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シグナル・トラベル  作者: 楽生日々
2/5

2.今の私

キーン コーン カーン コーン


気を付けー礼 ありがとうございましたー…


「か…きっか……菊花ってば!」

「はい!!…って、あれ?」

教室は、すっかり騒がしくなっていた。私は立ち上がったまま、ぼーっとしていたらしかった。


あれ?授業は?


「もう終わったよ、菊花。号令の時からずっと立ちっぱなしだったよ?」

「うそっ。」

あ、ほんとだ。もう休み時間5分過ぎてる。


「ね?」

クラスメートの天草栞(あまくさしおり)が、私の顔を覗いた。背がすらっと高く、前髪のないショートボブが美しい友達は、心配そうな目で私を見た。


「何か悩み事?」

「んー……幸せなやつ?」

「なんだ。そっか。」

しおちゃんは、ほっとした顔になった。


…授業中、アズマイちゃんの聖地巡礼―もとい、卒業旅行の提案のことを考えていた。


言われた瞬間、懐かしい思いで、心がいっぱいになった。

卒業旅行。みんなで思い出の場所巡り。コロナ期間でもできる、小さなこの町での1年早い卒業旅行。

もちろん、私はその提案に賛成した。仲間5人のチャットグループにもメッセージを送り、全員オッケーだった。


どこへ行こう。個人的な思い出スポットでもいいということになったから、迷ってしまう。楽しみだなぁ…


「生きてる?」

いつの間にか、顔の前でひらひら手が動いていた。


「うわ。い、生きてるよ…って、彩ちゃん!」

「どんだけぼーっとしてんだよ。菊花さん。」

はあっ、と鋭いため息をしたのは、隣のクラスの友達、児島彩子(こじまあやこ)―彩ちゃんだった。後ろには、おろおろした顔の大田美来(おおたみらい)―みーちゃんもいた。いつの間にいたのだろう。


「き、きーちゃん、大丈夫?具合悪いの?」

「ううん。ちょっと考え事。」

「なんかノートに書いてあるな…ん?市立図書館に…藤蚕(ふじかいこ)ホール?」

「わああ見ないで!」

慌てて机の上のノートと教科書を片付ける。消すの忘れてた!! 


「な、なんだよ。減るもんじゃないからいいじゃんかよぅ」

「アヤ、人のものはアウトの時もあるよ。」

「えぇ…」

「きっ気にしないで!!消さなかった私も悪いし…」

は、空気悪くなってる…


「と、とにかく、もう授業だし解散しよっか!行こ、あやこちゃん!またね、二人とも!」

「お、おぅ」

「あ、じゃあねアヤ、ミライ!」

「ばいばい!」

彩ちゃんを引っ張りながら、みーちゃんは去っていった。

…気使ってくれたのかな。う、みーちゃんの優しさが心にしみる…


「そんな気にしないでね。アヤは悪気あってやったわけじゃないし。」

「しおちゃんも優しい…!」

「ありがとう。そろそろ座るね。」

「うん。ありがとう。」

ニコと笑って、しおちゃんは席に戻っていった。


教室も廊下も次第に静かになっていく。ドタドタと移動教室に向かう足音は、どこか楽しそうだ。


-この場所も、友達も、私が抱えるこのノートたちも、中学校の頃の私を知らないんだ。


その事実に驚きながら、自分の席に座った。


キーン コーン カーン コーン


あ、次の授業の準備してない。

菊花と栞は理系、彩子と美来は文系です。

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