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道先案内代行サービス

作者: 丘与式杞憂

 スマホの充電が切れた。その場合、通常であれば充電器を挿せば良いだけの話なのだが、今現在に限って言えば、そうは問屋が卸さなかった。

 思えば何が失敗だったのだろうか。穏やかな春の陽気に誘われ、気の向くままに四時間もお散歩に興じたことだろうか。モバイルバッテリーを家に忘れたことだろうか。スマホの地図を頼りにしなければ帰れなさそうな場所にまで来てしまったことだろうか。原因を探った所で、帰り道が分からない現状は改善しない。所持金を鑑みるに、タクシーで帰れるかも微妙だった。それに加え、金欠の身分である。なるべく帰宅にお金を使いたくなかった。途方に暮れながらアテもなく彷徨っていると、とある店に行き着いた。

【道先案内代行サービス MADS】と書かれた看板が掲げてあった。藁にも縋る思いで恐る恐る入店すると、優しそうな高齢の男性が迎え入れてくれた。

「やあ、いらっしゃい。初めてのご利用ですかな?」

 店主と名乗ったその人はこの店について、簡単に説明してくれた。道に迷った人のもとに、案内人を派遣する仕事らしい。スマホの地図があればどんな場所にでも赴ける現代において、一体どう経営を賄っているのだろう。地図を見るためのスマホがご臨終なさったスマートではない私が言う台詞ではないだろうが、率直に言って儲かりそうな、需要のありそうな仕事には思えなかった。

 やや強気な料金設定に恐れをなした私は、退店を決意した。そのことを店主に伝えようとしたその時、私が利用した入口から一人の女性が入店した。店主と彼女が話しているのを聞く限り、どうやらこの店の案内人の一人らしかった。

 私は構わず、先程店主に伝えようとした言葉を発する。

「店主、一番安いコースでお願いします」

 先程まで抱いていた気持ちを速攻でゴミ箱に放ってしまうぐらい、案内人の彼女は可憐で魅力的だった。やや強気な料金設定が可愛く思える。しかし私の財布に入っていた現金も可愛らしい額であったため、最安値のコースを選択した。

「初めまして、アヤと申します。道先案内代行サービスのご利用ありがとうございます。どちらまでご案内致しましょう?」

 人にリラックス効果を与えるアヤさんの声に腑抜けながらも、私は目的地を告げた。

「この辺りで、一番お洒落なカフェに案内してください」

 私の目的地を自宅からカフェに変えてしまうほど、彼女は可憐で魅力的だった。了解しました、と微笑んだアヤさんと道中お喋りを楽しみながら、カフェへと向かう。追加料金を支払うことで、彼女とカフェで食事をすることも出来た。

「本日はありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」

 そう言い残して去っていく彼女の後ろ姿を見送りながら、私は歩き出した。一体何をしているのだろう。麗しい美女と楽しいひとときを過ごしたことは事実だが、終わってみると急激な虚無感が押し寄せてきた。早く家に帰りたい。

 少し歩くとコンビニがあった。背に腹はかえられぬと思い、ATMでタクシー代を下ろす。運良くコンビニ前に公衆電話があったため、そこからタクシーを呼ぶことにしよう。このお金で。


 このお金で……


「またお会い出来ましたね! 道先案内代行サービスのアヤと申します。どちらまでご案内致しましょう?」

【道先案内代行サービス MADS】の経営が成り立つ理由が、分かった気がした。

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