第九十八話〜王都『リトゥーラ』① 王女様の帰省〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
「先生ーー! おっはようございまーーす!」
「はいはい……」
あの日からというもの、先生(私)大好きフィオちゃんは毎日朝早くから我が家に訪ねてくる。そしてそれは本日でちょうど一週間。もはや家族と言っていいくらいには馴染んでしまった。
「おはようフィオちゃん。相変わらず早いね……(怒)」
「てへっ☆」
「はぁ……」
まぁいいか。なんだかんだでここ最近はこれが日課になってきているのでだんだんと慣れてきた。いや、もちろんゆっくり寝たいのが本音だけどね。
「ルノ様、いつも朝早くから申し訳ございません……」
「ふあぁぁぁ……おはようございます、ルノ嬢」
「あれ……お二人が一緒なんて珍しいですね」
この二人はフィオちゃんの付き人。毎日、早朝からフィオちゃんが訪ねてくるので、流石に悪いと思ったのか頭を下げるオリーヴァさんと、叩き起されてまだ眠たいらしいバカさん。お揃いのレイピアを腰に差したこの美男美女は傍から見たらカップルに見えなくもない。
「ルノ様、何か妙なことを考えておられませんか?」
「きっと俺たちが美男美女カップルにでも見えたんだろう」
「あ、自分で言っちゃうんですね……」
とまぁ、こんな感じに王都からやって来た三人とは仲良くやらせていただいている。
「まぁ、立ち話もなんですし、どうぞ上がってください」
「お邪魔します、先生!」
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リビングにやって来るや否やフィオちゃんが笑顔でこんなことを言ってきた。
「先生! 私、王都に帰ります♪」
「うん、おつーー」
「ちょっと先生!?」
「うわっ! な、なに!?」
本日のフィオちゃんのお土産『オウトゼリー』に夢中の私。名前からして食欲が失せそうだが、いざ食べてみるとこれがまた絶品なのだ。ちなみに以前貰ったチーズケーキは『オウトチーズケーキ』らしい。
「ちゃんと聞いてくれてますか? 私、王都に帰っちゃうんですよ?」
「うん、もちろん聞いてるよ。おつーー」
「少しは寂しそうにしてくださいよぉ!」
「だって『帰ります♪』とか言ってるからなんか裏があるのかと思ってさ。あ、分かったぞ。次の日に『また来ちゃいました♪』とか言って驚かせる気でしょ」
「うっ……さすが先生ですね。でもでも! 帰るのは本当なので寂しそうにしてください!」
「うえーーん」
「……ぐすっ」
あ、まずい。
「ま、まぁもちろん私も寂しいよ? こうして一週間も一緒にいれば情も移るってものだしね」
「本当ですかっ!?」
「うん。それに『先生』なんて呼んでくれる子はフィオちゃんが初めてだしね。少々のお別れだとしても寂しいよ」
「嬉しいっ! それなら先生!」
「ん?」
「先生も一緒に王都へ帰りましょう!」
「え……」
「先生が寂しいって言ってくれて嬉しいです! 私も寂しいです! だから先生も一緒に王都に帰りましょう!」
「……」
ふざけている訳ではなさそうだ。目がマジだもん。
「ごめんね、フィオちゃん。確かに王都には興味のあるけど、私にも家族がいるからさ?」
その時。
「行ってきたらどうですか? 家の事なら私達に任せておけば大丈夫ですよ」
「うん、心配いらないよ、ルノ!」
「さようなら、ルノさん……」
みんなの優しさが身に染みる。と思ったが、約一名、私がもう帰ってこないみたいなノリの人がいるぞ。ちゃんと帰ってきますよレヴィナさん?
「その気持ちは嬉しいけど……フユナ達は行きたくないの?」
「だって……どうせ今はフィオちゃんのお話だから……フユナの出番なんて……(ブツブツ)」
「ルノは突然転がり込んだ王女様の相手をしてばっかり……帰ってきたらまたイタズラしてやる……(ブツブツ)」
「ルノさん、さようなら……」
「あらら……」
我が家の家族がもれなくいじけてしまっている。確かに王女様の話とはいえ放置しすぎたか……この調子だとグロッタやスフレベルグも危ういな。
「よし、せっかくの機会だしみんなで王都の観光でもしよう。それにフィオちゃんのお話は終わったから今回からは私達がメインだよ」
「やったーー! じゃあ行くーー!」
「先生ひどいっ……!?」
まぁ、王都に行くわけだからそうも言ってられないけどね。
「まぁまぁフィオちゃん。私一人と行くより家族全員で行った方が楽しいよ。ほら、みんなでご飯食べたり写真撮ったりさ」
「そ、そうですね。………………たしかに楽しそう」
そして、私達の王都行きが決定したところで……
「話はまとまったようですね。では、ここからはわたくしが」
ここぞとばかりにずいっと出てくるオリーヴァさん。この人も出番が少なくていじけていたんだろうか。
「とは言っても多くはありません。行き帰りはこちらで用意した馬車に乗っていただければいいですし、王都での衣食住もこちらで手配させていただきますので、どうか気楽に来て頂ければと」
「なんだか至れり尽くせりで申し訳ないですけど……ありがとうございます」
「いえいえ、ルノ様とそのご家族の方々は大切なお客様ですのでどうかお気になさらず」
「そうそう! それにルノ嬢達が来てくれた方が自分達も楽しいですから」
「そう言ってくれるととても有難いです」
そうと決まればさっそくグロッタとスフレベルグも呼びに行かないと。いじけてなきゃいいんだけどな……
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「いやいや、久しぶりですなルノ様!」
「ワタシ達のこと、ちゃんと覚えてたんですね?」
「あ、あたりまえでしょーー? あはは」
王都への観光の話をグロッタとスフレベルグの二人にしたところ、返ってきたのがこちらのお言葉。やはりいじけていたようだ。
「ほら、元気出して! 王都だよ、王都! ワクワクしちゃうなーー!」
「でも、わたくし達が行っても大丈夫なのですか?」
「もちろんだよ。魔法で小さくはなってはもらうけどね。それに私達は王女様の大切なお客様だから気楽に……ってオリーヴァさん言ってたよ」
「それなら文字通り羽を伸ばさせていただきましょうか」
「うむ、なかなか分かっているではないか。オリーブとやら」
うんうん。二人ともなかなか乗り気になってくれたみたいで良かった。てかオリーブさんて誰よ。
「皆様、お待たせしました。どうぞお乗り下さい」
私達の目の前にやってきたのは見るからに立派な馬車だった。これしか見たことないけど。
「ルノルノ! 綺麗なお馬さんだよ!」
「おぉ……こんなの初めての見た!」
そうなのだ。『立派な馬車』と思ったのは馬車本体よりも、馬の見た目によるものが大きい。繋がれている二頭の馬はそれぞれ白と黒。聞くところによると、白がオリーヴァさん、黒がバカさんの馬で、王都でもかなりいい種類らしい。
「よしよしーー! 毛がすごいサラサラ!」
「ほんとだ! 気持ちいい!」
「先生ーーフユナちゃーーん置いていっちゃいますよーー?」
「あぁ、はいはい……!」
猫のモフモフ感とはまた違って、ツヤツヤ感とでも言うべきか、恐ろしい魔力を感じるな。あとでまた触らせてもらおうっと。
「先生! 私の隣が空いてますよ。どうぞどうぞ!」
「あ、どうも……」
馬車の中は一見、なんの変哲もない普通の感じだったのだが、席に腰掛けてみるとそんな考えは吹き飛んだ。これ、我が家のソファーより柔らかいぞ!
「全員乗りましたか? 王都『リトゥーラ』にはお昼頃には到着すると思いますので、それまでは馬車の旅をお楽しみください」
馬車の旅に、初めての王都。急遽決まったこととはいえこれはテンションが上がるぞ!
「では、出発します!」
いざ、王都へ!