表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

憂鬱と衝撃


 2年時からの持ち上がりの担任の声を聞き流しながら、俺は頬杖をついて外を眺める。窓の外の光は暖かく、青々と茂る木々を柔らかく照らしている。


ーーーーーまったく、俺の沈んだ気持ちとは裏腹のようだ。忌々しい。


 高校3年生になったから進路を考えろと言われても、大学受験だの就職だの実感が湧かない。前の席の皆木は机の下でこっそりアイドルの動画を見ているし、その前の女子達は今日の放課後にどこに行くかコソコソと笑い合っている。


 やる気のないHRを終え、伸びた声で号令を行う。なにもする気が起きなくてボーッとしていると、目の前の黒のボブが揺れ、貝木が振り返ってニコニコと話しかけてきた。


「ねえねえ、浜野氏は聞いた? 隣のクラスの副担任、すごい可愛いらしいよ!」

「おー」

「新学期楽しみだねえ、みんなメンツ一緒だし!」

「おー」

「...なんか心ここに在らず? って感じ?」


 丸い目を更に丸くして、瞬きを一つ。こちらを覗き込んだり、手を振ったりしてくるが、大丈夫だ見えてる。ただ、


「浜野は残念ながら、傷心中なんだ...貝木、慰めてやってくれ...」


肩に手を置かれ、友人の亀田が泣き真似をしながらうつむく。ただ事ではない気配を感じたのか、貝木はゴクリと息を飲んだ。俺は呆れて口をつぐむことにした。


「浜野氏、彼女いたの...? そして別れたの...?」

「ある意味それよりも悲惨かも知れん...」

「...亀田氏、教えてよ」

「いいだろう、それはな...」











「浜野の推しのVtuberが、引退した...」


 亀田の口から聞く、その事実に折り合いをつけたつもりの心がまた痛む。今まで生活の一部だったのに、引退するからもう会えません聞こえません知りません。つらい。散々泣いたのにまだ涙が出てきそうだ。


 俺の推しのvirtualYouTuber、通称Vtuberと呼ばれていたまりんは、とても可愛かった。

 容姿も可愛かったし、凛とした中に少し甘さが残る声も好みだった。ゲームに一生懸命挑戦する姿に心打たれたし、耐久企画の時には一緒に寝ずに応援した。記念配信の時に投稿してくれた歌ってみたは毎日再生したし、誕生日の日にはなけなしの小遣いでスパチャした。


 なのに。

 忘れもしない3月1日。Twitterで予告された悲痛な文章。

『みんないつも応援してくれてありがとう。まりんは、今月いっぱいの活動を持って引退することに決めました。いっぱい悩んだし、みんなと離れるのは悲しいけど、まりんの背中を押してくれると嬉しいな』


 そして迎えた3月31日、まりんは投稿されていた動画どころか、チャンネルさえも削除し消えてしまったのだ。












「隣のクラスの副担任になりました。皆さんとは、国語の時間でお会いすることになります。成海はるかと申します」


そんな、まりんと似た声で自己紹介をする、新任の教師の存在で、俺は一気に現実に引き戻された。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ