完全にあっち側とこっち側で
銀幕に映し出される美男美女
物語はクライマックス直前で
二人の距離と顔が少しずつ近づいて
影が一つになる
そして流れるエンドロール
周りには
目元をハンカチで押さえる観客がいて
僕は爪が食い込むほど
拳を強く握りしめながら
ただそれを見ている
話題沸騰の恋愛映画
新進気鋭の若手女優
そして一応僕の恋人
大ヒット御礼
出演者登壇イベント
彼女の招待がなければ
とても入れなかった
入る気もなかった映画館
今や各メディアで見ない日はない
主演二人の顔
理想のカップル堂々の第一位
互いのファンも認めて頷き合うしかない
好青年と大和撫子
インタビューでまんざらでもない態度を示して
におわせ合う二人
撮影中ずっと二人でいたんでしょ?
今だってこの映画の宣伝でいつもふたりでいるんでしょ?
僕たちのこと誰にも話しちゃいけないんじゃなかったの?
さっき友だちと一緒に楽屋へ招いてもらったとき
廊下ですれ違った彼に耳元で囁かれたよ
君なんかよりも俺の方が彼女に相応しいって
そもそも学校が同じだったってだけで
スカウトされたって
地元を離れるって
教えてくれた君が渡してくれた連絡先
そこから始まった僕らだけど
あれから君はどんどんと輝いて
会うたびに眩しくなって遠くに感じるようになった
気軽に会えなくなって
話す時間も減っていって
人目を忍んでどうにか会うとき
私はここにいるよって
ここが私の帰る場所って
だから頑張れるって
昨日も隣で笑ってくれたけど
世界が違いすぎる
完全にあっち側とこっち側
映画が終わって
出演者たちが登壇して
ほら 今だって
二人だけで通じ合っているように
意味深な目配せして
待ってましたとばかりに
シャッター音が鳴り響いて
フラッシュが焚かれて
多分 今
君が手にしたマイク越しに
あの人が私の恋人ですって
こっちを指さしたところで
誰も本気にしない
ねえ
僕はどこで君を待てばいいの?
どうやったら君に相応しい
帰れる場所で居られるの?
とても高く雲より高く
登っていく君の姿が眩しくて
目が眩みそうだ
これは涙なんかじゃない
でも君の姿が
大好きな君の姿が
霞んでいく
滲んでいく