84-1 改善された結界
「完全記憶能力と彼女、どちらに軍配が上がるでしょうか?」
「物凄い神業でした…全てを覚えきるだなんて、どういう頭の構造をしているのかしら」
「もし見せてくださいと言われれば、その複製した形位は見せてくれますよ」
自らで頭脳を作り出すことのできる、個体。
完全に複製されたそれは、体さえ用意すれば全く同じように動き出すことが出来るだろう。
それはもう、生命の想像ではないかと目を疑うくらいの完璧な出来上がり。
ただ、自分という存在が何体もできてしまうのは『気持ち悪い』のでそう言うことはやりたくないらしい。
そう言うところまで人間らしい。
確かに人間ならドッペルゲンガーを見たら、片方に統合されてしまうという伝説まである。
流石に自らと同じ姿をした存在が100も200も存在していたら、生きている意味について深く考えてしまうかもしれない。自らはいらないのではないか?自らを壊したくなる衝動に駆られるのも分からない感情ではない。
「物凄く結界が有効活用される街へと改変されたらしいです」
「流石ね」
「他者の技術をすぐに取り入れる柔軟性、感心させられます」
「でもそうなると、あの星の開拓が一気に加速的に早まることになるわ」
「その波に乗って、開拓に参加するのですか?」
「いいえ、私はここでいつも通りの生活を送る。日々の訓練が、私を最強へと導いてくれる」
「新しい刺激を求めて気分転換するのもいいとおっしゃっていたではありませんか?」
「けれど、これから作られるのは、新しい刺激にはならない。私たちの人々が、ただただ向こうの星へ移住するだけなのだから。こちらにいても同じことよ」
それに、都市づくりは、孤島開発で一度行ったから、次は違うことに挑戦してみたい。
「それなら心当たりがあります」
結界の技術、それはアンドロイドが覚えただけではなく、私もその会議の内容を一部始終理解していた。孤島の中での話し合いは、すべて把握することが出来る。その防犯性能故の、知識の流入は皮肉としか言えない。統治者が悪意を以てこのシステムを使ったのなら、この孤島自体が悪の巣窟になってしまう。だから、あまり使いたくない機能でもあるんだ。
でも今回はその様々な結界を使って、新しいことに挑戦しようというのだ。
それは、流石に胸湧き踊る提案でもあったので無視できそうにない。
「それで何をしようというのかね」
「懐古主義、基本に立ち返るのです」
余りに便利になりすぎた。その為、不便な儘の作業を行う。
それが古臭くて、人気が出るのではないかという提案だ。
原始的なので、誰にでも分かるという所が強みらしい。
聞いた限りでは悪くない提案だ。やってみる価値はありそう。
「開拓するのはダンジョンでいい?」
「いいえ、原始的に。それが今回のテーマであり絶対的なルールです」
身のみ着のまま、遭難したような状況からスタートして貰うという。
そのようなことが出来る適切な場所がどこかにあっただろうか?
「なければ作りだせばいいのです、宇宙船を借りに行きましょう!」
アンドロイドの彼女からすれば、宇宙船を貸し出すことはそれ程リスクのある事ではない。
盗まれたり傷つけられたりしたら嫌なので、運転は自らで行いたいと、それだけが条件。
乗客は、私と魔導人形と彼女の三人。
船の大きさと一人当たりの所有面積とを考慮すると、物凄く贅沢な船の旅となった。
「次辺りに近い星で、それなりに大きい。それだけで充分」
―それなら、ほぼ一瞬で到達します。わずかながらの外世界の旅をご堪能下さいませ
歩いて隣国へ行くくらいの時間で、近くの惑星へと到達してしまった。
「まずはここを結界で覆って」
「駄目ですよ、それは。今回の趣旨に反します」
結界を貼らなければどうやって下の世界で呼吸すればいいのだろう?
船外活動することすら危険だ。
「個人の範囲で結界を纏うのは、安全のため許可します。出来るだけ原始的に行うのです」
その撮影は、魔導人形の視点から行ってくれるという。
それならこちらは、どうやって原始的な状況を再現するかに頭を使えばいい。
魔法を使わない、それが原始的だというのなら、まず、この荒野を何とかする方法を考えなければならない。
出来るだろうか?
今までは、既定のノウハウに沿って緑化し住みやすくして、様々な物を作り出してきた。
でも、今回は今ある物をできる限り有効活用しなければならない。
自給自足、それが今回の目指すところでもあり最終目的でもある。
「このままだといけない。まずは船外で行動できる鎧を作らないと」




