今日の会話 -千円ガチャ-
こんにちは。数ある中から選んでいただき、ありがとうございます。久しぶりの更新で読みづらい点もあるかと思いますが、最後まで読んでいただけたらと思います。
焼き鳥ではタレ味と塩味、どちらが美味しいかというように、二択を巡っての主張のし合いや、ある一つの外見や使い方を題に論争するのは、恐らくどこの国でも誰でも一度は経験があり、平和の証拠ではないかと、私は思っている。
ここで、私のオススメである、とある3人の論争……いや、会話を覗いてみよう。
マジメさが取り柄のスミレ。
高身長でルックス抜群のサク。
金持ちのお嬢様であるツバキ。
今日は何を題に、盛り上がりを見せてくれるのだろうか。
「待って、コレって千円ガチャじゃない!?」
いつものファミレスへ向かう途中、二人の後ろを歩いていたスミレは声を荒らげた。
ツバキとサクは振り返り、スミレの興奮の元である物を見る。
「なんだ?ソレ」
「自販機、とは違うみたいね」
高さは二メートルを超え、自動販売機より一回り大きい。
自動販売機と確実に違う箇所は、飲み物を一つも販売していないことだ。
「千円ガチャっていうの。普通は三百円ぐらいでガチャを回すでしょ?コレは千円限定なの」
「何が当たるんだ?」
「物によって違ってくるんだけど…コレはゲームみたい。最新のやつだね」
『千円ガチャ』とは費用に千円もかかる分、当れば大きいと最近、注目を集め始めている自動販売機型のガチャである。
最新ゲーム機に高級スピーカー、カメラや家電交換券が当たる場合もある。つまり、一発で当たりを引けば大儲けということだ。もちろん、ハズレもある。
「本当にゲームが入っているの?」
ツバキが問いたくなるのは当然だろう。千円も費用がかかる販売機自体が怪しいのに、最新のゲーム機が当たるなんて胡散臭いにもほどがある。
「前にテレビで紹介してたけど、入ってるよ」
「テレビは誤魔化してナンボだろ」
「それはニュースでしょ」
「まぁまぁ」
軽く火花を散らす二人を宥めるツバキ。
スミレはバラエティやお笑い番組が好きな為、流行を捉えるのが早かったりする。
一方サクはニュースぐらいしか観ず、若手芸人などは名前すら知らない。
「ニュースは誤魔化してんじゃねぇ、とりあえず伝えてんだ。そして修正してくんだよ」
「バラエティだってヤラセ疑惑とかよく聞くけど、芸人だってキャラ作ってるんだから。ヤラセじゃないもん」
「どっちもフォローしきれてないわよ?」
思わずツッコミを入れるが、よくよく考えるとフォローどころか、庇う面影もない台詞である。
「私の好きな番組を疑うなら、やってみる?」
「おう、望むところだ。ハズレも入ってるんだろ?一番、安い物が当たった奴が今日のファミレス代を奢るっていうのはどうだ?」
「オッケー、受けて立つよ。ね、ツバキ!」
「巻き込まないで?」
反論するが聞く耳なんて持っていないスミレ。
完全に巻き込まれたツバキは渋々、財布から千円を出した。
(面白そうだから別に構わないけれど…二人の気まぐれって巻き込み型なのよね…。飽きないんだけど)
などと思いながら、何故か一番手に千円を投入する。
ボタンを押すとカタンッ、と音が聞こえた。恐らく商品である箱が落ちてきたのだろう。
「…随分、小さな音だな」
「きっとカメラなのよ…!」
なんやかんや思いながらも、実は楽しんでいるツバキ。
箱の中から出てきた物は…。
「なんだソレ…?」
「おもちゃ、かしら」
「スイッチ入れたら動くヤツじゃない?」
出てきた物は座った状態で万歳をしている白黒パンダ。スミレの言うとおりに背中にあるスイッチを入れると、音楽が流れ出し、上半身を左右に揺らし始めた。
「…ちゃっちいモンだな」
「言わないでよ…コレ絶対300円ぐらいじゃない」
そう、これはファミレス代をかけた勝負。当てた商品の金額で勝敗が決まるのだ。
「次は私の番ね!来い、最新ゲーム機!」
勢いよくボタンを押したのは良いが、箱の落ちる音は思っていたより小さかった。
「随分、小さなゲーム機なんだな」
サクの皮肉には答えずに箱を開けるスミレだが。
「色違いのパンダ…」
「まさかの、ね」
「次は俺だな」
とりあえず、パンダだけは避けたいサク。そしてあわよくば、最新ゲーム機を…!
願いながらボタンを押したが、落ちた箱の音は2人のととても似ていた。
「パンダ?パンダなの?」
「サク、ここはパンダを当てるべきよ」
「パンダ言うな」
嫌な予感を振り払いながら箱を開ける。
手が商品に触れる。感触はフワフワだ。もしかしたら別のおもちゃかもしれない。とりあえず推定金額300円を超えていれば。
覚悟を決めて、バッと取り出す。
「…マジでパンダ当ててどーすんの」
「3人、色違いね」
「ちょっと3つ同時に動かしてみようよ」
3人並んで同時にスイッチを押す。当たり前だが同じ音楽が流れ出し、色違いのパンダ3匹が思い思いに上半身を左右に揺らす。
「ちょっとした狂気を感じるわね」
「中古屋に売っちゃう?」
「ただでさえマイナス出費よ」
「なんかゴメン」
「ファミレス代はスミレだな」
スイッチを切り、箱にパンダをしまいながらさり気なく言うサク。
「嘘じゃん。同じパンダじゃん。自腹でしょ?」
「ゲーム当たらなかったな。な、ツバキ」
「これじゃぁ、パンダの自販機ね。ね、サク」
「お願いツバキを味方にしないで。心折れちゃう」
とは言うものの、言い出したのは自分だし、ツバキを巻き込んだのも自分である。反論する資格はない。
「くっ…今日はこのへんで諦めてファミレス代は奢らせてもらうけど、次は勝つから…!」
「なんだ『次』って」
「またやるの?」
「別の所でリベンジやっ!」
パンダを箱にしまいながら歩き出すスミレ。やれやれと呆れながら顔を見合わせるサクとツバキ。
「本当、2人と居ると飽きないわ」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
3人はやっと、ファミレスへ向かって並んで歩き出す。
千円ガチャは最近、人気を集めていて、街中にあります。駅前だけではなく、人通りのある道路に設置されています。
みなさんも是非、挑戦してみて下さいね。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。コメントなどお待ちしております。また暇な時にでも、遊びに来て下さい!