第八十四話〜新生コロリン④ ポキッと逝った双剣〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。
あれから、一人ぼっちとなった私はスフレベルグも呼んでグロッタの小屋に遊びに来ていた。
「うぅ……フユナもレヴィナもすっかりコロリンの虜になっちゃってるの……レヴィナなんて実際に私をポイしたの……」
「はいはい、ワタシ達はポイしませんよ」
「しくしく……」
コロリンに我が家を乗っ取られてしまい、私はグロッタの小屋。ついに私はコロリンのペットになってしまったのか。
「と、まぁ冗談はこれくらいにしてと。スフレベルグも後でコロリンに会ってあげてね」
「本音は?」
「ちょっと寂しい」
「ゲラゲラ!」
「ふふ……では、コロリンへの挨拶は……そうですね、今しましょう」
「今?」
すると、我が家の方からフユナとコロリンが出てきた。
「こんにちは、コロリン」
「あら……こんにちは、スフレベルグ。降りてきてたんですね」
「えぇ。ルノが寂しがっていたのでワタシとグロッタで構ってあげてました」
「ルノは構ってちゃんですからね。使い魔として、主にはもっとしっかりしてもらいたいところです」
ちょっと待って。なんでごく自然に会話が成り立ってるんだ。私が構ってちゃんなのは共通認識なのか? 断じて違うぞ!
「ところで二人ともどっか行くの? てか、レヴィナは?」
「これからね、そこの草原でコロリンと特訓するんだよ」
「レヴィナは覚えがイマイチだったので部屋で居残りしてます」
「はは、そうなのね」
居残り……先程のコロリンの講義の事だろう。レヴィナも真面目だなぁ。
「ルノも一緒に来ますか? 氷の魔法だけ極めてたら頭まで氷になってしまいますよ? ぷっ」
「うく! そ、そうだね。氷にはならないけど、その特訓はちょっと興味あるかも」
「では、ワタシも」
「わたくしもぜひ」
こうして、コロリンの後にぞろぞろと付いて行く私達。これ、ほんとにもうコロリンに我が家を乗っ取られてるんじゃないのか?
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「さぁ、かかって来なさい。フユナ」
「えっ……?」
特訓を始めるや否や、いきなりコロリンがそんな事を言っていた。
「ちょっとコロリン。血迷ったの? やっぱりイタズラ好きのアホっ子なの?」
「アホっ子はルノの方ですよ。今朝、私と勝負したのを忘れたんですか? ……ぞくぞく!? 思い出しちゃった……」
「あぁ、そう言えばそうだったね。私がコロリンにお仕置きしたね」
コロリンはその時の記憶が蘇ったらしく、顔が真っ青になっていた。
「まぁ、確かにあれなら大丈夫か。でも人間の姿の時もあんなに硬いの?」
そんな疑問を持った私はコロリンのほっぺたをむぎゅっとつまんでみた。
「おぉ。柔らかい。かわいいけど……これじゃ豆腐じゃない?」
「いたた……! 豆腐とは失礼ね。だからこそ先程のコンゴウセキ魔法の出番なのですよ」
「ほぅ?」
ほっぺたをつまんでいた私の手をどけると、コロリンが自分の胸に手を当ててコンゴウセキ魔法とやらを発動させた。
「ふふ。これで無敵ですよ」
「お、ほんとに硬いや。便利だね、その魔法」
今度はほっぺたをつんつんしてみたが、全然柔らかくない。まるでコロリンがそのまま人間になったみたいた。いや、その通りなんだが。
「そういう訳だから、フユナ。双剣でもなんでも遠慮はいりませんよ」
「うん、分かった。それじゃ全力で行くよ!」
そう言うと、フユナは一気に加速し、コロリンの懐に到達した瞬間に鋭い斬撃を放った。こうして見ると、フユナもどんどん成長している事が分かる。
しかし次の瞬間。
ポキッ!
「「あっ」」
私とコロリンの声が重なった。ここでまさかの使い魔とのシンクロ。視線を上に向けると、フユナの双剣『カラット・カラット』の片割れが空中を舞っていた。
ポトッ。
しばらくの静寂。次に口を開いたのはフユナ。
「えーーん! 折れちゃったーー!?」
そうなりますよね。
「どど、どうしよう……ごめんなさい、フユナ……? ほ、ほら、ルノ。あなたは立会人なんだから何とかしてください」
「またそんな無茶振りを……」
うーーむ『カラット・カラット』ってたしか絶対に折れないんじゃなかったっけ? 斬れ味が落ちないだけだっけ?
ちなみに、見学していたグロッタとスフレベルグは自然の一部となり知らん顔していた。またその技か!
「と、とりあえず……ほら、フユナ。氷の双剣だよーー!」
急ごしらえではあるが、私は氷の魔法で折れた分……つまり片方だけの双剣を作ってあげた。溶けない効果のおまけ付きだ。
「ぐすっ……ありがとう……」
「「ほっ」」
とりあえずは一安心。『カラット・カラット』はフユナがとても大切にしていたものなので折れた分は拾って……
「ポイしておきますね。この片割れ(ポイッ)」
あっ!? 捨てやがったぞ、この子!!
「えーーん! ひどいーー!」
「こら、ばかコロリン! それはフユナの大切なものだって言ったでしょ!」
「ばかってなんですか!? ルノの心の中までは読めませんよ! ばかルノ!」
「ばかって言った方がばかなんです! ほら、早く拾ってきて!」
「むむむ……!」
渋々、折れた双剣の片割れを拾いに行くコロリン。
「ルノーーこの辺でしたっけ? 一緒に探してください」
「はいはい……」
その後、なんとか片割れを見つけ出して、今度こそ一安心だ。双剣の件は後でカラットさんに相談するとしよう。
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そんなこんなで、時間はちょうどお昼。
グロッタの小屋まで戻ってみると、レヴィナがお昼ご飯のサンドイッチを用意してくれていた。これは『レヴィナサンド』か。
「お、美味しそう! ありがとね、レヴィナ」
どうやら我が家ではサンド料理がブームらしい。そして大体が私の『ルノサンド』を超える味なのだ。もちろん、今回も。
「うぅ……美味しい。美味しいよレヴィナ……」
「そ、そうですか……? 泣くほど喜んでくれたなら良かったです……!」
「いや、悲しいけど泣くほど美味しいのは事実だよ……」
「えぇ……!?」
私がそんな複雑な気持ちになっている横では、フユナ、グロッタ、そしてスフレベルグから絶賛の嵐。そんな中、コロリンがこっそりと私に耳打ちしてきた。
「これで完全にルノサンドの立場がなくなりましたね?」
「ふ、ふんだ。それなら私だって進化させるからいいよ。今度は手作りアイスをトッピングしてみようかな……ふふふ」
「それは破滅の未来しか見えませんね……」
『ルノサンド』がそんな進化を遂げるのかは不明ですが、確実に不味くなる……という事だけは、この私『コロリン』がここに書き記しておきましょう。