1.太陽と雪
ふと、カーテンに影が映った。
本を読む手を止め、カーテンを少し上げた。
…あ。
不思議な光景だった。
太陽が世界を照らしているのに、目の前では雪が風に吹かれて舞っていた。
わぁ……
とても美しくて、私はその景色から目が離せなかった。
次第に、心が温かくなっていった。
私―佐藤菊花は今日、自習時間の教室で、素敵な景色を見た。
私は確かにすぐ、みんなに伝えようと思った。大切な、高校の友達たちに。
でも、いつの間にか「みんな」は、中学校のあの青春を過ごした4人の仲間になっていた。
窓の向こうの明るい雪の降る景色を見ながら、私はいろんなことを思い出していた。
図書室。保健室。美術室。授業。先生。そして、みんな…
そこから、行動は早かった。
放課後になった瞬間、荷物をまとめて教室を飛び出した。
会わなきゃ。ずっと会おう会おうと思ってばかりで、でも自分の誘いを断られたらと考えると怖くて、自分から言ったことはあまりなかった。けど、でも、今日なら言える。
苦手な陽キャラたちを追い抜いて、階段を下った。
みんなに会って何をしよう。てか、そもそもみんな部活入ってて、会えない確率の方が高い。…あ、でも、一人だけなら会えるかも。
そう思いながら、自分でも驚くほどの速さで駅まで走り、バクバクする心臓を抑えながら電車に乗り、思い当たった仲間の一人にメールを送った。
…これが、少し臆病な私の、「立ち止まる」ための出来事のはじまりだった。
****************signal,now?***************
さっきの学校近くの駅とは別の駅。さっき言った子も、私と方角は違えど帰り道に通るというので、ここで集合することになった。
うぅっ、寒い。どうりで雪が舞うはずだよ…
ヴーっ
ん?メール…お、着いた!
「菊ちゃんー!」
「!アズマイちゃーん!!」
手を振りながらボブヘアーの女の子が走ってきた。東舞依―アズマイちゃん。
高校では写真部に入っているが、活動頻度が少ないらしく、とっても暇だといつか言っていたので連絡をしたら、オッケーだった。
「久しぶりー!!やー菊ちゃんから誘われるのめっちゃ嬉しい~!」
「えっ、そう言ってもらえると嬉しい!アズマイちゃんいい子!」
「そら菊ちゃんもだよー!!」
きゃあいい子。呼んでよかった。
私たちは寒がりながら駅ビルに入り、某ファストフード店に入った。
私はコーヒー、アズマイちゃんはパンケーキを頼んで席に座った。
「わーっおいしそーっ!!いただきまーす!!」
おいしそうにパンケーキをほおばるアズマイちゃん。
私はコーヒーを一口飲んで、その様子を見守った。
「ほんで菊ちゃん。どうしたの今日は。」
「ん?あ、いや、どうってわけじゃないんだけど…」
店の窓の向こうを見た。すっかり雪は止んでて、淡い夕焼けが青い空で輝いていた。
「…ただ、素敵な時間を共有したいなって思っただけだよ。」
「んっ…いいねそれ。ちなみに何があったん??」
「んーっと…晴れてるのに雪が舞っててね。きらきらしてて眩しかったの。」
なんか語彙力ないな、この表現。
「ごめん伝わんないよね!!」
「え、めっちゃ分かったよ?あたしもそういうの見たことあるし。」
「え、本当に?」
「うん。小学校の頃、晴れた日にブランコ乗ってたら雪が降ってきてね…私も夕方だったな…すごく綺麗で、今でも覚えてるんだー。」
「そうなんだ。」
「うん!あ、そのあとさー…」
小さな頃のこと、最近の学校の様子、懐かしい中学校の思い出、大好きな先生の話。
思いついては話していく。懐かしい。今度はアズマイちゃんだけじゃなくて、みんなで集まりたいなー。
「それなー!てかさ、さっき菊ちゃんの言ってた言葉、まじでめっちゃいいなって思った!」
「え、茎わかめとイケオジは正義ってやつ?」
「違うわ!印象に残った名言ではあるけども。」
名言なのだろうか、茎わかめとイケメンおじさまが正義って。
「それじゃなくて、さっきの素敵な思い出みんなで共有したい、ってやつ!ねね、そこで提案なんですけども。」
「は、はい。」
すっかりパンケーキを食べ終わりマスクをつけたアズマイちゃんは、しゃんと座った。
「こんなご時世になってしまい、行きたいところに行くのも難しい世の中です。」
「はい。」
「ですが、来年にはもっとひどい状況になっているやもしれません。また家から一歩も出れないまじぴえん状態が再来するかもしれません。」
「その通りだと思います。」
「そこで!!」
ぴん、と人差し指を立てた。
「そこで…?」
ニコと、アズマイちゃんは笑った。
「皆で聖地巡礼―卒業旅行に行きませんか?」