第八十二話〜新生コロリン② 癒し系コロリンはヤンチャな娘だった〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。
「うぎゃーー!? か、可愛い!!」
「ぎゃあああ!?」
興味半分でコロリンを人間の姿にしてみたところ、予想外に可愛かった。これはフユナ並……いや、比べる事はできない。もはやジャンルが別だ。
髪型は私のをそのまま伸ばしたような少し癖のあるセミロング。全体的に銀色っぽいが毛先は光を反射させるダイヤモンドのような色だ。要するに虹色っぽい。目つきはフユナっぽいけど……控え目な性格かな? とりあえず可愛い。
「こ、これはもう私のイメージどうこうの話じゃないよ……コロリンの素質だよ!」
「わたくしに勝るとも劣らないレベルですな!」
「そ、そうだね。見た目だけなら否定できないのがなんか複雑……」
トラブルとはいえ、グロッタの人間モードもかなり良かった。戻すかどうか悩んだくらいだ。
「と、とりあえず……どうしようかな……」
コロリンはというと、ぼーーっとしていてまだ状況が把握できてないみたいだ。
「えっと、私の事は分かるかな?」
「もちろん。ルノですよね?」
「うん。そうそう! 今の状況は理解してるかな?」
「はい。さっきルノの魔法をくらったそちらの狼さんを見てましたから」
「なっ!? まさかあれはわざとか!?」
「ふふっ! でもそれなりに楽しんでましたよね?」
「もちろんだ(キリッ)」
口調こそ丁寧だが、けっこう元気なキャラだな。フユナとは反対の性格かな?
「まぁ、特に問題はないみたいだね。これからどうする? 一応、コロリンは私の使い魔ってことになってるけどそのままでもいいよ?」
「うーーん。正直、スライムの時の方が転がったり、漂ったりで楽チンでしたけど人間の姿も悪くないですね。せっかくだからフユナと同じようにしてくれますか?」
「同じように?」
「ほら、あの子ってルノの魔法陣の効果でいつでもスライムに戻れるでしょ? 本人は人間の姿がお気に入りみたいですけど」
「あぁ、そういうことね。構わないよ。今までの魔法陣に付け加える形で大丈夫かな?」
「はい、それでお願いします。わたしは多分フユナみたいにずっと人間でいる訳ではないと思うので」
「あ、そうなの? ならまた使い魔としてのコロリンも堪能できる訳だね」
「ですね。どちらにせよ、改めてよろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそよろしくね」
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新生コロリンの今後の方針を大方決めたので、スローライフを再開した私。
「ねぇ、ルノ。あなたはいつもそんな感じですけど退屈ではないんですか?」
「んーー? そうだねぇ。いつもじゃないよ。というツッコミはとりあえず置いといて……ほら、こんなにいい天気だとこうやってゴロゴロしたくならない?」
「わたしならコロコロしたくなりますね」
「でしょ? なんか違うけど。コロリンもその辺コロコロしてきたら? 気持ちいいよ」
「そうですね……では。コロコロ……」
「あ、口に出しちゃうのね」
本人は楽しそうなのでそのまま自由にさせておこう。
「ふぁぁ……私は一眠りしようかな。眠くなってきちゃった……」
そのまま目を閉じて意識が途切れかけた時、遠くからコロコロと何かが向かってくるような音がした。
「あ、ルノ様」
「ふぇ……? なぁにーー?」
ゴツン!
「うぎゃ!?」
「ぷぷっーー!」
急に頭をハンマーで殴られたかのような衝撃。下手したらそれ以上だ!
「こ、こらーー! せっかく人が気持ち良く眠りにつこうとしてたのに!」
「コロコロしてたらいつの間にか戻ってきちゃったんですよ。ぷぷっ!」
「いやいや、ならなんで笑ってるの。絶対確信犯でしょ!」
「違いますって」
「それに女の子がそんなボサボサになってたらだめだよ。ほら、直してあげるからおいで」
草原をコロコロしてたコロリンはすっかり草だらけになっていた。まぁ、言い出したのは私だけど……
「分かりました、では。コロコローー!」
「あ! ちょっと!?」
コロリンは私の言葉に従ってこちらに向かってきた。ただし、転がりながら。
ドカーーン!
そのまま吹き飛ばされた。
「ゲラゲラ!」
グロッタが楽しそうに笑っているがそれどころじゃない。
「いたたた!? なんで突撃してくるの!?」
「だってルノが来なさいって」
「だからってね……てか、思い出した! コロリンてばスライムの時からこういう事やってたよね!」
「え?」
「ほら、私の足元コロコロしてすっころばしたり、今朝なんて熟睡中の私に突撃したでしょ」
「てへっ☆」
くっ! この子、やっぱりコロリンだ! イタズラっ子だ!
「スライムサイズの時なら可愛いもんだったけど、今のコロリンは人間なんだからね。威力もシャレにならないの。オッケー?」
「分かりました。では、スライム形態で。ぼんっ!」
「あっ!?」
早くも魔法陣の効果をうまく使ってスライムに戻るコロリン。そうそう、それなら可愛い……
「いやいや、それでもけっこう痛いからね!? こらーー! やめなさい!」
「コロコロ……!」
「わ、わわっ!?」
コロリンが私を弄ぶかのように足元をコロコロと転がっている。当然、そんなことをされればいつか踏んずけてしまうわけで。
すてーーん!
「うぎゃ!」
「ゲラゲラゲラゲラ!」
私はそのまま一回転して転んだ。本当に一回転した!
「も、もう怒ったからね!? 悪い子はお仕置きだよ!」
「コロコローー!」
「あっ、こら!?」
コロリン逃亡開始。
「くぅ、まさかこんなヤンチャな子だったなんて……! ねぇ、グロッタ」
「何です?」
「コンゴウセキスライムってめちゃくちゃ硬いんだったよね?」
「はい。あらゆるダメージを1に抑え込むとか」
「つまりどんな攻撃しても……例えばグロッタにゲンコツしたのと大差ないってことだね」
「そうなりますな」
「ふふふ……ありがとうグロッタ。ちょっとコロリンを教育してくるよ」
「は、はぁ……お気を付けて……?」
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コロリンは草原の中心で私を待ち構えていた。
「コロコロ……」
「くぅ、これだけ見ればかわいいのに。でも、親としてちゃんと躾をするよ! とりゃ!」
ズドン!
私は使い魔が消えた『魔杖・コロリン』をコロリンに向け、氷の弾丸を撃った。コンゴウセキスライムのコロリンにとってはゲンコツと変わらないのでオッケー!
しかし。
ピキーーン!(反射)
「うわっ!? 忘れてた……魔法は効かないのか!」
「コロコローー♪」
「ぐぐっ! こんなんじゃ諦めないよ!」
ズドン! さらにもう一発ズドン!
反射される瞬間に再び同じ場所に打ち込んでみる作戦。
バギン!
「だ、だめか。相殺されちゃった……」
そしてコロリンの反撃。
「こ、こら! 反撃とかなしだから! 勝負してる訳じゃないんだからね!?」
しかし私の叫びも虚しく、再びコロリンを踏んずけてしまう私は先程と同じように一回転。
「ゲラゲラ!」
「うぅ、グロッタまで楽しそうに……! もう怒った! 今度こそ怒ったからね!」
「コロコローー♪」
「逃がさん!」
私は再び杖を構えて詠唱を開始した。
「凍てつく空気……凍える大地……時を止めるは氷の化身。今こそ我が命に従い世界を変えよ!」
バキバキバキン! ガッガガッガッ! ガガガ!
「コロコロ……!?」
コロリンの周りに無数の氷槍が出現し、逃げ場を塞いだ。要するに当てなければいいのだ!
「ふふふ……さぁ、お仕置きの時間だよ。コロリン……」
「コロコロ……!?」
グサッ、グサッ、グサッとコロリンを囲む氷槍をさらに囲むように、氷の杖を突き刺していく。どうやらコロリンは逃げ出そうとしているらしい。
「28……29……30。ふふふ……!」
この場にフユナがいなくて良かった。きっと今の私は鬼の形相になっているだろう。
「ここからは力業だけど、そうしないと意味がないからね。どちらが上なのかをしっかり教えてあげないと。反射しきれないほどの魔法をプレゼントしてあげる。ふふ……!」
準備完了だ。サトリさんやランペッジさんにすらここまでの数の杖を使ったことなどない。認めようじゃないか。コロリンは最強の相手だと!
「迫る終焉」
カッ! 杖が光る。
「氷の牙」
カッ!! さらに光は増幅し、周囲が凍る。そして。
「全てを砕け! 怪狼・フェンリル!」
ゴシャアッッッ!!!
計三十本の杖から一気に放たれた氷の牙はコロリンを閉じ込めた氷槍ごと飲み込み、全てを噛み砕いた。唯一、残ったコロリンはポトッっと、地面に落下し……
ぼんっ!
再び人間の姿になった。顔は真っ青だった。
「ば、ばけもの……!?」
「ん? なんのことかな? まずはごめんなさいを言わないとね?」
「ひぇ……!?」
一歩ずつ近付く私にどう対応したらいいか分からない様子だ。難しいことではないのだが。
「ほら、コロリン?」
「あ、あぅ……」
目の前に到着した私は優しくコロリンの頭に手を置いた。
「イタズラしてごめんなさいは?」
「イタズラして……ごめんなさい!」
「よしよし。それでいいんだよ」
私はそのまま、頭を撫でていた手をコロリンの背中にまわして抱きしめてあげた。
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「ただいま、グロッタ」
「おかえりなさい、ルノ様。コンゴウセキスライムの防御を貫通するなんてバケモノですな!」
「一応、褒め言葉として受け取っとくね……」
「もちろんです!」
「何はともあれコロリンも反省してくれたみたいだし、これで一件落着かな。ね、コロリン?」
「はい。まったく……ルノは意外と強引なんですね。そういう所も嫌いじゃないですよ?」
「はいはい、左様でございますか」
まだ微妙に反省してない感は残ってたが、それはまぁ、今後に期待ということで。
「さてと。それじゃそろそろみんなの朝ご飯を作りに帰らないとね。コロリンの事も改めて紹介するからね」
「フユナもレヴィナもスフレベルグもわたしのことは知ってるでしょう?」
「ちっちっちっ……甘いよコロリン。これからは人の姿で過ごすこともあるんだからそこはちゃんとしないとね」
「そういうものでしょうか?」
「そういうもの」
こうして、私の使い魔・コロリンは思わぬ進化を遂げて、我が家の一員に加わる事になった。
多少ヤンチャな所もあるが、そこは家族の新しい刺激になる事を期待して多少は見逃してあげよう。
多少はね……!