43-8 優勝者は
罠にもかからず、ただただサバイバルを完遂した。
余計なことをしなかった、ただそれだけなのにいつの間にか勝利者として認定されていた。
結局、中途半端に荒らしてくれた乱入者はいつの間にかどこかへ消えていた。
『中からどこかへ移動したようですね。痕跡を残さず、相当捕まえられたくなかったのでしょう』
「準備は万端だったという事でしょうか…折角なので捕まえたかったのですが…また邪魔をしに来るのでしょうか」
「そんなことが不安なのですか?」
「不安です…ゲームを乱されてしまうのですから…少なくとも人の生死に関わることを、盛り込まないでいただきたい」
「その旨をゲームの最中に直訴したとしても、認めてはくれない?」
認めはしないだろう。そういう拘りみたいなものが強い、特異なタイプだろうから。
会話が成り立つとすれば、相手の土俵に立って倒すしかない。
相手が望むルール相手の望むフィールド、全てが相手に有利に傾く場所で試合など誰もしたくない。
「相手の行き先が分からなかったのですか?」
「ええ、見つかってしまっては面白くない…という事なんでしょうね」
遊戯の神を名乗るからには次も現れるつもりだろう。
ただの演出が好きな観客の一人。
ただ目立ちたいだけなのかもしれないが、その実力に関しては一目を置く価値はある。
「やらせであると思われてはいけないので、皆の前で商品を授与させます」
『宜しいのですか?非常に危険になりますが』
商品を強奪しようという争いが起きることは目に見えている。
運営側の攻勢を全て躱し、生き残りに成功した彼の表彰式が行われる。
話題性が欠けてもダメだから、記憶に新しい間に翌日準備が整い次第商品授与の流れとなった。
警備体制は万全でも、彼の身の安全が確保できなければ何の意味も無い。
殺してでも奪い取るという選択肢を選んでしまう人物は山のようにいる。
ましてや魔術の使えない人間という事で侮ってしまう輩の如何に多い事か。
「彼にしか道具は使えないようにし、彼の身の安全が保障されるような場所に住居を移してもらう必要がありますね。後、それまでの間は護衛を用意する必要もありそうです」
「非常に面倒ですね」
「ここまでがセットのようなものですから仕方ありません」
次の日、沢山の人が一所に集まりその授与式が行われる運びとなった。
たったそれだけでは当然このような大人数が集まるとは言えなかったが、余りにも人気が出たこととそれに加えて野次馬精神があまりにも刺激されたことが相まって、映像の世界の人物をリアルで見たいというそういう心行きが暴走し大人数が集まることになった。
こちら側としてはそれなりに集まればそれでよかったので、余り多く集まられてもそれほど嬉しくはない。
「警備が、大変になるだけですから…」
次回のイベントの開催はちょうど一年後。
一年という期間に、誰をサバイバルイベントに参加させるのか決めることになる。
映像映りの良い、そしてサバイバルしきれる可能性のある、そして何より戦闘能力をそれなりに有しているそんな人物の中から平等に選出…なおこちらに対する叛意のようなものを持っていないことも調査しないといけない。
基本的にランダムに選ぶとしても、それがある程度面白くなるようなゲームにならないとイベント自体が成立しなくなる。
「ではこれが商品です。きちんと渡しますので今ここで装備して、登録を済ませてから帰ってください」
「ありがとうございます!」
「何か一言感想などがあれば皆さんにどうぞ」
「偶然に恵まれた結果、こうして勝ち上がることが出来ました。皆さんの声援本当に心温まる物でした」
その道具を使って、身内の病気を治癒して回るという。
確実にその効力を発揮したことによって、平穏な生活を手に入れるという夢がかなった。
まさにそれは天の導きによるものであろうか?
単に偶然というよりは、日々の努力が実った結果ともいえる。
何かちょっとしたことに補正がかかる、その程度のスキルなのかもしれない。
その代償が魔法を使えなくなることだというのなら、それはそれで高い代償だと言わざるを得ないだろう。
「彼は一度優勝したので次回からは参加することはできません。殿堂入りという奴です」
「彼には運営側に回ってもらうという事ですね?」
「貴重な経験が新しい運営の方向を示してくれるかもしれない」
そうやって回を重ねていくごとに、洗練され適切な難易度というところに落ち着くだろう。
攻略難易度が高すぎても難しいし、簡単すぎても見てる側がつまらない。
彼を身内に引き込んだことで、此方にも運気のお裾分けがあると嬉しいのだけど。
流石にそんなに都合の良い出来事は起こらないか。
「彼の運の理由は何だったのでしょうか?それだけが不明瞭ですね」
「消化不良は嫌いですか?」
「気になりませんか、解決しない問題って」
保留しておいて忘れた時に解決すればすっきりとするくらいの物で、それほど気にしたことはない。
向こうにある持ち帰った銀の成分分析が終わった。
こちらにも非常に似た性質のある金属はあり、魔道具を作る時に記号を書くときにその印として定着されるために使うことが出来る様だ。
そういう使い方をせずとも、泳ぐための『沼』として大活躍しているわけだが。
「現地で魔道具を作る時に役に立つ金属ですね」
「これから木材も順調に伐採できるようになれば、あとは耐久性さえ無視すれば、繁栄が約束されたようなものですね」
木を順調に成長させるにはエレメンタル術師が一人森に精通している人物が誰かいた方がいい。
何があっても対処できる森のプロフェッショナル、森を切ったり成長させたり面倒を見たり。
その絶妙なバランスを取るのは簡単なようで、一般の知識だけの人間には難しい。
「大変です…大災害が起きようとしています!」
「一体何が…この中では特に変なことは起きていませんが」
「魔力の大暴走が、始まるようです」
辺境には人が住まない理由がある。
それは人が住めないという簡単な理由があるからで、それ以上でもそれ以下でも何でもない。
「定期的に、こうして暴走するからこそ魔の森は恐れられているという訳ですか…」
ここにやってきて初めての大暴走が始まるのだが…それほど大きな事件になるとは微塵も考えていなかった。
何故ならここは鉄壁の守りで、侵入される余地などは全くないのだから…。
問題があるとするのなら、それはこれからここを拠点としている冒険者の側だろうか…。
彼らにこそ防衛を実際に請け負ってもらうことばかりになるのだから…。




