけど、1周目の人生で偶然発見された裏技的な方法。
断熱効果の高い繊維なので排熱処理をしたい箇所には使用できないが、例えばシールドの内部に貼り付けたり、コクピットブロックの防護に用いられたりしていた。
【FXカーボン】自体は比較的安価であるし、手に入れやすいと思う。
この方法は数年後に偶然発見される方法だし、カレンさんが知らないのも無理はない。
ただメイン装甲としての役割は果たせないから、防御力の低下は否めない。けどその分、機体を軽くして機動力を確保する。つまり今のカレンさんの要望には最適だと言える。
「しかし断熱材に|対フォトンコーティング《A.F.C》か。面白い事を思いつく」
「僕が思いついたわけではないんです。耐久力はそこそこですけど、失った防御力に目を瞑っても得られた機動力の利の方が大きいでしょう」
このアイデアはナナハラ重工の息のかかった、かかっているであろう“ソメイヨシノ”に適した方法だといえる。
繊維さえ大量に手に入れば“ファントムクロウ”のみならず“ティンバーウルフ”など他の機動兵器にも使える筈だ。
繊維だけあって非常に軽量で加工もしやすい。整備班も嫌がらないだろう。
他の機動兵器といえば、さっきから異彩な雰囲気を放つ機体が一機、格納庫の隅に佇んでいる。
灯は入っていない。けれど確かに意思を秘めた鋭いツインアイ。額に光る一角のブレードアンテナ。一見細身のシルエット、日章旗を思わせる塗装が施された装甲。
赤いMK。
「気になるか?」
「あ、はい。綺麗な機体だなって」
カレンさんは、恐らく興味に惹かれて輝いているであろう僕の目を見てクスリと笑うと、少し誇らしげに言った。
そう、まるで自慢の我が子を紹介する時の母親の様な表情で。
「あれは“ソメイヨシノ”の試作型MK、“ライオウ”だ。エース専用機さ」
「エース、専用機」
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このお話で100話目です。
まだまだお話は続きますが、変わらずお付き合い頂けますと幸いです。これからもよろしくお願いします。