あねだいーあねだい-あにいもうと
「うわっ、寒っ!」
リビングに入ると、まるで冷蔵庫のような寒さだった。エアコンきかせすぎじゃね?
「姉ちゃん、リモコンどこ?少し上げようぜ」
ここでエアコンの電源を切ったり、ベランダの窓を開けたりしようものなら寒いならよその部屋へ行けと怒鳴られる。
「知らん、どっかそこら辺にあるんじゃない?」
そうは言われても机の上や床の下にリモコンはない
「どこ置いたん?見つからんけど」
ソファーの上で毛布にくるまってスマホをいじくる姉。あんたも寒いんだろ
「だから知らんっていいよるやろ」
これ以上追求したら姉ちゃんがキレそうなので、仕方ないのでベランダに干してある靴下を回収してそれをはく。これで幾分かましになった
「あたしも寒いけん靴下とって」
もうエアコン切るぞ
冷蔵庫を開けると昨日のうちに作っていたプリンが消えていた
「なぁ、姉ちゃん、冷蔵庫で冷やしてたプリン勝手に食った?」
「いんや?食ってないけど?」
白々しく否定する姉、堂々としてるけど食ったよね?他に家に誰もいないじゃん
「怒らないから正直に言ってみ、食ったでしょ。流しに容器とスプーンが置いてあるじゃん。食べたんならせめて洗いなよ。」
ソファーに埋もれてスマホをいじくっている姉、夏休みだからといって毎日そんなだらけていていいのか、姉よ。
「しつこいなぁ、もう。自分で食べたんでしょ」
「ところでプリンちゃんと固まってた?いつもよりすこし多めに作ってたからゼラチンが弱いかなと思ったんだけど」
「いや、別にそんなことなかったけど。ちゃんとぷるぷるして美味しかったよ」
「ほらやっぱり食べたんじゃん」
「あぁ、それがなにか?冷蔵庫に入ってるものを勝手に食べて何か悪い?」
この姉、開き直りやがった!?
「姉ちゃん、姉ちゃんの分もプリン作ってたし勝手に食べるのはいいんだけどさぁ」
そこで小さくため息をついて会話を切ると、姉ちゃんはじゃあなんの文句あんのよって感じな眼をしてくる。まぁ文句はないんだけどねぇ。
「………だって美味しかったんだもん」
まぁ、本当に文句はないんだけど。
「太るよ」
それでも普通7カップも食べるかね
「うっ」
トースト一枚に牛乳一杯、これに本来プリンがつくはずだったのだがないものに文句を言っても仕方がない。そんなかんじで朝飯を適当に済ましたら家を飛び出す。せっかくの夏休み、遊ばないで他に何をするというのだ。
「あっ、弟くんだ。こんにちは」
玄関で知り合いと遭遇した。姉ちゃんの友達で俺の親友の姉キ
「あっ、どうもっす」
突然知り合い以上友人未満の相手に話しかけられたらキョドって「あっ」と語尾に「っす」が付くのは陰キャの性だと思う。そして友人にはやたら馴れ馴れしくて知り合い以下には必要以上の会話をしたがらない
「いや~、今日も暑いねぇ。まだ午前中なのに30度越してるらしいよ」
「あっ、そすっね。」
パタパタと胸元を手で煽る大学生のお姉さま。エロくて素晴らしいと思います。
「弟くんはウチの弟のとこ行くの?」
「あっ、はい。そうしようと思ってました。そっちもそんな感じっすか?」
「まあね~、暇だし君のお姉さんの部屋の片付けでもしてやろうと思って。」
「………それはご迷惑をおかけするっす」
「いいよいいよ~、こっちも好きでやってることだし。それより勉強は大丈夫?ここのところ毎日ウチに遊びに来てるでしょ。受験は高2の夏から頑張らないとヤバイよ」
「大丈夫っすよ、ウチの姉ちゃんもこの時期こんな感じでしたし。自分、地頭がいいんで」
そう言うとお姉さまは額に手を寄せて小声で何か小さく呟いた。
「弟くんは生活力はしっかりしてるのにそういうところはお姉ちゃんにそっくりだねぇ」
「えっ、何か言いました?凄く心外な事言われた気がしたんですけど」
「何でもないよ、あっそうだ弟くん。これあげるよ」
がさごそと鞄の中から何かを取り出して手を出してくる。
「飴っすか?」
「そっ、塩分と糖をいっぺんに採れる便利アイテム。熱中症対策になめるといいよ」
「あざっす、じゃあ自分そろそろ出掛けるんで」
「あはは、玄関で話しすぎちゃったね。ところでお姉さんは?」
「姉ちゃんならエアコンの冷気にうなされながらリビングで寝てるっすよ」
「まったく」
お姉さまは大きなため息をおつきになった。せめてウチの姉ちゃんもお姉さまの半分くらいでもしっかりしていてくれたらよかったのに
「という事があった。というわけで結論、お前の姉ちゃんマジお姉さま。ってバカ!自爆攻撃とかマナー違反だろ」
男子三人で集まって毎日毎日ゲーム三昧、女もいないのにかしましい。これこそが夏休みの過ごし方の鉄板だろう
「いやいや、ウチの姉ちゃんも家じゃそんな感じだって。昨日だって寝巻き持ってくるの忘れたって全裸で家中走り回ってたし、ってオイ、コントローラー奪取は止めろよ」
「「ばっきゃろ、それは萌えポイントだろ!?」」
「あと人使いが荒いよな、この炎天下の中しょっちゅうパシらされて少しでも買ってきたもんに不満があればネチネチ文句を言うんだぜ」
「おいおい、あのお姉さまがそんなことする沸けないだろ」
「お前はウチの姉ちゃんに幻想を抱きすぎだ」
まぁウチの姉ちゃんはあれだな、ろくなもんじゃねえよ。いやウチの方こそが。
俺と親友が互いに姉の悪口を言い合って数分、ゲームに集中しつつ話を聞いていたもう一人の親友がポツりと呟いた。
「まぁウチの妹には関係ない話だなぁ」
「「はぁ?」」
俺と親友の声がハモった
「だってウチの妹は毎日のようにお兄ちゃん大好きって言ってくれるんだぜ」
「なぁ、お前の妹って確か小2だったよな」
「そ、そうだけど」
こいつは何も分かっていない。本当に何も分かっていない
「お前も一年後にはこっち側にくるんだよなぁ」
「そうそう、小3くらいからやたらと内弁慶になるんだよなぁ」
「「そしてどんどん外面が分厚くなってくる。」」
「小4から始まって中2まで続く長い長い」
「「反抗期」」
「なにか話しかけるだけで舌打ちされるんだよなぁ」
「いや、あのお姉さまがそんなことするわけないだろ」
「いやあのお姉さまは外面で出来た幻想だって」
「あぁん?じゃあお前はウチの情けない姉ちゃんとあのお姉さまが同じだっていいたいのか?」
「そうだよ、女なんてみんなそんな感じなんだよ!」
「止めろよお前ら、俺の妹をそんなのと同じくくりにするんじゃねぇ!俺の妹はなぁ、きっといつになってもお兄ちゃん大好きって言ってくれる天使なんだよォォ!」
「「うわぁ、オタクきも」」
そんなやり取りをしつつゲームをしてたらいつの間にかもう夕方。
結論、男三人よれば会話は大体身内の愚痴か下ネタ
帰る途中ジャージ姿でランニングしている姉ちゃんを見かけた。きっと太るという言葉がそこそこささったのだろう
帰ってきたら体重が0,5キロくらいへってるかもしれない。だから姉ちゃんが河原でやらかしていたところなんて見ていないことにしよう