第八十八話〜フユナ&コロリンと温泉に行った。あとレヴィナも〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
「今日はどこ行こうか?」
朝食の席にて、私がみんなに問いかけたところ……
「カフェに行きましょう」
「温泉に行きたいなーー!」
我が家の二人のスライム、フユナとコロリンがそんな提案をしてきた。
「ふむふむ。レヴィナはどう?」
「そうですね……私もその二つが捨てがたいなぁと……」
「よし、それなら今日は温泉に行こう。コロリンは最近、目立ち過ぎだから今日は脇役ね」
「そんな事をありませんよ。ほら、フユナ。よーーく考えたらカフェの方が行きたくなってきたでしょう? ん? ん?」
「え、えっと……?」
自分の意見を覆されたコロリンがフユナに絡み始めた。本気で絡んでる訳では無いのでほっとこう。
「それにしても……レヴィナはすっかり脇役みたいになっちゃったね」
「ひ、ひどいっ!? 私もちょっと気にしてたのに……!」
「あ、そうだったの? てっきり、今の立ち位置には満足してたのかと思ってたよ。あはは」
「満足なんてしてませんよ……今回こそは私のお話にしてくださいっ!」
「うわっ!?」
秘めた願望を打ち明けたレヴィナが突然大きな声で迫ってきた。必死過ぎて怖い……
「わ、分かったから!? それなら今回は『フユナ&コロリンと温泉に行った。あとレヴィナも』にするから!」
「私、明らかに脇役じゃないですか……!?」
そんなこんなで少々横道に逸れたが、大まかな予定は決まった。
「ほらほら、さっそく温泉に行く準備するよ」
「ルノ。カフェですね? カフェなんですよね?」
「ルノさん。私の出番は……!?」
なんだか我が家もずいぶんと賑やかになったものだ。
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村までの道中。
「それでね? 休憩中にサトリちゃんとランペッジさんがーー」
「ルノ? あなた、毎晩寝言がすごいですよ? 昨日なんて『フユナかコロリン? どっちも私のモノ〜♪』などと言ってーー」
左手にフユナ、右手にコロリンの手がそれぞれ繋がれている。外に出るや否や、二人が私の手に飛びついてきたのだが……可愛すぎる!
一方、レヴィナはというと……
「ぽつーーん……」
「……」
チラッと後ろを見てみると寂しそうにレヴィナが付いてきていた。私の両手が塞がってしまったので場所が無い……という訳では無い。どっちかの隣を歩けばいいのに。仕方ない!
「レヴィナ? 両手は無理だからおんぶでもしてあげよっか?」
「……! ……え、えぇ!? い、いいですよそんな……子供じゃないんですから……」
とか何とか言いながら一瞬迷う素振りを見せたレヴィナ。半分ネタで言ったので『ぜひお願いします!』とか言われたらどうしようかと思ったよ。
「それならほら、これあげるから元気だしなよ」
そう言って私は氷で作った十字架をレヴィナにプレゼントした。
「あの、ルノさん? これはどういう……?」
「いやほら、レヴィナは双剣とか使わないでしょ? それで、何が似合うかなって考えたら十字架だったの」
「ひ、ひどいっ!?」
どうやらお気に召さなかったらしい。それでもしっかり両手で大切そうに持っている姿はなんだか可愛らしかった。
「ルノ。私にも何かくださいよ」
今のやり取りを見ていたコロリンが食いついてきた。まったく……この構ってちゃんは可愛いな。
「フユナはもう前にルノから貰ってるよ! ふっふーーん♪」
「あっ、なんですかその勝ち誇った顔は! ルノ、フユナのものより立派な物をください!」
「はいはい……」
という訳で、私はフユナに作ってあげたものと同じ、一本だけの双剣作ってあげた。つまりこれは……
「はい。それはフユナにあげたものと合わせて一つの双剣だよ。二人とも仲良くね」
「お揃いだね、コロリン!」
「そうですね。お揃いです」
「ぐぐ……!」
約一名、悔しそうにしている人がいたが、それぞれに合ったものをプレゼントできたので私は満足だった。
そんなこんなで村までの道中、それなりに濃いストーリーを展開していると、あっという間に到着した。いつもと同じ道なのに、家族が増えただけでここまで変わるとは。
「なんだかんだで、ここの温泉に来るのも久しぶりな気がするね」
「できたばかりの頃は毎日来てたのにね!」
「あはは、懐かしいねそれ」
私とフユナがそんな思い出に浸っていると、一人の人物が現れた。
「お? ルノさんじゃないか。それにフユナちゃんにコロリンちゃん、レヴィナさんも」
コロリンちゃんって……なんかしっくりこないな。
「これはこれは、ロリコンさんじゃないですか。また女湯を覗きに来たんですか?」
「おい、名前!? それに『また』ってなんだ!? 勘違いされたら……ち、違うぞ!?」
コロリンがものすごい冷めた目でランペッジさんを見つめ、それに気付いたランペッジさんが慌てて否定する。
「はは、大丈夫だよコロリン。ランペッジさんはまだ覗きはしてないよ」
「そうですね。まだ」
「何も解決してない!」
「さて、冗談はこの辺にして……おはようございます、ランペッジさん。こんな所で何を?」
「ふっふっふ。何を隠そう、オレは温泉に入りに来た」
「え、やっぱり覗き……」
「なんでそうなる!?」
とまぁ、そういう事らしい。
「じつは私達も温泉に入りに来たんですよ」
「お、それなら一緒に入れるな」
「いやいや、ここ混浴じゃないですからね?」
「そうだった」
「今絶対あわよくばって思ってたでしょ?」
「まさか! (キリッ)」
「ふーーん? まぁ、そういう事なのでランペッジさんとはここでお別れですね」
「そうだな。んじゃまた後ほど食堂で」
「んじゃ、行こっかみんな」
「ぐはっ!?」
さりげなく本日は一緒に過ごそうと誘ってきたランペッジは華麗にスルーしておきました。
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そしてついにやって来た温泉。ロッキの温泉も良かったが、ここの温泉もなかなか良い。何がいいかは分からないがとにかく良い。
「「「ふぅ……」」」
お湯に浸かりながら一息つく私、フユナ、コロリン。温泉というものは人間だろうがスライムだろうが分け隔てなく癒してくれる素晴らしいものだ。
一方、レヴィナは……
「すやーー……」
「またこの子は温泉で寝てる……」
その気持ちは分からなくもないが、実際にそれをやるのは危険だ。何故なら……
ズル、ズルズル……チャポン!
「ごぼぼっ……!?」
こうなる。
「ほら、レヴィナ。気持ちいいのは分かるけど寝ちゃダメだよ」
「げほっげほっ! すいません、つい……」
そうして再びまったりしていると、今度はフユナが……
「うとうと……」
「……」
なにこれ、可愛すぎるんですけど。
「あ、もちろんレヴィナの寝顔も可愛かったよ?」
「え? なんですか突然……?」
今度はちゃんと起きてるレヴィナに妙な目で見られてしまった。
「とと、それより。フユナーー」
私がフユナを起こそうとしたその時……コロリンが明らかにニヤニヤしながらフユナの方に近付いていき、両手を組んでフユナの顔の前に持っていった。嫌な予感がするなぁ……
「えいっ」
プシュ!
「わぶっ!?」
「やっぱりやった!」
コロリンが組んだ手からは水鉄砲のようにお湯が噴射されてフユナの顔に直撃した。
「あはははっ!」
「げほっげほっ! なにするのーー!?」
「温泉で寝ていたら危ないですよ?」
「むぅーー!」
微妙に正論を言われて黙り込んでしまうフユナ。このくらいのやり取りなら注意することもないか。むしろ微笑ましい。
「とは言え、私も眠くなってきちゃったな。そろそろ上がろうか? のぼせちゃったら困るしね」
「そうですね。この流れだと……おそらく次に寝るのはルノですからね」
「うぐっ……!?」
痛いところを突かれた私は渋々、温泉から上がる事にした。
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温泉から上がった私達は、お食事処へやってきた。ランペッジさんは『食堂』と言っていたが、こっちの方が温泉に来た気がする。
「お、待ってたぞ」
少し離れたテーブルから来い来いと手招きしてくるのは先程入口で会った……
「食堂さんじゃないですか。一応言っておきますけど、私達は元々食事していくつもりでしたからね?」
「だから名前!? かすってすらいないじゃないか!」
相変わらず反応が面白い。というか『ロリコンさん』はかすってたのか。
「ま、なんでもいいさ。ほら、フユナちゃんにコロリンちゃん。オレの両サイドが空いてるぞ?」
「さっそくアタックしに来ましたね……」
こうして席に着いた私達の並びは私、ランペッジさん、レヴィナ。その向かいにフユナ、コロリンとなった。
「…………」
「いや、落ち込み過ぎですよ……そんなに私じゃご不満ですか。それにほら、見てください。レヴィナだって最近脇役になりつつあるだけであって、お顔は可愛いんですからね」
「確かに」
「え、えぇ……!?」
新たなカップル誕生。後でサトリさんに言いつけてやろうっと。
「さてと。何食べようかなぁ……」
そこで、ふと目の前に視線を向けると……
「ねぇねぇ、コロリン。これとこれ、どっちが美味しいかなーー?」
「おや……私もその二つで悩んでたんですよ」
「じゃあさ、別々のやつ注文して半分こしようよ」
「いいですね。あ、このおまけは私にくださいね」
「えーー!」
フユナとコロリンは相変わらずの仲良し。そしてレヴィナとランペッジさんは……
「それでな、オレがその隙を突いてルノさんを一撃で倒したわけさ!」
「ポッ……!」
「ちょっとランペッジさん? 私、ランペッジさんに倒された事なんてないですよね? 捏造ですよね?」
「……」
「嘘つきーー!」
「ぐはっ!?」
パシーーン! と、爽快な音と共にレヴィナ・ランペッジカップルが消滅した瞬間だった。
「まぁ、みんな楽しんでくれてるみたいで良かった。すいませーーん、注文お願いします!」
そんな感じで食事の注文をしてから食べ終わるまで、私はみんなのやり取りを微笑ましく思いながら見守っていました。
一応言っておきますが、私は会話に入るタイミングを逃してぼっちになった訳ではありません。