イメージ違いです
◇
「聖女様」
神官さん達に恭しく額ずかれ声をかけられる。
いや、違うと思う。思うじゃない、違う。私、聖女じゃない。
こんな自分みたいなのが聖女って嫌だ。
イメージ違いです。今光っているからなんだか何かに見えるかもしれないけれど、違うから。
私もなんで光っているかわからないけど。
「私、聖女ではありません」
主張してみても、全然聞いてくれない。
聖女様、聖女様だと神官さん達は口々に言い合っている。聞いてくれる気のかけらもなさそう。
恭しく平伏したり額ずいてくれるわりには、私の言動は聞き流されているみたいだ。
探し疲れたから、もう私でいいと言わんばかりなのかもだけれど。いや、仮にも神官、仮じゃない神官だから、光った。聖女。探し終わった。かもしれないけれど。
そういうものはもっと立派な素敵な方にお願いします。ただの村娘には荷が重いです。候補でもなんだかだったのに、候補とれてしまうともうどうにも洒落ならない。
神官さん達は集まり話し合っている。笑みをたたえながら。ちょっと恐い。高揚具合が恐い。
「ライアリエ様のご神託通り、聖女様が……」
そんな声が集まっているかたまりから聞こえた。
諸悪の根源はライアリエ様か。思うより大物でした。
創世の女神様。主神の一柱。詳しくない私でも、こんな私ですらその御名は知っている。その御名はかねがね。そりゃ当たり前に知っているけれど、なんで私なの? なんで私なの? なんで私なの?!
もっと私なんかより向いた方とか、もっと私には真似すら出来ないような清らかな方とかもっと幾らでもなんか色々あるでしょ?
なんで私なんか選んだの? 選んでませんよね?
そうよね。違うんじゃないかな。私だし、聖女じゃないのよね。
ここの泉に浸かったら、発光する何かかもしれない。それも我ながら訳わからないけれど。誰でも光るのじゃあ? ってかんじのことを神官さんに聞いてみたらとんでもない、この泉を光らせその身を輝かせるのは聖女様の証と口々に言ってくれて私を閉口させてくれるし。
でも、発光する何か、そう何か、ただ何かであって、決して聖女じゃないよね?
◇
事態が進み、ぼんやりしていたけど、まだ私は泉の中にいた。ほのかに光る水面は綺麗な気はするけれど、私が光って乱反射している。
最早自分なんなんだろう。光る人ってありかな? 人として認められる範囲かな?
世界には色々な人がいるというし、光ってもおかしくないかな?
水浴びした時も、湯あみの時も光ったことないと思うし。急に光っちゃってますけど、一般人です。普通のただの村人です。
――ないか。ないかも。光る普通はないか。ちょっとだけ光るんです。
どうかなぁ。自分のことじゃなかったら、この人大丈夫かなとか思ってしまいそう。
でも違うと思うんだけどな。聖女。
数日だったか何日かかったかよく覚えていないほど遠い道程を、ちゃんとした馬車とはいえ、乗って移動していた。
いや、馬車なんて乗ったこともなかったし、多分これいいものなのじゃないかなだけれど、それでも体にくるものはくる。
乗り慣れないし、長旅すぎて本当にきっと神官さん達も大変だったのだろうと思う、思うけど厳しかった。
夜は宿屋に泊まってくれていたし、食べ物もちゃんとくれてしかも美味しかった。見張り付きで外には出してもらえなかったけど。
ちゃんと寝台で睡眠とらせてもらえた。見張りありだったけど。
これは逃すものかってことなのかなとか思った。護衛だとかお守りするためとか説明してくれていたけれど。
美味しそうな葡萄色の瞳が印象的な神官さんが言ってた。
葡萄も美味しいよねって思ったのもあって白い集団の中でも記憶に残った。世話焼きしつこかったのもあるけれど。
この神殿? に来る前になんだかわからない白い衣装着せられたし、なんか色々しきたりがとかなんとかであれこれ言われるまま着せられてさせられて、よくわからなかったし。
でもやっぱり疲れていたんだと思う。しかも大半が気疲れ。常に見張られていたし。そりゃ着替えとか睡眠とかそういう時は、一応扉の外でしたけどね。それでも扉を隔てたすぐそばですから。
ひとりに慣れていた身にはなんだか落ちつかなくて。
それに一斉に額ずくはないですよねと思うし。かなりびっくりしたし。
光ったことが、体にきた訳じゃないと思う。まだ光ってるけど。
とか思っていたら、近くに生えていた大きな木が急に白く光った。
白いつぼみが次々と木から伸びて、白い発光した花が開く。神秘的だけれど、光っていてきれいだけれど、今こういうのはやめておいて。なんか誤解されるから。
凄く綺麗だと思う。思うけど、今それはちょっと。
「奇跡か。これは聖女様のお力か」
ほらやっぱり。
違うし、勝手に自力で光っていると思う。花も自力で咲かせているみたいだし。
ねぇ? 木よそう言って? いや、答えてくれても恐いけれど。
疲れもあったのか、本当に光ることで体力消耗したのか、それとも別の何かだったのか、私はその場でへたり込みそのまま地にいや、光る泉にその身をゆだねていた。