第八十三話〜新生コロリン③ コンゴウセキスライムによるコンゴウセキ魔法〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。
「ただいま」
「おかえり、ルノ!」
コロリンと共に帰宅した私をフユナが元気な声で迎えてくれた。
「もうすぐ朝ご飯できるからちょっとだけ待っててね」
どうやら先にフユナが朝ご飯の準備をしてくれていたみたいだ。朝から遊んでた(?)手前、ちょっと申し訳ない。
「ありがとね、フユナ」
「ううん。大丈夫だよ」
「そうそう。簡単にコロリンの紹介だけ……」
「コロリン?」
今更だが、なんでフユナは何も突っ込んでこないんだ? 私の後ろには新生コロリンが付いて来ているはずなのだが。
「コロコロ……」
「あ、またこの子はそうやって! それじゃ紹介できないでしょうが」
「コロコロ……」
そのままコロリンはわたしの『魔杖・コロリン』の先端にくっついてしまった。
「ルノさん……朝から寂しかったんですね。起こしてくれれば私がお相手したのに……」
「違うからね、レヴィナ!? 別にぼっちを紛らわすためにコロリンと話してた訳じゃないんだからね!?」
「はい……はい……分かってますから……」
「全然分かってない!」
だめだこりゃ。仕方ないからコロリンの紹介は朝ご飯の後にするか……とりあえずコロリンは杖ごとソファーに放置。
「はい、お待たせーー! 今朝はサンドイッチ作ってみたよ!」
「おぉ、美味しそうだね!」
目の前に現れたのは、家の畑でとれたキャベツをふんだんに使ったサンドイッチだった。『フユナサンド』とでも名付けよう。デザートのプリンまである!
「わぁ、美味しそうですね! フユナ、私も頂いていいですか!?」
「……え?」
「だ、誰ですか? この子……?」
コロリンがフユナサンドに釣られてこちらにやって来た。それも人間の姿で。
「えっ……えっ……?」
「あなた、知らない人の家に勝手に上がり込んではいけませんよ……?お母さんはどこですか……?」
レヴィナが大人の対応をしていた。意外と動じてないな。
「何を言ってるの、レヴィナ。お母さんならそこにいるでしょう?」
「え、なんで私の名前……えっ、お母さん……?」
コロリンが、私を手で示して簡単に説明した。なんで私が紹介されちゃってるの……? でも『お母さん』なんてちょっと嬉しい。
「うん。今朝コロリンに魔法をかけたらこうなったの。ご覧の通り、勝手に人間になったり、スライムになったりするから気を付けてね」
イタズラされないように。
「はぁ……不思議なものですね……」
「まぁ、そういう事だからよろしくね。ほら、コロリンも挨拶して」
「もうご存知かと思いますが、コロリンです。これからもよろしくお願いしますね」
こうしてコロリン改め、新生コロリンは我が家の家族の一員になった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うん、美味しい! フユナは料理が上手ですね。ルノより上手なのでは?」
「そんなことないよ? ルノだって上手だよ。ルノサンドとか……ルノサンドとか!」
「ふーーん? ルノはもっと料理のバリエーションを増やさないとですね」
「そ、そういう意味じゃないのにーー!?」
「ぐすっ……!」
なんで私が地味に貶されてるの……?
「ルノさんルノさん。あの二人、随分仲良しですね……?」
「あ、あぁ……うん。そうだね」
私の隣に座るレヴィナがこっそりとそんな事を言ってきた。
ちなみに、レヴィナが言ったように、フユナとコロリンは自己紹介を終えた後からかなり仲が良かったので今は隣同士で座っている。
「スライム同士、何から通じるものがあるのかもね。見てて微笑ましくなってくるよ」
「なんだか双子みたいですね。ふふっ……」
私とレヴィナはすっかりお母さん目線だった。二人のやり取りを見ているだけで心が和む。
「このプリンも美味しい! 何これ!?」
「それはロッキの実を使ったプリンだよ」
「へぇ? フユナは何でも作れるんですね。いいお嫁さんになれますよ」
「もう……ルノみたいなこと言って」
「え、それなんかショック」
「……」
だからなんで私が貶されとるんじゃ。
「あ、ちょっとお水持ってくるね」
そう言ってフユナが席を立った。フユナの席には食べかけのプリンが残されている。
「じろーー」
コロリンがそれを物欲しそうな目で見つめている。嫌な予感がするなぁ……
「ぱくっ」
「やっぱりやった!」
コロリンが一瞬『ニヤッ』と笑い、そこからはもう流れるように鮮やかな手並みだった。
「こら、コロリン! いつからそんなにお行儀悪くなったの!? それはフユナのプリンでしょ! ガミガミガミガミ!」
「な、何ですか!? 私は目の前にプリンがあったから食べただけですよ!」
「コロリンの目の前には空の容器しかないでしょうが!」
「くぅ……!? ぼんっ!」
「あっ、ずるい!」
コロリンがスライムに戻って杖の先端に戻ってしまい、ちょうどそこにフユナが戻ってきた。
「あっ、プリンが無い……ルノ……?」
「ち、違うよ!? それはコロリンが……」
「えーーん! ルノのばかーー!」
「違うのに! コロリンのばかーー!」
ぼんっ!
「ちょっと、人のせいにしないでください! ルノのばかーー!」
「その通りでしょうが! ばかーー!」
それから数分の間、ばかばか繰り返す私達を見てられなくなったレヴィナが事情を説明してなんとかその場は収まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
食後の席。コーヒーを飲みながら過ごす私達の空気は先程とは違い、とてもまったりしたものになっていた。そこで口を開いたのはフユナ。
「ねぇ、コロリンは魔法は使えるの? あと武器とか」
「魔法は使えますよ。武器は手に持った事もないのでわかりませんけど」
「そうなんだ。どんな魔法?」
「ふふ、今から見せてあげますね」
そう言って席を立ったコロリンはソファーの方へ向かっていき、そこに置いてあったクッションを手に取った。
「ルノ。ちょっとこちらに来てください」
「……? うん、いいけど」
「では、ここに座ってください」
私は促されるままにソファーに座った。そしてコロリンは手に持っていたクッションを振り上げ……
「え、それで叩くの? そんなの……」
ゴツン……!
「うぎゃ!?」
パタン……
ちょっと待って。私、クッションで殴られて死にそうなんですけど。
「ルノ、大丈夫!? コロリン、何したの!?」
文面的にはフユナが私の心配をしてくれているようだが実際は違った。だって目が輝いてるもん。
「ふふふ。これはあらゆるものをコンゴウセキのように硬くする魔法です。防御魔法に聞こえるかもしれませんが、効果は見ての通りです」
「すごーーい!」
フユナは完全にコロリンの魔法に興味津々だった。
「大丈夫ですか、ルノさん……」
「うぅ、レヴィナ……私の味方はもうレヴィナしか……」
「ちなみに、人にも効果がありますよ」
「ということは私の身体を強くする事もできるんですか……!?」
「はい、もちろんです」
「すごいっ……!」
ポイッ!
「ぐえっ……!?」
ついにレヴィナにまで捨てられた。
「ま、まぁいいや。みんなとも仲良くやれそうだし問題ないよね」
そんな事を思っていると、いつの間にかコロリンによる魔法の講義が始まっていた。いつからここは学校になったのか。
「……と、いう訳です。フユナ、分かりましたか?」
「はーーい、先生!」
一人だけ取り残されてしまった。だけど、これはいい事なんだ。コロリンのおかげで、家族がさらに成長できるいい機会なんだ……!
「だから寂しくなんてないんだからねっ!」
その後。ちょっぴり寂しかった私はグロッタとスフレベルグを呼んで遊びました。