第八十一話〜新生コロリン① 意外と可愛いかったグロッタ〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。
早朝。
それは誰もが寝ている時間。いや、そうじゃないかもしれないが我が家は違う。
「すやーー」
「すぅ……すぅ……」
「むにゃ……」
たまに早起きで私かフユナが起床する事はあるが、それにしても今はまだ早い時間帯だ。なんと言ってもまだ日も出ていないのだから。
そんな時、突然……
ゴツン!
「うぎゃ!?」
何かが私の頭にぶつかった。隣で寝ているフユナかレヴィナの頭とでもぶつかったか?
「いたたた……」
しかし起きたのは私だけだった。どうやら頭をぶつけ合った訳ではないみたいだ。
「ならいったい……あ」
「コロコロ……」
私の枕元でコロリンが転がっていた。ちなみに、出かける時以外はリビングのテーブルに飾ってある『魔杖・コロリン』だが、寝る時は寝室に持っていている。
「まったく……とんだいたずらっ子だね、コロリンは」
これ以上いらずらしないようにコロリンを抱えて再び眠ろうとする私。
「うーーん、抱えながらだと結構重たいね。腹筋が割れそうだよ」
私は別にマッチョになりたい願望などないのでそれは困る。
「とりあえずコロリンはレヴィナのお腹の上で寝ててね。起きたらまた遊んであげるから。ほい」
「ぐぇ……」
そうして私はレヴィナのお腹にコロリンをお供えして、再び眠りについた。
それから約一時間後。
朝日が昇り、すっかり明るくなった外から気持ちいい風が吹き込んできた。
「うぅ……ん……あんまり寝れた気がしないな……」
それも当然。一時間前に起こされたばかりなのだから。
「ふぁぁ……せっかくだし起きようかな。きっと今日の起床時間は今なんだ……」
まだ寝ていたい気持ちもあったが、これも運命だと受け入れて私は起床した。
「ほら、コロリンも起きるよ。ずっとそこにいたらレヴィナがマッチョになっちゃうからね。それも面白そうだけど」
ベッドから降りた私はレヴィナのお腹の上にいるコロリンを持ち上げて『魔杖・コロリン』の先端にくっつけた。磁石みたい。
「さてと。久しぶりに朝の散歩でもしようかな。またグロッタに老人扱いされちゃうな……」
という訳で早朝から家を出てみると案の定、グロッタは既に起床していて、こちらをニヤニヤと見つめていた。
「ルノ様、おは」
「とりゃ」
「ぎゃあああ!?」
これからの発言が予想できたので、出会い頭にグロッタの鼻先を氷漬けにしてあげた。
「まだ何も言ってないのに!?」
「だってあからさまにニヤニヤしてたからね。一応言ってみて?」
「ルノ様、おはようございます! 早朝から散歩とはまるで老人のようですな!」
「はい、アウトーー!」
「ぎゃあああ!?」
改めて聞くまでもなく予想通りだった。
「という訳だから私は散歩してくるね。って言ってもそこの草原だけど」
「まったくルノ様は……! 朝からドSですな!」
「気持ちよかったでしょ?」
「はい!」
「……」
グロッタのその声を最後に、私とコロリンは散歩に出発した。てか私はドSじゃないから!?
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草原をぐるーーっと歩いて、ちょうど半分まで来た頃。休憩……いや、それだと完全に老人になってしまう。
「んーーそう。これはコロリンの相手をする時間だ。だから休憩とは別」
私は自分を納得させると、その場に腰を下ろす。ふと、グロッタの方に視線を向けると遠くからこっちを見てニヤニヤしていた。またなんか思ってるな。
「まぁ、いっか。私はのんびさせてもらおう」
草原に大の字で仰向けになると綺麗な空が広がっていた。このまま寝てしまいたい。
と、そんな私の考えを見透かしているかのように、コロリンがコロコロと転がって頭にぶつかってきた。
「いたたた。そうだった……コロリンの相手をするんだったね」
再び私の頭に突撃しようとしていたコロリンを受け止め、ニヤニヤしているグロッタの方に向けて力いっぱい転がしてみた。レッツ・ボーリング♪
「ぎゃあああ!?」
命中。そしてそのままコロコロと戻ってきた。
「な、何これ……楽しい! 無限にボーリングできる!」
どこに転がしても戻ってくる! 何回か木の方に転がしたりしたが、あとは全部グロッタ狙い。
「あっ……地味に避け始めたぞ。こしゃくな」
グロッタも何気に楽しんでるな。早朝のこの時間帯はいつも暇なんだろう。
「でもそろそろ飽きてきたから休憩ーーっと」
再び大の字になって寝そべった私はそこである事を思った。むしろ今日まで試さなかったのが不思議なくらい。
「何をですかな?」
「うわぁ!? ちょ、ちょっと! 驚かせないでよ!」
「ゲラゲラ!」
綺麗な空を見ていたはずなのに、いきなりグロッタの巨大な顔が現れた。
「いやほら、フユナって元々は氷のスライムでしょ? だからコロリンも人間の姿にしたらどうなるのかなーーって」
「コロリンは『癒し系アイテム枠』だったのでは?」
「あ、そんなことも言った気がするな……」
しかし一度気になったら試したくなってしまうのが人間という生き物だ。
「しかし一度気になったら試したくなってしまいますな!」
訂正。人間だけではなく、全生物共通だ。
「じゃあちょっと試してみようか……?」
「ドキドキ……!」
もしかしたらフユナみたいな子になって双子系スライムになったりとか!? それともめちゃくちゃ大人な感じになっちゃったりして!?
「な、なんか緊張してきちゃったな……んじゃいくよ。今回は短期的なものだから魔法陣まではいらないでしょ。とりゃ!」
私の放った魔法はコロリンに一直線に向かっていき……
「ぎゃあああ!?」
「えっ?」
なんてことだ! どうやらコンゴウセキスライムのコロリンには魔法が効かないらしい。それどころか反射してしまう始末!
「てことはやっぱりコロリンに魔法陣を直接描くしかないのか……なるほどなるほど」
これは一つ勉強になったな。では、気を取り直してと。
「あ、グロッタ大丈夫? いつもそんな悲鳴あげてるから平気なんだとは思うけど」
私はグロッタに視線を向けて固まってしまった。
「うぐぐ、何とか……」
「は? えぇ……!?」
「ルノ様?」
「誰!?」
目の前に美少女が出現していた。
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先程までグロッタがいた場所にはなぜか美少女がいた。
「え、なに……まさかグロッタ……?」
「当たり前じゃないですか?」
「え、えぇ……?」
言われてみれば、グロッタの毛色を引き継いでいるかのような真っ白な髪の毛。なんか、喋り方もちょっとお淑やかになった気が……
「そもそもグロッタって女の子だったの?」
「何を言ってるんです? 女の子もなにも、グロッタはグロッタです」
「あ、うん。まぁそれでいいや……」
ふむ……これはどうしたものか。私が魔法に込めたイメージ? それともグロッタの素質? どっちにしろ良い。かなり良い!
「とりあえず……ほら、自分の姿を見てみようか。とりゃ」
私は鏡のようにピカピカの氷を作り出して、グロッタに自分の姿を確認させた。
「なっ……!?」
「ね、すごいでしょ?」
どうやら本人も驚いているようだ。正直、元に戻すのがおしい。
「でも安心しなよ。今回のはただ魔法をかけただけだからすぐに解けるよ」
「は、はぁ……まぁ、わたくしはこのままでも構いませんが……ふっふっふっ!」
「うん、やっぱりグロッタだね。むしろ今すぐ解こう」
「やめて、ルノ様! 私を虐めないで!」
「グロッタはそんなキャラじゃない! とりゃ!」
「ぎゃあああ!?」
こうしてグロッタ美少女事件は一瞬で終わった。
「さて、これ以上グロッタのネタに付き合ってる時間は無いんだよ!」
「ひ、ひどすぎるっ!?」
「ネタが無くなったらまた人間にしてあげるよ」
「それもまたひどすぎるっ!?」
確かにグロッタの人間化も良かったが、今回のメインはコロリンだ。
「よし、魔法陣を書き換えてと……よし、いくよ!」
「ドキドキ……!」
私が魔法陣を発動されると……フユナの時と同じように、魔法陣から出た光がコロリンを包み込んだ。
そして……
「うぎゃーー!? か、可愛い!?」
「ぎゃあああ!?」
アホみたいに興奮する私とグロッタの目の前には、美少女と化したコロリンが出現していた。