67-6 現実世界で戦って
嘗てから武道を嗜んでいるそういう場所はいくつかある。他にもスポーツとして様々な戦う為の場所は用意されている。そのうちのどれを選択して鍛えて貰うかによって、どれだけ強くなれるかが変わってくる。
総合的に敵を倒す、それも小手先だけの戦闘ではあまり宜しくない。
急所を狙う、局地的な攻撃をする、そういう戦闘スタイルは宜しくない。
何故なら弱点が何処かなんて分からない化け物が相手だからだ。
人間を対象にこうだという動きをを定めているだけの武術は、軒並み役に立たない。
何か不明な化け物を対象に戦う、そういう不透明な相手に対しても戦えるような武術を探す必要がある。
足だけ手だけを使うようなスタイルは、バランスが取れない。
何でもありの世界では、全身を鍛えられる物の方がいい。
「死闘を演じるものも、人間相手の武器ばかり…武器を使って倒すというより、肉体そのものを鍛える武術の方が好ましいんですよね…」
護身術という選択肢もあるけれど、基本的に逃げることを中心に組み立てられているそれは、『敵を倒す』という事には向かない。
何かいい選択肢はないかな、と現在ある道場で組手が出来る場所を探す。
出来るだけ、猛者がいる所がいいな…。
魔法という物が世に広がって以来、戦うという事に関して人々は以前よりさらに大きな関心を持つようになった。
その為以前は寂れていたような道場であっても、それなりに近くにいる人々から支持され始めて訓練生が集まるようになっていた。
ある程度大手なら、同じようなこと規格的なことしか行わない。それはそれで基礎能力の向上にはいいかもしれないけれど、試行錯誤したいというニーズには決して答えてくれそうにない。
もっと融通の利く、こじんまりとした道場が好ましい。
それ等の条件を満たすところを調べていくと、おのずと候補は絞られてくる。
「ここが」
確かに場所自体は間違いのない場所のようだ。
でも、余りに寂れている。まだ誰か中に残っているのだろうか?
それとももう既に廃れてしまって、誰もいない廃屋になっているのだろうか…?
「ここが、『三カ日道場』看板が出ているから、道場自体が間違いという訳ではなさそう」
誰かいません、と声をかけて中に誰がいないか確かめる。
ここからでは聞こえないのかもしれない。道場、それらしき場所が近くにあるのは見えている。
だからそこに行けば、時間が経てばいづれ関係者に会えるのではと期待しつつ、声を通す。
こういう時、何もできないただの人間なら、ただ待つくらいしかできなかっただろう。
でも、今最強を目指し始めた自身は、待つ以外にも取れる手段がある。
「【探知】すれば今どこに誰がいるか位は。少なくともこの建物には誰も。何処にいるのでしょう…関係者の一人でも分かればいいのだけれど」
今日はお休みの日だったのか、何か連絡を取る手段はないのか探してみるがそれらしき痕跡は見当たらない。
辺りは山々、家があるのは随分離れた所。
修行する為には俗世から離れていてよいところかもしれないけれど、余りにも何もない事柄人があまり集まらなかったのだろうか?
武術が見直されている世界でそれは少し考えづらいか、それなら必ずどこかにメンバーがいる筈。
「今中に入って不法侵入者として好感度をマイナスにしてもいけませんし、誰か近くにいる人に道場のことを聞いてみましょうか…」
独特の訛り、それを越えて得られた情報、それは道場にいるのではなく更に山奥、そこに人を集めて厳しい修行をするだとかそういう話だそうだ。
山奥に行けば強く成るだなんてそう言うことはないが、標高が高い所で鍛えるのはそれなりに効果が見込めることだろう。
山の中、人が集まっている所、その二つの条件を満たすところなんてそれほど多くはない。
山全てを察知しながら歩いたとしても、目的地を探し出すくらいのことは訳ない。
「今度こそここが」
遠目から見ても修行している、その様子が見て取れる。
でも魔法とつかった物ではなく非常に地味な物。でも、今求めているのは派手なものではない。
地味な、物理攻撃。その繰り返しこそが、結果を齎す。
「ここは武術を教えてくれる道場で間違いないでしょうか…?」
「新入りか…?今、師範は壁打ちの間におられる」
「ここでは組み手をしているのでしょう?是非、お手合わせ願いたい」
「入門前とはいえ、確かに弱ければその価値すらない、か。軽く戦ってみるのは悪くないが」
「何か問題が」
「ここがあまりに僻地なので、治療手段があまりにもないんだ。だから迂闊に戦闘行為をするのは禁じてるんだ」
「大丈夫、治療魔術なら覚えています」
「その本人がもし仮に気絶してしまったのならどうしたらいいんだ?」
確かにそれは尤もだ。そう言われるのなら他に治療できる人材が帰ってくるのを待つのが最善だろうか?或いはその人物を連れてくるというのもいいかもしれない。
暫く待てば目的の人物が帰ってくるというので、少しの間ここで見学させてもらうことに。
数十人の人が森の中で組手をして技術を鍛えている。
戦う努力、それらがすべて物理的手段に因るのは非常に希望通りで望ましい。
魔法という手段が流行している現在、武術に魔術を組み入れないのは時代遅れ。
ここでもそれが所々取り入れられている。
見ている限り、戦いは単調だ。
蹴りと殴り、それ等でどれだけ的確に相手に致命的なダメージを与えるか。
手に魔力を握りこみ、対象に致命的なダメージを与えていかなければ、魔法禁止エリアをクリアするのは難しい。
出来ることなら相手からくる攻撃は全て避けたい。
人間以外の攻撃を受けることも多いので、多対一の訓練も積めるのなら有り難い所。
ここで訓練することに、問題はなさそうだ。
「普段はどんな訓練をどれだけしているんですか?」
「強くなれそうなことなら、どんなことでもしますよ」
山の中でできる様々な訓練を取り入れているという。
滝行、走り込み、穴掘り。
体力を付けること、それが身を守ることに繋がる。そういう事を中心的に考える流派らしい。
「何か特別な技があったり」
「魔力が来てから、最初から考え直している途中なんだ」
元の原形となる技はあった…でもそれが本当にこれからも通じるとは限らない。
そこで今はその技の改良、試行錯誤している最中だという。
それは朗報、素晴らしい事だ。
ここへ入門することが決まった。
ただ、その為には必然的に今は留守にしているという、師範代に会って認可を取らなければならない。
壁打ちをしているとは、具体的にどこで何をしていていつ帰って来るのか。
ここで待機しているより、無効へと足を運んだほうが心象が良くなるのではないか。
そういう危惧が大きく浮かび上がってきた。




