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異世界で結ばれる縁【3】

「なに、とは?」

「……俺は今まで来た来訪者全員と関わっている。全員何もしなくても寄ってきたからな。だが、あんたの様にこうして道具を作れる人間はいなかった」

「たまたま作る機会や場所が無かっただけでは?」

「暇さえあれば元の世界の菓子を作っただの、端切れで小物入れを作っただの言って持って来た奴らがか? 備蓄用の食材や別の物に使われるはずだった糸や布に勝手に手を出した奴もいたくらいだぞ。俺たちに自分を見てもらおうと必死の奴らが、便利な道具を作れることを隠す意味はないはずだ」

「確かに……」


 というか、酷すぎる。

 許可なく人様の物を使う……前の来訪者たちにとって、ここは何もかもが許される夢の世界だったのだろうか。

 だが蓮さんの言う通り、他の来訪者たちが道具作りをやっていたという話は聞かない。

 確かにゲーム本編では道具制作はミニゲームの一部で、おまけのような扱いではあったけれど。


「あんたの作る道具について町で話しているのを聞いた。あんたが作ったという水瓶……あれは城下町でも値の張る道具屋でしか見たことが無いし、作る技術を持つ人間も本当に少ない。だがそれよりもこの組紐の方が問題だ。勾玉を増やす効果のある飾りなど、俺は見たことも聞いたこともない」

「えっ」


 そんなはずはない、だってこれは確かにゲーム内にあったものだ。

 作り方も他の組紐や飾りと同じ、特級の勾玉を使用して作る。

 付く効果の中に勾玉を増やすという効果があるだけだ。


「蓮さんがあまり買い物をしないから、とかではなく?」

「それは確かにあるだろうが、そもそもそんな効果のあるものだったら誰かしらが……いや、皆が使っているはずだ。城の武器庫には様々な効果の付いた飾りがあるが、これは見たことが無い」

「皆が使っているはず?」


 武器に着ける事が可能な効果には、攻撃力を上げたり防御結界を出したりと便利な効果がたくさんある。

 私の様に勾玉を多く消費する職業の人や依頼を受けて勾玉を取ってきている人ならばともかく、勾玉を増やす効果が戦う人たちにとって絶対に付けなければならないものだとは思えない。

 効果の重ね掛けは出来るらしいが、大体の人が下げ緒代わりの一本をつけているだけのようだ。

 組紐が切れたり飾りが壊れたりした時点で修復不可能でまた買い直しになってしまうし、大量につければつけるほど戦いやすいかといえばそうではないとお客様が言っていた。

 確かにゲームでは付ければ付けるほど便利になったが、現実で大量に飾りが付いていると武器が多少使いにくくなりそうだ。

 私の疑問の声を聞いた蓮さんは一度だけ目を閉じ、すぐに目を開ける。


「あんたの提案、ありがたく乗らせてもらうぞお嬢さん。ただし俺からも一つ条件を付けさせてくれ」

「条件、ですか?」

「勾玉はあんたに渡す。代わりに俺が持って来た勾玉の半分をこの組紐を作るために使ってくれ。この効果の付く組紐を世間に普及して欲しい。なんだったら勾玉以外の材料の採取にも護衛として付き合っても良いぞ」


 彼の考えが読めずにじっと彼の顔を見つめる。

 真剣な表情を崩さない彼は、先ほどまでの飄々とした空気とは違い本気で私と契約する気のようだ。

 この組紐、そんなに魅力的なのだろうか?


「……勾玉があいつらの悪意だって事は知っているな?」

「はい」


 疑問に思う気持ちが顔に出ていたらしく、少し悩んだ様子の彼が廊下に座り込み庭を見つめながら話し出す。

 私だけ立っているのも何かおかしい気がして少しの距離を開けて同じように座り、彼と同じ方向を見つめる。

 廊下は庭から少し高めに上げて作られているので、足を庭の方に下ろしてもまだ地面にはつかなかった。

 この距離と高さを一回の跳躍で飛んできたのかこの人は。


「影は強さに関係なく、一体倒せば一つの勾玉を落とす。二つ以上になることはまずありえない。だから一体倒して浄化できる悪意はどうあがいてもこの勾玉一つ分だった。今まではな」


 懐から一つ勾玉を取り出した蓮さんがそれを月の光に透かすように持ち上げて見上げる。

 私の手でも片手で握りしめればほとんど見えなくなってしまうそれは、本当に小さくて。

 妖怪たちがどのくらいの悪意を持って封印されているのかはわからないが、それでも一つ分ではきっと微々たるものなのだろう。

 だからこそ彼は、朝から晩まで戦っているんだ。

 勾玉に関して考える時、私は妖怪たちの悪意ということは知っていてもどこか便利なものとして見ていた気がする。

 それがなんだかとても申し訳ない考えだった気がして、罪悪感で胸がチクリと痛んだ。

 どこか他人事の異世界での歴史、私には関係なかったそれを自分のものとして見る事が出来たような感覚。

 不意にこちらを見た蓮さんが軽く勾玉を私の方に放ってよこしたのを、慌てて受け止める。

 手の中に収まったのは特級の勾玉が一つ、先ほど貰った物とは別の物だ。


「それもあんたにやる。怪我の治療中に着物から落ちてきた。戦闘中に拾って袂に入れた物がまだ残っていたらしい」

「あ、りがとうございます」


 今まで無造作に持っていた勾玉、彼の話を聞いて見る目が変わったせいか今までよりもずっと重要な物に思えて、そっと両手で包んだ。

 先ほど蓮さんが言っていた通り、私は妖怪たちの本意ではなかった悪意を人の役に立つ物に変える事が出来る。

 やる事は同じだが、これからの道具制作は少し違った気持ちでやる事になりそうだ。


「この組紐さえあればあいつらの悪意を今までの倍の速さで浄化してやれる。だから作れるだけ作って欲しい。俺が持ち込むすべての勾玉を組紐につぎ込め、とは言わない。町の連中が勾玉を使って作られた道具で喜んでいるのも事実だからな。あいつらが復活した時、それは確実に救いになる」

「……わかりました。私も町の人達が求める物を作ることが出来るのはありがたいですし、組紐の件も頑張ります。復活したあなた以外の妖怪の方にも会ってみたいですし」

「…………」


 私の言葉を聞いてポカンとした表情で固まった蓮さんは、言葉を失ったかのように私を凝視して来る。

 何か妙な事を言っただろうか、と思った瞬間、彼はここ数日では見たこともなかったくらいの優しい笑顔を浮かべた。

 月を背に微笑む美しい狐の妖怪……とても絵になっている。

 この光景は是非ゲーム中にもスチルとして見たかった。

 スマホはあるがゲームが出来ないのが少し辛い。

 あのゲーム以外にもときめける恋愛ゲームはたくさんあったのに。

 そんな風に考えてしまうあたり、やはり私が現実の男性にときめく日は来ないようだ。

 綺麗な人だとは思うのだが。


「変わった奴だ。今、人間たちもあいつらを復活させようと協力してくれているが、会いたいと口に出す奴はなかなかいない。今までの来訪者にとっては俺以外の妖怪は完全に興味の範囲外だったしな」


 元々争っていた人々と、キャラクターとしてゲームに登場した人物にしか興味のない来訪者、そうなるのはしかたがないのかもしれない。

 来訪者たちは本当に妖怪に興味を示さなかったのだろうか?

 私の目の前にいる蓮さんだって耳や尻尾は狐のものだし、元の世界に妖怪という種族がいない以上は他にどんな人がいるのか多少なりとも気になりそうなものだけれど。

 堂々と気にするのは失礼だろうが、興味くらいは湧きそうな気がする。

 もっとも私と以前来た彼女たちでは考え方が違い過ぎるので、詳しくはわからないが。


「あの、組紐なんですけど、他の組紐と同じで付く効果は作成時に選ぶことが出来ないんです。特級の勾玉を使って作った際にたまに付く効果で。たとえば五個の勾玉を使って作ったとしても一つも出来ない日があるかもしれません。他の道具屋さんに協力していただく事って難しいんですか?」

「難しい、というよりも俺は無理だと思うぞ。そもそも勾玉を使って道具が作られるようになってしばらく経つが、勾玉を増やす効果を持った飾りなど見たことが無い。城下町の鍛冶屋や道具屋はそれこそこの店以上の品数を揃えているが、そこでもそんな効果の話を聞いたことはないしな」

「え、でも……」


 彼の持つ組紐に視線を向ける。

 だって確かにここにその効果の付いた組紐はあるのに。

 ゲーム限定だったのか、とも考えたが、他に登場した物はすべて作成可能なのでこれだけ出来ないとは考えられない。


「来訪者が俺たちについて妙に知識を持っているのは知っている。だが、おそらくこの世界の道具制作技術を持っているのはあんただけだよ、お嬢さん。この特殊な効果を付ける事が出来るのも、今この世界であんただけのはずだ。今までの来訪者とあんたの差は俺にはわからないがな」

「私と、他の来訪者の差……」


 同じようにゲームをやっていたのは間違いないだろう。

 違いといえば恋愛のことしか考えていないような態度くらいか……恋愛?

 頭の中に浮かんだ一つの考えに、じわじわと確信が湧いてくる。


 もしかしたら、だが、彼女たちと私には明確な差が一つあるのではないだろうか?


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