第八十話〜おいしい罰ゲーム〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。
「ふぅ。平和平和……ふぁぁ……」
一日店長の日の翌日。午後の気持ちいい空気の中、私はツリーハウスのテラスでスローライフを満喫中。
「スローライフと言ってもずっとそうやって横になってるだけじゃないですか?」
私のだらけきった姿を見てスフレベルグがごもっともなことを言ってきた。
「いいのいいの。無駄に時間を過ごしてても罪悪感に囚われない。これがスローライフに一番大切なんだよ。あ、ニートとはまた違うからね?」
「まぁ、ルノが幸せならそれが一番ですけどね」
「そうそう。それにこれでも昨日は一日店長でちゃんと働いたんだから。売り上げも悪くなかったみたいだし、今日はお休みの日ってことで」
「フユナもそんな話してましたね。ルノサンドがランペッジサンドに敗北したとか」
「うっ……嫌な記憶を思い出させないでよ。しかもある意味、ルノサンドが消滅したんだからね。さっきカフェに行ったら名前が変わってた」
私が考案した『ルノサンド』は『ルノチャンド』として生まれ変わりなぜか以前よりも売り上げに貢献してるんだとか。
「そう言えばランペッジさんが罰ゲーム云々とか言ってたけど、なんの約束もしなかったな。これはきっと本人も忘れたね」
「ルノ。そういう事は言わない方がいいんですよ」
「確かに……何でわざわざ自らフラグ立てちゃったんだろ。ぼきーー」
すると突然……
「ルノさん、いるかーー!?」
「うげ……」
遥か下の方から私を呼ぶ声が聞こえてきた。どうやらランペッジさんが訪ねてきたみたいだ。
「狙ったかのように来たな。フラグはちゃんと折ったはずなのに……」
「もしかしたらその罰ゲームとやらは無関係なのでは?」
「だといいけど……」
私はそこでしばらく考えてある結論を出した。
「よし、今日の私は寝てたって事にしよう」
「ランペッジはいいんですか?」
「ほら、よく考えてみて。私はさっきまでここでのんびりしてたんだよ。つまりあのまま寝ちゃっててもおかしくない」
「そうですね。下にはフユナやレヴィナ。グロッタもいる事ですし問題は無いでしょう」
「そういう事! 別に私が罰ゲームやりたくないとかじゃないんだからねっ!」
「はいはい」
という訳で私は改めてスローライフを再開させてもらうとしよう。
「いや……まてよ?」
私は昨日のことを思い出した。たしかランペッジさんが『フユナちゃんがダメそうならルノさんを狙おうと思ってたのに』とか『それならレヴィナさんだ!』とか手当り次第に我が家の家族を毒牙にかけるみたいな発言をしてたな。なんてチャラい人だ!
「スフレベルグ……私、やっぱり下に戻るね。フユナとレヴィナがランペッジさんに汚されちゃう前に……!」
「はい。楽しんできてくださいね」
「スフレベルグは来ないの?」
「ワタシはここでスローライフを満喫してますよ(ドヤァ)」
「くっ……羨ましい……!」
という訳で、私の分のスローライフはスフレベルグに託して、渋々ツリーハウスを後にした。
家に戻ると案の定、ランペッジさんがフユナやレヴィナと共に談笑していた。馴染んでるなぁ。
「おや……ランペッジさん、来てたんですね」
知ってましたけども。
「やぁ、ルノさん。お邪魔してるよ」
「ルノ。これランペッジさんが持ってきてくれたんだよ」
「なかなか美味しいケーキですね……」
「なっ……」
ワイロだ! この人、ついにワイロを送ってきたぞ!
「ちょっと……だめだよ二人とも。何が入ってるか分からないでしょ」
私はテーブルの上にある怪しい(?)ケーキをひったくり、そのまま一口。うん、美味しい。
「あーー! ルノ、ずるい!」
「私にもください……!」
そんな感じでぎゃあぎゃあ騒ぎながら、ケーキを食べ終わった頃……
「では、ルノさん。本題に入ろうか(ニヤニヤ)」
うわ……いやな顔してるなぁ。
「実は私もランペッジさんに言わなければいけないことが」
「いや、それより」
「ランペッジさん。ケーキありがとうございました。とても美味しかったです。ごちそうさまです」
「お、おう……」
今のランペッジさんに話をさせると絶対に罰ゲームの話をしてくるに決まってる。なんとか話題を変えなければ……
「ねぇねぇ、ルノ」
「うん? なにかな、フユナ」
「罰ゲーム頑張ってね!」
「……」
私はこの時気付いてしまった。我が家の家族がケーキによって買収されていたことに。
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「では、今度そこ本題に入ろうか!」
「……私、ここにいないとだめですか?」
「もちろんだ。ルノさんに話があるんだから」
「デスヨネーー」
もう観念するしかないか。てか、いつの間にか二人に新しいケーキ渡してあるし……!
「では聞きましょう。罰ゲーム以外で」
「では、言うぞ。罰ゲームの話だが……」
「いえ、罰ゲーム以外で」
「罰ゲームの話だ」
「分かりました……でも、フユナはあげませんし、レヴィナもあげませんよ。グロッタなら交渉次第では……」
「そんな話じゃない!」
「え、だってランペッジさんが望む事ってそれくらいじゃ?」
「まったく。ルノさんはオレをどんな目で見てるんだ……」
「じろーー」
こんな目です。
「ぐぅ……もう単刀直入に言おう。修行に付き合ってくれ!」
「あれ? 熱でもあるんですか? ランペッジさんが破廉恥なお願いをしないなんて」
「ひどすぎる!?」
「だって……」
ロッキで行われた大会。その決勝でランペッジさんとカラットさんの壮絶な闘いを見た後だとにわかには信じられない。
「修行なら私なんかよりカラットさんのほうがいいのでは? お師匠様なんですし」
「それも考えたが負けてすぐに教えを乞うのもちょっとな。それにルノさんならあの時のオレでも勝てるだろう?」
「いや……ちょっと無理ぽです」
「好きなだけ杖使っていいぞ?」
「なら余裕です」
「うぐっ……!」
まぁ、それはそうだろう。それだけの数を操るのが難しいのであって、それができればいくらでも手はある。極端な話、全方向に杖を向けて魔法を撃てばそれだけで勝てる。
「とは言っても実際は計算通りには行きません。私じゃ大した特訓にならないかもしれませんよ?」
「それならそれで仕方ないさ。ぜひ頼む!」
「そうですか……分かりました」
もっと鬼畜でドエロな罰ゲームかと思ってたので正直、安心した。
「ではいつやります? やっぱり今日ですか?」
「もちろんだ!」
うーーむ、随分と燃えていらっしゃる。確かにランペッジさんの強さに対する情熱は疑う余地もない。やはりあの敗北は悔しかったのだろう。
「そういう事なら仕方ないので私もランペッジさんのために一肌脱ぎますよ。消し去るくらいのつもりでやりますね」
「いや、たぶんそれ、本当に消える……」
「またまた……」
どうもランペッジさんも、カラットさんも私を過大評価しているような気がするな。
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という訳で特訓開始。
場所は家のすぐ横にある草原。フユナとレヴィナはケーキに夢中なので家に置いてきた。
「でも、一体どうしたらいいんですか? 私は弟子なんて持ったことないから特訓と言われてもどうしたらいいのか……」
「そうだな、消し去るつもり……はヤバいから消し去らないつもりでどんどん攻撃してくれ」
「またそれは難しい注文ですね……」
氷の槍で貫いたりしなければ大丈夫か。
「それならいい事思い付きましたよ」
「お、なんだ?」
「そこに立っててくださいね」
そう言って私は歩き出した。そのまま一本、二本、三本と、次々に氷の杖を生み出して地面に突き刺していく。やがて、ランペッジさんを囲むように杖が立ち並んだ。
「よし、準備完了です」
「え……」
「では、特訓すたーとーー」
ズドドドド!
「ちょ……ぎゃあああ!?」
私の合図と共に、周りの杖から中心のランペッジさんに向けて、一斉に氷の弾丸が撃ち出された。これはどんな所から攻撃されても対応する力を身に付ける特訓だ。
「ちょっとランペッジさん。弾くなり、避けるなりしないと特訓になりませんよ。はい、第二ラウンドーー」
ズドドドド!
「ちょ! 待っ……ぎゃあああ!?」
しばらくして氷の弾丸を止めるとそこには仰向けに倒れるランペッジさんがいた。
「はい、第三ラウンドーー」
「ストーーーップ!」
「うわっ!?」
ランペッジさんがガバッと起き上がり一気に距離を詰めてきた。
「なんだ、こんなに良い動きができるんじゃないですか」
「いやいや! ルノさんスパルタ過ぎるだろ!」
「でも、これくらいじゃないと面白くないですし」
「ドS!」
うーーん、難しいな。避ける特訓として最高だと思ったのだが。
「それなら……ペラペラペラペラ」
「それだ! そういうのを待ってたんだ!」
私が提案したのは動き回る杖を撃破する特訓だった。同時に攻撃もするし、撃破したらその度に杖の数も増やす。
「うぉぉぉ! 燃えてきた!」
「はい、ではいきますよ。まずは一本から」
「うぉぉぉ!」
ランペッジさんは一本目の杖を難なく撃破。あっという間に十本の杖を相手にする所まで来た。
「そうだ。コロリン」
若干、暇になった私はちょっくら特訓のレベルを上げることにした。『魔杖・コロリン』を取り出して戦闘中のランペッジに向けて構える。
「さぁ、避けてくださいね。ずどーーん」
私はボーリング感覚でコロリンを撃ち出した。コロコロと高速で転がっていったコロリンは狙い違わずランペッジさんに突撃し……
「うおっ!?」
すてーーん!
コロリンを踏んずけて、思いっきりすっころんだランペッジさん。そしてその隙をつくかのように、氷の杖達が一斉射撃。
「うっぎゃあああ!?」
「ふふ……まだまだ隙だらけですね」
こうして、本日のランペッジさんの特訓メニューは全て消化された。
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「あ、おかえりーー!」
「あの……大丈夫ですか……?」
特訓を終えて帰宅した私達。ボロボロになったランペッジさんを見て、レヴィナが心配そうに声をかけてきた。
「レヴィナ。これは罰ゲームだから仕方なかったんだよ。私は嫌だったんだけどランペッジさんが『どんどんやってくれ』って……」
「そうなんですか……ランペッジさんてそっち系の人なんですね……」
「違う! 特訓だ、特訓!」
おぉ。ボロボロだが思ったより元気そうで良かった。
「何はともあれ、これで無事に罰ゲームは終わりですね。ランペッジさんも満足できましたか?」
「いや、まだまだだな……」
「ドM……(ボソッ)」
「特・訓・が!」
「うわ! わ、分かってますから……!?」
すごい剣幕で迫られた。そんなに楽しかったのかな。
「いや、でもあの最後にやった特訓はなかなか良かったよ」
「最初のやつは?」
「あれも悪くない!」
「……」
やはりドM。もう周知の事実なので突っ込まなくてもいいか。
すると突然ランペッジさんが表情を改めて……
「今日はありがとうな、ルノさん」
「急にどうしたんですか?」
「今日のことさ。いい特訓になったよ」
「いえいえ……」
こうも素直にお礼を言われると少し照れてしまう。
「罰ゲームだったんですし、気にしないでいいですよ。それにほとんどランペッジさんを痛めつけただけみたいになってましたし」
「ははっ、オレもまだまだって事だな」
「もしまた特訓したくなったら言ってください。今度はケーキでオッケーですよ」
「それなら今日も食べてたくせに……」
「では、次は二個で」
「悪魔!」
こうして、私の罰ゲームは無事に終了。しかしその日以降、ランペッジさんがケーキを持って来るようになり、その度に特訓に付き合わされることになったのでした。
ちなみに、ランペッジさんが持ってくるケーキはどれも絶品だったので私は大歓迎でした。