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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
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第七十六話〜温泉旅行⑤ 師弟対決〜


〜〜登場人物〜〜



ルノ (氷の魔女)

物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


フユナ (氷のスライム)

氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


カラット (炎の魔女・鍛冶師)

村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。


グロッタ (フェンリル)

とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。


ランペッジ (雷の双剣使い)

ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。


スフレベルグ (フレスベルグ)

白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。


レヴィナ (ネクロマンサー)

劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。


コロリン (コンゴウセキスライム)

ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。

 



「赤毛の鍛冶師・カラットーー!」


「な、なんだってーー!?」



 決勝戦の相手はまさかのカラットさんだった。誰もが予想してなかった展開で、ランペッジさんも驚いている。反応がギャグっぽいけど。



「はっはっはっーー! まさか決勝の相手がランペッジだとはな!」


「ちぃぃ! こんなところでまでオレの前に立ちはだかるか!」



 おいおい、声出ちゃってるけど大丈夫か? 相手は師匠でしょうに。



「まぁまぁ、そう言うな。これは言わば、祭りみたいなものだろ? 楽しもうじゃないか」


「いいだろう! 望むところだ、師匠!」



 そう言えば、ランペッジさんが特訓する理由はカラットさんという師匠に勝つためだったな。



「これは面白い展開になりましたな!」


「確かに。さっきの試合より断然燃えるね」



 もしかしたら今日はランペッジさんにとって記念すべき日になるかもしれない。こっちまでドキドキしてきた。



「ではでは、お二人共! 準備はよろしいですか!? なお、決勝戦はすぐに終わってしまうと白けてしまうので三本勝負となります! つまり先に二本取った方の勝ちです!」



 なるほどなるほど。確かに名勝負の予感がするこの試合はすぐに終わったら勿体無い。すぐに終わら……ないよね?



「師匠! 最初から全開で行きますよ!」


「おう! こーーい!」



 二人が武器を構えた。準備万端だ。



「それでは、試合開始ーー!」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 試合開始と同時に攻めるランペッジさん。ランペッジさんの武器は双剣。カラットさんの武器は槍。武器の性能的な意味からも、スピード勝負なら有利かと思ったのだが……



「はっ!」


「おっと」



 スカッ……!



「はっ! とう!」


「ふむふむ」



 スカカッ……!



 しかし未だに攻撃は当たらず。試合前に言ったように、ランペッジさんは最初から全開だ。マッチョな人と戦った時よりも速い。



「カラットさんて魔法よりもこっちの方が強いんじゃない?」


「あのランペッジさんが遊ばれちゃってるね……」


「化け物ですね。カラットさん……」



『双剣相手に槍を使って手数で圧倒される』そんな事をランペッジさんが言っていたが、本当だった。カラットさんは躱すことに飽きたのか、今度は双剣の連撃を槍ですべて弾く。



「……ほんとにすごいや。私じゃ杖を二、三本使ってやっと対応できるくらいなのに」


「ルノさん、あれに対応できるんですか……」


「でも、実際に戦うのとはまた別だからね。私は動き自体はそんなに速くないし、ちゃんと勝負するなら五本くらいは必要になるんじゃないかな?」


「ルノさんも化け物ですね……」



 そんな事を話しているうちに、今度はカラットさんが攻めに入った。



「とうっ!」


「ぎゃあああ!?」



 ブォンッ! と物凄い音がした。カラットさんが薙ぎ払った槍がランペッジさんの目の前を通過した。



「お? これ一本でここまで勝ち上がってきたんだが……やるな、ランペッジ」


「あんなのもらったら死にますって!」



 ギリギリのところで一歩引いて躱したランペッジさんが叫ぶ。冗談に聞こえないのが怖い。よくここまで死人が出なかったな。



「それより、もうおしまいか? 特訓は続けてたんだろう? ん? ん?」


「むぐぐ……!」



 まだまだ余裕があるらしいカラットさんが煽りに入った。



「なんなら『カラット・カラット』を使ってもいいぞ? (ニヤニヤ)」


「な、なんだってーー!?」



 煽られたランペッジが爆発した。いや、だからその反応だとギャグにしか見えないんですが。



「後悔しても知りませんからね! 『雷の如き速さ』を思い知るがいい!」



 そんないかにもやられ役みたいなことを言いながら『カラット・カラット』を取りに私達の席にやって来たランペッジさん。手元にないのかよ!



「えーーと……あったあった」


「まったく……ほら、会場が白けてますよ?」


「頑張ってね、ランペッジさん……」


「任せろーー!」



 そう言って再び試合に戻るランペッジさん。色々言いたいことはあるが、審判の人は面白そうに見ているので問題無いのだろう。



「はぁ……なんだかなぁ……」


「フッ……フユナちゃんパワーも貰ったし、もう敵はいない! 行きますぜ、師匠!」



 そして試合再開。



 先程までの白けた空気は一転し、ピリピリしたものに変わった。そして……



 フッ……



「!」



 ランペッジさんが攻めた。確実に速くなっている。



「はっ!」


「くっ!」



 キィィンッ!



 雷が走ったと思った瞬間にぶつかり合う音が聞こえてきた。



 フッ……



 キィィンッ!



 フッ……!



 キンキィィンッ!



 もし私が戦うなら杖を十本は使うかもしれない。つまり、いつか私が戦った時のサトリさん以上だ。



「……っ!」



 隣のフユナも目が離せない様子だ。いつもは見ることの出来ないランペッジさんの強さにすっかり夢中になっている。


 その時。



 キィィンッ!



「っと!?」



 カラットさんが体制を崩した。



「はっ!」



 バキィィン!



 ランペッジさんの見事な一撃がカラットさんの手に直撃し、手甲が吹き飛んだ。


 カランカラン……手甲が落ちる音だけが響いてしばらく会場は無言になった。


 そして。



「一本! ランペッジ選手の一本です!」


「うぉぉぉ! すげえ!?」「とんでもない速さだな!」「カッコイイーー!」



 会場が一気に沸いた。



「すごいね、ルノ!」


「うんうん。完璧な一本だったね!」


「か、かっこいい……!」



 会場の全員がランペッジさんを認めた瞬間だった。もちろん、カラットさんも。



「いててて……! 強くなったもんだ……」


「ふっふっふっ! 今なら誰にも負けませんよ!」



 おっと、これはまさか?



「師匠こそ『アレ』を使ってもいいんですよ? (ニヤニヤ)」


「ほ、ほう……? (ピクピク!)」



 まさかの煽り返し! カラットさんも師匠としてのプライドがあるのか、負けるのは嫌らしい。



「でも『アレ』ってなんだろうね?」


「うーーん、魔法とか……?」



 私達の疑問の答えはすぐに出た。



「よーーし、いいだろう。ランペッジ! お前を一流の使い手と認め、私も全力で相手をしよう!」



 カラットさんが手を真正面に構えたと思ったら爆発するかのように炎が燃え上がり次の瞬間、槍が現れた。なにあれ、かっこいい!



「ふふ、この『カラット・カラット(やり)』を使うのは久しぶりだな」



 名前がダサい! と、つい突っ込んでしまいたくなる。だってそれ、完全に『カラット・カラット』の下位互換みたいな名前じゃん。



「なんか『カラット・カラット』にそっくりだねーー!」



 フユナがそう言うのも無理はない。槍の先端おそらく双剣と同じだ素材だ。色は透き通った赤。炎属性っぽい。



「勝負です!」


「来い!」



 そして再び試合は動き出した。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「はあっ!」



 カラットさんの猛烈な突き。



「はっ!」



 ランペッジさんの連撃。



「あのさ……これ死人が出たりしないかな? 具体的にはランペッジさん」


「「……」」



 私の質問にフユナとレヴィナは無言で答える。この試合を見ている者ならそうなるだろう。


 すると、度重なる攻めの結果、ランペッジさんが先程のように後ろを取った。しかし、カラットさんは笑っていた。これはマズいやつだ。


 次の瞬間。



 ブォンッ!



「うおっ!?」



 カラットさんが振り向きざまに槍を薙ぎ払ってきた。まるで炎の龍が襲いかかってくるかのようだ。ランペッジさんは間一髪、それを避けたものの……



「はい、隙あり」


「ぐはっ!?」



 いつの間にか背後に回ったカラットさんが『ゴツン』とランペッジさんの頭に一撃を入れた。



「カラット選手の一本ーー!」



 うーーん、さすがだ。さっきの表情を見る限り、背後を取られたのも作戦のうちだったのだろう。



「それにしてもこれで同点か。熱くなってきたね」


「ランペッジさん、勝てるかなーー?」


「ドキドキ……」



 私達は全員、試合の雰囲気に飲み込まれていた。こんな戦いは二度と見られないかも。



「ぐぉぉ……頭が割れる……!」


「はっはっはっ。まだ勝負は終わってないぞ?」


「の、望むところ!」



 そして再び始まる激しい打ち合い。しかし振り出しに戻ったかのように優劣ははっきりしていた。



「はっ!」



 キンキン! キィィンッ!


 ランペッジさんが攻めれば全て弾かれ……



「はあっ!」


 ビュッ! ビッビッビッ!


 お返しとばかりに倍の数が返ってくる。



「はあっはあっ……!」


「ふぅ……」



 一旦距離をとる二人。おそらく次で勝負は決まる……そんな雰囲気だ。



「師匠」


「なんだ?」


「ありがとうございます。本気で戦ってくれて」


「そういうのは決着が着いてからな」


「はは、ごもっとも。んじゃ」


「あぁ」


「行きます!」













 決着。


 武器を弾かれ、突き付けられた『槍』


 勝ったのはカラットさんだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「只今をもって、試合終了! 勝者! カラットーー!」



 会場に大きな拍手が巻き起こる。この試合に誰もが興奮し、誰もが感動したことだろう。



「負けた……」


「……」



 試合が終わったというのに動かない二人。やがて拍手も鳴り止み、会場に沈黙が訪れる。



 そして……



「ランペッジ」


「……」


「強くなったな」


「はい。ありがとう……ございました……っ!」



 私達の位置からでは後ろ姿しか見えないがランペッジさんは……いや、なにも言うまい。今は師匠と弟子、二人だけの水入らずの時間を過ごさせてあげよう。



「んじゃ、私達はジュースでも買いに行こうか」


「え、ルノ? ランペッジさんは?」


「いいのいいの。それよりジュース買ったらあとでランペッジさんに渡してくれる?」


「う、うん。分かった!」



 そうして私達はその場を離れた。




 数分後。



「いやーー負けちまった負けちまった」


「やぁ、ルノちん達も来てたんだな」



 ランペッジさんとカラットさんが私達の元へやって来た。カラットさんの手には優勝賞品であるロッキの結晶が。



「お二人共、お疲れ様です。とてもいい試合でしたよ」


「ランペッジさんがイケメンに見えました……」


「バナナの皮で転んだのと同一人物には見えなかったぞ! ゲラゲラ!」


「ワタシもつい熱くなってしまいました」



 私達は家族揃ってランペッジさんを褒めちぎった。



「よ、よしてくれ……そんな威張れるほどのことじゃ……」



 どことなく、ランペッジさんが落ち込んでいるように見えた。やっぱり悔しいんだろうな……仕方ないか。



「んじゃ、とりあえず」


「うんっ!」



 私はフユナに目で合図した。



「ランペッジさん、お疲れ様でした! カッコよかったよ!」



 そう言ってジュースを差し出すフユナ。



「お、おう……。応援してくれてありがとうな」



 フユナの正直な言葉に少し照れながら差し出されたジュースを受け取るランペッジさん。先程より明るくなった表情でそれを一気に飲み干した。



「よーーし、んじゃ明日からもいっちょ頑張るか!」


「うん。その意気だよ!」



 こうして、私達家族+ランペッジさんの温泉旅行は華々しく終わりを迎えたのでした。なんだかこれがメインみたいになっちゃったな。











 一方、カラットさんは。



「あれ……なんだか私の存在忘れられてない?」



 寂しそうに呟くカラットさんの肩にポンっと手を置いた私は……



「はい、カラットさんもお疲れ様でした」


「信じてたぞ、ルノちん……! ありがとう!」



 私が差し出したジュースを感動しながら受け取ったカラットさん。



「あれ……? これちょっと減ってない?」


「私の飲みかけです」


「……」


「まぁ、今回は成長した弟子の見せ場ということで」


「……そうだな!」



 ランペッジさんを見つめながらジュースを飲み干したカラットさんはとても嬉しそうでした。




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