67-4 特殊な部屋
通常、下は地面辺りは広く空は青い。そのような場所で行うのがデフォルトだ。
でも、難易度を上げるというのなら、その地形を窮屈なように変えてしまったらその中で動くのが非常に難しくなるという事は目に見えている。
「変則テニスバレーで勝負です!」
「望むところです!!」
テニスバレーというのは、文字通り二つのボールを最低使って遊ぶ競技だ。
テニス、そしてバレー、それらを同時に行う。
球が二つあるので最初の方は混乱するけれど、それでも繰り返せば慣れてくる。
そして物足りなく成ればその分、球の数を増やしていけばいいのだ。
結局勝負が付くまで、コート上をどこまでも動かされることになる。
「基礎的な運動で勝負」
「必殺技同好会の仲間だとしても、勝負は負けません」
勝負は勝ち負けというよりここでは体力を使い切るということの方が重要。
空が赤く染まるその時まで勝負は続く。正直、勝敗はどちらも気にしてはいない。
普段から体を鍛えているのは二人とも同じ。必殺技を打つためには基本的能力が高くなければどうにもならない時があると学んだから。
最大威力でビームを打つ単純な必殺技でも、その鍛え具合によってその出量が全く違ってくる。鍛えると、見栄えだとか出来上がり具合だとかそう言ったものが向上する。
「ダンジョンを購入して自由度を上げた甲斐があったです」
「そう…こういう勝負が出来るようになっただけでも、価値はあった」
「でも、余りに単純な使い方」
「もっと別の使い方がある?それは、分かり切ったこと」
公式ルールの様なものが存在して、それなりに流行ってるスポーツが沢山ある。
バレーテニスは両方ともネットを挟んだ攻防なので、ミックスさせるのはそれ程難しくない。
他にも様々なルールが用意されており、様々な対戦方法が考案されている。
どれもそれなりにファンがいて、プレイされているにはされているのだが必然的にプレイ人口が少ない競技という物も生まれている。
「3種類4種類と組み合わせていけば行くほどその組み合わせの数は多くなって、プレイする人口も減少する」
「それは当たり前のことだよねー」
数的に、沢山の選択肢が出れば、人口が少なくなる。
選択肢がサッカーかバスケしかなければ、二分の一。100人の内50人。
でも、50通りあれば、100人の内2人しかプレイしない。
実際の所は、一つを選択しないといけないという訳ではないので、それなりにどの競技もプレイできるという人も結構多い。
結局のところ、ボールを手で打ち返すか足で打ち返すかの二択。鍛えるのは足か手か。その違いでしかない。
様々な道具を用いて打ち返す、という部分。
皆が皆、身体の応力が向上した。魔法を使えるようになった。
その為、中途半端な道具を使うよりも、素手素足で打ち返した方が余程強力。
もし、道具を使うとするのなら、相当の威力が出るのだ。それに耐えうる魔道具を用意しなければならない。
術式を組み込み、道具の耐久力を上げ、魔力に馴染むように調整をしなければならない。
魔術師の杖と同じ役割を果たし、魔力を増幅する効果を持たせることもできる。
もしそうなるのなら、杖のような道具を使うのではなく戦闘用の魔剣を使ってもいいのではないか…?という発想をする人もいる。
そうなると、結局勝負の勝敗は、装備品がどれだけ(高い)効果(を持つ)…高価な武器防具かによって決まってしまう。
そういう思考回路から、結局のところ素手に魔力を纏わせてボールを打ち合ったほうがいいんだという結論に達するのだ。
日も暮れて、訓練が一通り終わったころ、緊急招集の連絡が。
招集依頼なんて、何か危機的状況でも起きたのだろうか…?
「身の危険だとかそう言う信号ではなさそうですよ?」
「なら、準備を万全にしてから足を運ぼうかな…」
何か、急に見せたいものがあるのかもしれない。装備品や道具を万全に整えていつでも使えるようにしておく。
オーナーが用意してくれたという一軒家。少し離れたそこに住んでいるのは、辺りの人が不運に巻き込まれない為という大義名分があるとはいえ少し羨ましくもある。
「一体どうしたっていうんですか?このような時間に…」
「緊急事態だからというので来てみたけれど、何か致命的な事件が起こっているという訳ではなさそうでよかった」
「身体的な危機が訪れた訳ではないんですけど、非常に大問題なんです!」
何が大問題なのか、一つの告知、届いた連絡事項。
それに今から協力してほしいと、そういうことならメールでその内容を教えて貰えればよかったのだけれど。
「残念ながらこれは極秘事項、直接話したほうがいいかなと思って」
コンソールでの通話が盗み見られるなんてことはないといってもいい。でもその警戒心は現実世界の名残、分からない訳でもない。
「新しい施設、それを試してほしいって…どうして私たちに?」
「何が起こるか分からないから…一人で試して何かあったら…」
確かに…その不運。極限まで高まれば、非常に危険な状態になること間違いなし。
そういうことを考えると、こちらのことを考えずに呼んでくれたことは有り難い。
知り合いが体調を崩したり重体に陥ったりすると、気になるし責任感を覚える。
ダンジョンの機能によって同好会が作った部屋と同じ『特殊な部屋』がここにも展開されている。
ただこちらは部屋というよりもう一つの建物、非常に広い。
そこに入っていくその様子を静かに傍から見守る。
非常に静かな空間落ち着ける空間、でも何かのギミックは用意されている筈。
どういう目的で用意されたのか、それは基本的にその不運を何とかする為の建物なのだろう。
でもそれは具体的にどういう方法なのか、聞いていない以上安心できない。
人為的に不運という物を呼び起こして、日常的に起こり得る最悪の状況から回避できるようにする施設なのか、或いは逆にあらゆる不運が起こらない様に外からの干渉を一切断ち切るための断絶された空間なのか。
暫く様子を見ているが、特に何ら問題なく各各の部屋を見て回る。
どの部屋も何もない殺風景すぎるが、綺麗に片づけれられている。




