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違うと言って!

    ◇

 気がつくと、私は発光した木の幹に体をもたれさせていた。不思議に滑らかな木肌。

 泉の中で意識が落ちたはずなのに、そこまで少しだけ距離があるというのに。神官さんのどなたかが運んでくれたのだろうか?


 白い発光はおさまったものの、木はまだ淡く発光して見える。咲いた白い花も見たこともない不思議な花。私の体に降る花びらは微かに光を帯びていた。



 感じていた視線の方向をみれば、周りを取り囲むような雰囲気の神官さん達と目が合う。ちょっと囲まれすぎていてびっくりした。


「お目を覚まされましたか? 聖女様」

恭しく声をかけてくれる年嵩の神官さん。

「創世の聖樹の枝が伸びて、聖女様をそっとそこまで運ばれたのです。奇跡がここに」

 その口から出てくる言葉に絶句しかない。最早、どうにもならないレベル。


 



 意識がどれくらい落ちていたかわからないが、そこまで長くはなかったのではないかと思う。

 神官さんたちは心配そうには見つめてくれていた。

 心配そうでありながらも、目はキラキラしていた。待望の聖女様。聖女様がここに。そんなかんじの熱さにまみれた目に見えた。

 心配は心配でしてくれているのだろうけれど、興奮と高揚もやはり感じるもので。



 まぁ聖樹とか言っているが、木が光り花が咲き、私が意識を落とし、泉に浸り切る前にその枝が私を幹まで運んだなんてそんな話。眉唾物ではないかな。


 自分がそこの本人でその関係者で目の当たりにしていても、実は神官さんのどなたかがどうにかしてくれたのですよね? 感がいっぱいだ。

 もしくは集団幻覚かも。そうかも、そうね。そうな気もしてくる。


 見てなかったし、意識なくしていたし、聖女じゃないと私が言ってのけているから、奇跡の演出とか? 


 でもならこの熱い熱すぎる興奮状態は? 誤魔化すための演出? 


 まぁ色々思うところはあるが、神官さん達の心配そうな顔はやはり心配そうにも見えて。

 急に倒れた人がいたらそりゃ心配もしますよねと思い素直に謝った。

 反応は当然のこと、滅相もございませんでしたけど。



      ◇

 その意識が落ちていた時、私は夢を見ていたようだった。


 そこは何故か森の中だった。

 咲き乱れる花々。青々とした葉の茂る樹々。そしてそこに筆舌しがたい麗しい美女が私に向けて微笑みを浮かべていた。発光しながら。

 発光? 発光仲間? 仲間いたと思ったらそのお方がライアリエ様だった。


 段々意識が戻るにつれて、その記憶が遠くなるのだけど。その美しさ神々しさは最早これこそ平伏でも額ずくでもして当然と思えるものだった。まぁ神様だしそんなの慣れているだろうけれど。


 そんなライアリエ様に、私には聖女なんて無理ですとはっきり伝えたら、では愛し子リアよ、あなたにあらんかぎりの祝福をとおっしゃられたかと思う。


 私などを愛し子と呼んでいいのか、いや誰もが神様からみたら愛し子かもしれない。創世の女神だし。なんか特別扱いって訳じゃないかもしれない。ただの自意識過剰かもとか思ったから、そこはあえて聞かなかったことにした。


 私など無能な者にとか言ったかもしれない。能力があればいいのですねとかなんとか聞いたように思う。

 そのお姿にそぐう美しい声で、私に。向けられた笑顔が眩く美しくてこれこそ聖なるものとか思いましたけど。


 心配でしたら、増やしておきましたから大丈夫。様子見ながら、必要そうなら増やしますみたいなかんじのことを言っていたと思う。


 そしてこの世界に癒しを。そんなことを言っていたかと思う。


 いや、まず私に癒しが欲しい。


 大事な可愛い畑を豊かに実らせたいのにとか思っていたら、わかりました。豊穣もですねとか。後は何が必要かしらとかなんかそういうようなかんじのことを言ってたように思う。

 なんだか幾らか会話したような気がするけれど、目が覚めると遠くて。


 美しいお姿とその美声。そこから放たれた言動に対する困惑と不思議な多幸感。内容が突拍子なさすぎだけど。

 

 しかし、神様自身に外堀がんがん埋められた気がするのだけれど、一体どうしていいのやら。ただの夢よね?




 聖女様用に設えた部屋があるということで、私はそこに女性の神官さんに連れて行かれた。

 違いますと大いに言いたいが、ライアリエ様に会った夢を見て、そしてそこでよろしくと言われてしまい、これ否定するにもしにくいという状態になってしまっていた。


 夢だし夢だから。ちょっと色々言われて、ちょっと夢を見ただけで、本物のライアリエ様ではないと思うし。思いたいし。


 そんなことを思いながら、部屋に連れて行かれた。濡れた服を着替えないと。ほぼもう乾いているけど。


「聖女様、お召し物の着替えはこちらに。お手伝いは不用とのことですが、何かございましたらお声かけをお願いいたします。長旅お疲れでございましたでしょう。どうかゆっくりお休みください」

 そう言って、出て行った。



 着替えて寝台に横たわる。

 柔らかい。疲れた体を優しく受け止めてくれる寝具はいいものだ。



 元々ひたすらにがむしゃらに荒地の開墾とかしていたし、体力はあると思う。

 魔力もないわけではない。土と水魔法は幾らか使える。独学だったが素養はあったようで、重宝した。

 でも聖女? ってそういうのではないんじゃないかな。詳しくないけど、違うと思うし。


 そういえば長らく自分のステータスを見てなかったことに気づいた。そんな習慣もないし。


「ステータスオープン」

 腕をかざして、小さく声をあげる。外に護衛という名の見張りがいるかもだし…………。


 でも見た瞬間、つい声を上げそうになったから掌で自分の口を強く塞いだ。

 意味がわからない。わからないわからない。わからないから!


 ライアリエ様、サービスしすぎです。私などに。こんなの聖女と言われても仕方ないくらいになっているじゃないですか?


 聖女とかで済むのかなこれ? ステータスにも聖女と駄目押しされている。しかも大聖女とか。大がつくってよりだめなんじゃないかな。逃げようとして回り込まれきってるんじゃないかな。



 神様、私は普通がいいんですよ。平凡で。平凡は非凡かもしれませんが、確かに。


 人の尺度は違うから、平凡も色々かもしれないけれど。私の平凡をかえしてってくらいにステータスがおかしい。人間やめているかんじにおかしい。神様からみた普通はこういうかんじとかないですよね?


 聖魔法、回復、封印、浄化、補助、状態異常回復etc。こんなの私のステータスにはなかったはず。しかも高い。レベル高い。何これ何? 見てなかったけれど、なかったはず。


 法力なんてものまで増えている。

 HPもMPもぐんと増えすぎていて最早訳がわからない。


 障壁もはれそう。どこまでどういうふうにはればいいのかな? 人里ごととかぜんぶだろうか? 魔物は魔物でかたまってもらったほうが、いいのだろうか。意思もあるだろうし、都合もあるだろうし、まとめているところと折衝だろうか。


 魔物も魔物で生き物よね。育ったところから追い払われたくはないよね。中々難しい。


 神様、人間離れしてしまっても私は人間ですので、害をなしてくるものは仕方ないので追い払うなり、どうにもならなさ気なものは祓えばいいかとは思いますが、ただ存在しているものを滅していきたいとは私は思えないので……そんな感じでいいのでしょうか? どんなかんじでしょうか? 難しいですよ。


 癒し、癒し。どうなのだろう。どういう癒しもとめているんだろう。この世界。そしてライアリエ様。



 怪我人や病いをなおしていくとか? 試しにヒールと唱えてみると、疲れた体が嘘のように調子が上がり、肌の色艶、髪も艶々として傷とか病いがなかったからか、とりあえず回復出来るもの全部回復していたみたいだった。


 なんだろうかこれ。ラクになった、なったし嬉しい気もするけど、怖い怖いわと思った。こんなの全女性から望まれそう。全男性もかも。怪我、病いに固定しないともしかして?


 そして何、この祝福。みたこともない。

そしてあの? もしもし? ライアリエの恩寵とかそんな不可思議なものが出ていますけど!


 ステータス長い。え? 何これ?



 ライアリエ様大盤振る舞いすぎます。水、土魔法まで進化してますけれど? 豊穣? 緑の手? そういう意味で言った訳ではなくてだったのですけど。


 言語理解。魔物達の言葉もわかりそう。精霊や妖精もいけそう。どこまでわかるだろう。人間が一番言葉通じなさげだけれど。


 転移も出来る? なら、私の畑見に行けるかも。これは嬉しいかも。人として色々手放してそうだけど。

 


 聖女じゃないとか言えないレベルにさくっと上げてくれていますが、ライアリエ様これは最早聖女で済むのですか? こんな私に目立つことも嫌いな私に。


 癒しをか。


 今私の心が癒せないですよ。ライアリエ様の無茶で。それとも聖女様の普通はこういうかんじなのでしょうか? 


 教えてライアリエ様? いや、直に夢に来てくださりそうで、恐れ多いのは怖いかな。直に物申したいような、まだこれ以上怪しい者にされかれないという危惧感がめばえるというのか……


 現実逃避に寝台にダイブして、睡眠に私は逃げ込んだ。まさか本当にひょっこりと夢にこられたりしませんよね?




 そして後で知ったけれど神殿にいた神官さん達の傷や病いまで癒していたらしい。

 聖女様のお力と言われてしまった。


 これは範囲を決めて唱えないといけないと思った。



 聖女じゃない、違うと言ってと思うけど、最早違います、それ以上の何かですなら言えるかも。 


 なんでこうなってしまったの?



            end


 読んでくださった方ありがとうございます。


 そして、ブックマークや評価いただいた方楽しんでいただけたのかなとか思えて、とてもありがたく思っております。ありがとうございます。

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