6ー4 クリスタルドラゴン、目覚める
アイキが眠りについている時、クリスタルドラゴンは目を覚ました。あらゆる寒さをものともしないドラゴンでも、眠りもすれば目を覚ましもする。そうして目覚めたとき自らの足下に箱があることに気が付く。寝惚けているのかそういう性格なのか、箱は無視して辺りに生成されているクリスタルを食べる。そうして腹が膨れたのでまた寝ようとすると箱が何やら動き出すのを目撃する。
「お主は一体何者なのじゃ?我が寝床に何の用があって侵入した?」
「強敵と戦って修行の成果を確かめたい。ここには、眠りを妨げると襲い掛かってくる凶暴なドラゴンがいると聞いてやって来た」
「ほほう、それなら我を無理やりたたき起こしたほうが良かったのではないか?我と戦いたいのであろう?我にも理性というものはある、超して話し合いが可能な種族とは戦わぬやもしれぬ」
「その時は寝込みを襲えばいいだけのこと…」
「むぅ、確かに。我はここに住み着いて早3000年は経過しておる。お主程度の実力では手も足も出ないと思うがそれでも戦うというのか?」
「無論やってみなければ分からない。戦いは最後まであきらめない物が勝つのだ」
「言葉だけは立派だな…だが、お主の主張は我の実力の前に掻き消されるだろう。掛かってくるがよい」
アイキのありとあらゆる攻撃は全て往なされた。仙術とは無敵の魔術ではなかったのか…?
「何故自らが負けたのか理由が分からないようだな…簡単なことよ。仙術と言われる人間の技術を3000年も生きている我が習得していないわけがなかろう?年の功という奴じゃな…。分かったかえ?」
「くっ…俺の負けだ…仙術をもマスターしているドラゴンがいるとは思わなかった」
「ドラゴンが長生きなのは、その生命エネルギーの操作が巧みであるからなのだ。大自然に生きるドラゴンの力を甘く見たな。何故お主は力を欲しておるのじゃ?」
「単に自衛のためだよ。自らの体は自らで守らなければ生きていけないからだ。空間を認識できる相手に勝てるようになりたくて修行をしていたんだ」
「ほっほう…。確かにお主のレベルは低い。生命エネルギーの扱いを得たお主ならば空間を把握できる能力持ちであっても勝てるであろう…身体能力で負けてさえいなければの…。お主レベルは上げんのか?」
「ある時を境に上がらなくなってしまったんだ。俺のレベルは常に10だ」
「ほう、妙なこともあるものだな…何かに呪われたのか、単にレベルが上がりにくい体質なのか…長い目でレベルを上げていくしかないだろうな…。何時かふっと上がるものだ、レベルというものはな。お主の場合はレベルを上げる必要のない環境にあった故に別の技術やスキルと言ったものに経験値が流れたのだろう」
「レベルは上がらないのか?」
「急ぐわけでもあるまい?そのうち上がるとしか言えぬな」
「そうなのか…魔獣を倒して回ればそのうち上がるという事なのか?それとも生命エネルギーを操る訓練を重ねればステータスが上がるのだろうか?」
「どちらも正解じゃ…ステータスで一番重要なのは魔力の量じゃ。そしてそれを操ることができれば、誰にも負けることはなかろう、ステータスが低くてもな。精進するのじゃ」
アイキは暫くここにとどまってもいいか聞いてみた。何をするのか聞かれたので修行と答えると、出て行けと言われた。修行は別の場所でしよう。
アイキは興が醒めた。これ以上強い魔獣と戦っても意味がないようだ。魔力の量、そしてそれを操る力を鍛える為、アイキは来た道を戻っていく。
「どうやれば、生命エネルギーを操れるようになるのかか…やはり途方もない年月にはかなわないのだろうな…」
「アイキさん、生命エネルギーを操れるなんてそれだけですごいですよ」
「だが、これだけでは位置を捕捉されたときに負けてしまう…俺のステータスは低いんだ」
「ステータスが低いなら上げればいい話だろう?魔獣を倒し続ければいいじゃないか」
「うーん、それでもレベルが上がらないようなんだ…。魔力操作に経験値が回っているらしい」
「長年生きた魔獣が強いのは、沢山修行して沢山魔獣を倒したからだろ。なにも諦めることはないだろう?」
「それもそうか…いつか勝てる日が来るのかもな」
「手っ取り早い方法は、魔獣を倒し続ければいいんじゃないのか?」
「それでは経験にはならない…修行して空間把握能力を高めるしか方法はなさそうだ」
「それでステータスの低さを補っているんだろう?そしてそれでは勝てない相手がいると?魔力をそれほどまでに扱えるんだ。ステータスに差があっても勝てるんじゃないか?」
「そう思いたいな…。しょせんこの世は弱肉強食。ステータスが低いものは食われる運命なのさ」
「ステータスを上げたいならトレーニングするしかないんだろうなぁ…アイキは普段どんなトレーニングをしているんだ?」
「空間を認識するトレーニングを意識してやってる。空間把握能力で負けたんだ、それを克服さえできれば勝てる気がするんだ」
「魔素の量が問題だって、あのドラゴンも言っていただろう?もう十分な保有魔素量じゃないのかな?もっと増やしたいのなら、今のままの修業じゃあ駄目なんじゃない?もっと追い込まないと」
「例えば?」
「うーん、良く分からないけど、ものすごく魔素が薄いところで魔素を動かす訓練をするとか…?」
「魔素が薄いところ、それは魔法が発動しないところ。そんなところが世界の中にあるのだろうか?」
アイキはトレーニングのために魔素が薄い場所で魔法が発動しない土地を探すことになった。
アイキは自らの周りに生命エネルギーを999/1000遮断する素材でコーティングして疑似的に生命エネルギー使用率を1/1000にすることで自らに負荷をかけることに成功した。修行はこれで日常生活を送ればなんとかなりそうだ。
「何処に行きたい?やはり東の国の中で安全に暮らせる場所がいいだろうか?ハイレンさえよければ白の塔のある人大陸隠里まで連れていく…そこなら十分な生活は保障できそうだ」
「できれば政府に見つからない遠いところがいいです…白の塔はこの国から近いですか?」
「近いな…海を渡ってすぐのところにある…もう少し遠ければ問題ないな?どこか探してみよう。白の塔でも十分政府の目からは逃れられると思うが…」
「悪いな、姉さんは白の塔に迷惑を掛けたくないから何処かで静かに暮らしたいんだってよ…どこかそういう都合のいい場所に連れて行ってくれ」
アイキは【雷光移動】で海を渡り懐かしの魔大陸まで来ていた。連絡橋はいまだ健在でその存在が魔族人族平和の象徴となり早500年、補修工事の話がこのゴウライで持ち上がっている。連絡橋自体に保存魔法が付与されていたとしても、どうしても橋の上で爆裂魔法を打つ迷惑な輩がいたり、どうしても橋の上で氷結魔法をぶっ放さなければ気が済まない人がいたりしたせいで壊れた部分が多々あり、補修が必要となった。
「ギルドでは優秀な魔法師を募集している…。それ以外にも労働力となるなら誰でもいい。君たちも参加していく気はないか?」
「ギルド登録をしていないんだが、…構わないのだろうか?」
「おお、それは失礼した。ではギルド登録をしていくがよい。初回登録は無料で行えるぞ。それにギルド証を持っているだけで街への入場も無料で行えるようになる。ギルド長のエビィメクだ。エビィと呼ばれている。よろしくな」
「アイキだ。登録はどうするんだ?この二人も登録できるのか?」
「魔道具で名前と個人情報(姿かたちを写真で撮る)を登録するだけさ。アイキ、種族はミミック、特技や備考があれば教えてくれ」
「ハイレンと、弟のヨカヒメです。私達は人間です。あの私達は特技とかないのですが…」
「おお、構わねぇぜ、若いってだけで戦力になるからな…ハイレンにヨカヒメっと。これでこの情報を本部に送れば登録は完了だ。これがギルドカードだ。無くさないようにしてくれ。一応折れ曲がったり使えなくなった場合は補填して新しいカードを用意できるがその時は持ち金から幾らか引かせてもらうことになってるからな!補修用の建築素材の運搬ならできるだろう?現場に行ってどんどん土運びをしていってくれ。今回は貢献度も多めにつく。ランクアップのチャンスだ。最初のEランクから今回の仕事を終えると、Dランクまで上昇するお得な仕事だ。こんな仕事他にはないんだぜ」
アイキは土嚢や食料を右から左へと運ぶ。アイテム袋を使えばいいではないか?という疑問もあるだろうが、それはできない。人と魔の平和の象徴である連絡橋を手間と暇を掛けて補修しているという事実が何よりも大事だからだ。実は結構な金額の援助金が国から出されていて、その金額を消費する必要もあった。その為不要な労働力を雇い、態々手動で運ぶという労力を以てして土を運んで積み上げ橋を再び元ある形に再生しているのだった。今回の補修では、保存魔法に加えて再生魔法も加味される。橋に蓄えられた魔力が続く限り橋は再生する。そして橋に魔力を注入することもできる。一種の要塞化が進められていた。橋の上で魔法をぶっ放す輩への対応策でもあり、人と魔のその橋がいかに重要かを物語る一面でもある。戦争になれば、真っ先にこの橋が落とされることは間違いがないだろうし、それを防ぐ意味でもこの橋の強化は重要な役割を担っているといえる。
「Dランク冒険者になれば、魔大陸何処でもやっていけるだろう。十分に生きる術さえあればこの大陸まで政府が追ってくることはない。魔大陸は、人大陸と違って強さこそ正義。例え君たちが捕まえられようとしても、力でねじ伏せてしまえばそれをとがめる人にはここにはいない――つまり、あとは君たちが訓練して強くなればすべて解決ってわけだ」
「言われてみれば、そうですね…ではここでお別れですか?」
「君たちを二人にしておくのは心配だから、君たちに修行を付けてくれる師匠を紹介しよう…。きっと役に立つはず」
アイキは二人にラベンダを引き渡した。ニャイアル山から付いてきた猫だが、修行にも付き合わされていた希少な猫だ。今ではアイキと同じくらい生命エネルギーの扱いを習得している。
「それとこれはこの猫の大好物が入ったアイテム袋だ。これさえあればラベンダは君たち(主にその食料)を守ろうとするだろう。…ま、無理に奪ったりする行儀の悪い猫ではないしな…。後のことはラベンダに任せるよ」「にゃ」
相変わらず猫の声しか出さないが、ラベンダはニャイン族の王女(鑑定眼鏡で盗み見た)、本気になれば人語を話すこともできるしこの辺りの誰よりも強いだろう。ハイレン、ヨカヒメの処遇も決まった。後はこの工事を終えたらここには用はないな。まだ、シロツメに行くのは早すぎる。放浪の旅に出るとするか。
アイキは土嚢の運搬業務を終えて晴れてDランクの冒険者になった。魔大陸と人大陸の硬貨は違い魔金貨魔銀貨魔銅貨と言われ金貨銀貨銅貨と交換レートが存在する。そのレートを利用して儲けを出そうとする業者がいるくらい二つの硬貨は広く使われていて信用が高い。アイキが持っている金額は全て人大陸の物だったので魔銀貨を初めて得られたことで少し気分が高揚していた。
「さて次の街に行きたいのだが、何処かいいだろうか?何かいい依頼があればいいのだが…」
土木工事が終わり、日銭を得た冒険者達で辺りは埋め尽くされ、クエストを受けに行くものは少ない。その分割のいいクエストがまだ残っていた。
「このクエストを受けてみよう…魔獣の捕獲、今まで他人に魔獣を懐かせたことはあったが自らテイムするのは初めてだ…夢見海月はこの辺りではよく見かける騎獣に適した魔獣と聞く。一匹捕まえて旅の足にしよう」
アイキはCランククエストである夢見海月の捕獲任務を受理し、その旅路を近くに流れるライセンバッハの川に向けるのだった…。
ドラゴンさんの又の出番をお待ちしておりまーす




