魔法使いに人権は必要か?
引き戸式の玄関を開けると、空にはもう星が見えていた。
そこまで話し込んでいた訳でもなかったはずなのに、意外と時間が経っていたのか。
「それじゃあ、また明日!」
「う、うん」
ちょっとだけ声を出して私は返事をした。
ずっとあの仏頂面な軍服さんがものすごい威圧感を放っているけど。
とりあえず、私はミノルたちに背を向けて歩き出した。
後ろのミノルは子供みたいに手を振っている。
本当に何者なんだろう、あの人たち。
なんか、今日は色々ありすぎて頭がこんがらがっている。
大体において、なんで私が魔法使いになったんだろう?
本当にミノルの力なのかな?
「あ」
そこまで狭い道じゃないのに人にぶつかってしまった。
考えながら歩いているとろくな事がない。
「す、すみません」
見上げると私より一回りぐらい大きい男の人だった。
赤い髪は夜の月に照らされて不気味に輝いている。
しかも、かなり強面で借金取りでもしてそうな雰囲気をしている。
いや、夜に絶対会ったら行けない人だ!
「おい」
低く野太い声が響く。
「は、はい」
威圧感に押し負け、自分の声が震える。
なんでさっきまで気づかなかったんだよ私。
「伊乃ミノルを知っているか?」
「へ?」
なんでこんな人からその名前が出るの?
「全く、あんな女を魔法使いにして…」
隼人はため息を出しながら呟いた。
「でも、多分良い魔法使いになると思うよ」
「お前のその根拠のない勘はどうなってるのか気になるぜ」
俺が答えるが隼人は当てにしない。
「どうすんの?悪事に手を染めたり、過激派の奴らに捕まってたら」
「お前も心配してるんだな」
正樹がゲームをする横目で言うと、隼人は見るからに嫌な顔をした。
「うるせぇ、ただの一般人を俺たちのせいで不幸に巻き込むのは心が痛むってだけだ」
俺はああいう風見鶏のような性格のやつが大っ嫌いだ、と隼人は言う。
「まあ、もしなんかあったら駆けつければいいさ」
「はあ?どうやって」
「これでね」
隼人が疑問に思った顔でこっちを見たので、俺はポケットの中の機械を取り出した。
液晶には何やら地図のようなものが映っている。
「…それなに」
「聞かなくても聡明な隼人なら分かるでしょ?」
「お前なんで今日あっただけの女子高生にGPS付けるんだよ!」
「何で?仲間じゃん」
仲間を守るために必要なものでしょう?
「お前はプライバシーの権利ってのを知らねぇのか!」
「知ってるよ、だけど情報開示の権利も僕たちにはある」
「ねぇよ!見ず知らずの人間の位置情報を知る権利なんてねぇよ!」
お前はストーカーかと叫ぶ隼人。
「見ず知らずの人って酷いなぁ、怜花ちゃんはれっきとした仲間だよ」
「俺は認めた覚えはねぇ」
「いや、自分でこう言っていたよ」
俺は1時間前のボイスレコーダーを再生させる。
そこには怜花を仲間と言った隼人の声がはっきりと入っていた。
「……お前、そのうち訴えられるぞ」
と、呆れ顔の隼人だったが、液晶の画面を見て目の色を変えた。
「おいミノル、これヤバくないか?」
「ん?あ、本当だ」
彼女の位置情報は完全に帰宅するようには見えなかった。