第七十五話〜温泉旅行④ イケイケな雷光〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。
『安らぎの樹』にて休憩中の私達。そんな時、突然始まったイベントに急遽、ランペッジさんが参加することになった。
「ランペッジさん大丈夫かなーー?」
「いつもランペッジさんがやってる形式だしむしろ有利なんじゃないかな?」
「また雷の如き速さで自滅しなければいいんですがな! ゲラゲラ!」
ちなみにイベントの内容は、参加者同士が一対一で勝負し、先に一本取った方が勝ちというもの。
この街や、ヒュンガルでよくランペッジさんが旅人などを相手にやっていた。
「ああ見えてランペッジさんは強いから大丈夫だよ。それに……(チラッ)」
「……? どうしたの、ルノ?」
「ううん。私達も応援頑張ろうね」
「うん!」
ここにロリコン・ランペッジさんのお気に入りのフユナがいるんだから。きっと気合いも入りまくりだろう。
そうこうしているうちに、参加受付は終了したみたいだ。この後は単純に勝負を繰り返して、負けた人はどんどん抜けていく形式だ。トーナメントみたいなもんかな。
「えーーではまず、開会の言葉から。えーーそもそもこの街の始まりはーー」
あ、これはめちゃくちゃ長くなるやつだ。
「ねぇ、ルノ。ジュース買ってきてもいい?」
「いいよ。私も一緒に行こうかな。当分始まりそうにないし」
「わ、私も……」
「わたくしもついて行きます!」
「では、ワタシも」
私の懸念が伝わったのか、家族全員でその場を離れることになった。その後、試合が始まったのは一時間ほど経ってからのことだった。買ってきたジュースなどとっくに無くなってしまい、結局試合開始前にもう一度買いに行くハメになった。
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「では、試合開始!」
試合はいくつかのブロックに分かれて行われた。ランペッジさんはちょうど私達の目の前のブロックだ。
「うぉぉぉ!」
「オラァァァ!」
試合を観戦しててまず思ったこと。熱苦しい。試合に使われる武器は全部木製のため、安全面はそれなりに配慮されているが、みんな本気なのが伝わってくる。
「もはや、このイベントを考えた人ってランペッジさんじゃないの?」
私がそう思うのも無理もない。『一本取ったら勝ち』だけならまだしも『武器が木製』とまで言われたら完全にランペッジさんがやっていることと同じだ。
「まさかこれは全部仕込みで、フユナにいい所を見せたいだけなんじゃ……」
一瞬、そんなことを考えたが、それは無いなとすぐに思った。ロッキに来るまでの道中でランペッジさんが話していた特訓の理由を思い出したから。
「あっ、ルノ! ランペッジさんが勝ったよ!」
「おぉ、流石だね」
どうやらランペッジさんが初戦を突破したらしい。
「すごい速かったねーー!」
「このまま自爆しなければ優勝できそうですな!」
「ランペッジさんて強いんですね……」
最近気付いたのだが、ランペッジさんはどういう訳かフユナを鍛えているような節がある。サトリさんとフユナの特訓の手伝いに来ることもあるみたいだし。
「だからフユナ相手じゃないと問答無用でぶっ倒しちゃうのかもね……」
ランペッジさんはサトリさんの兄弟子にあたるらしいから、フユナのことも色々と気にかけてくれてるのかもしれない。それでも、匂いでフユナの居場所を当てちゃうくらいには変態なのだが。
すると再びランペッジさんの出番がやって来た。どうやら相手の人も双剣使いみたいだ。なんだかレヴィナが呼び起こしたマッチョなゾンビに似てるな。
「ずいぶんと調子がいいみたいだな、若造」
「ふっふっふっ。なんたってオレのフユナちゃんが見てるんだからな」
「あーーん?何を言ってやがる」
早くも対戦相手と火花を散らしている。てか、私には聞こえたぞ。誰のフユナだって? あーーん?
「では、試合開始ーー!」
先に攻めたのはマッチョの人だった。
「くたばれや!」
マッチョな見た目と、荒々しい口調に反して、動きは意外にも速かった。そして攻撃も鋭い。
「!?」
ギリギリで躱したランペッジさんだったが、相手の予想外の動きで若干出遅れた感が否めない。
「ルノさん……あの相手の人、結構強いんじゃ……?」
「そうだね。動きは速いし、攻めにも迷いがない。もしかしたら討伐を生業にしてる人かもね」
「きっと大丈夫だよ」
フユナがランペッジさんから目を離さずに言ってきた。
「ランペッジさんはサトリちゃんの兄弟子なんだからね!」
その言葉には確かな信頼が感じられた。サトリさんだけでなく、ランペッジさんにも鍛えられているフユナには何の心配も無いのだろう。そんな信頼がちょっとだけ羨ましい。
「お、ランペッジが攻めるようですぞ!」
グロッタの言葉で試合に意識を戻すと、攻撃を躱したランペッジさんが今まさに反撃する所だった。
ところが……
「ぐはっ!?」
すてーーん! とランペッジさんがずっこけた。某ゲームに出てくるようなバナナの皮が地面に仕掛けてあった。
「バカめっ!」
「ちぃ! こしゃくなっ!」
キィンッと武器を弾いてなんとか距離を取ったランペッジさん。
「汚い真似してくれやがって……!」
「ゲラゲラ!」
マッチョな人がグロッタみたいな笑い声を上げている。申し訳ないが、私もちょっと笑ってしまった。
「ちょっとランペッジさん!? そんなギャグかましてないで早く決めちゃってください!」
「……」
ランペッジさんは何も答えなかったが、後ろ姿でも分かるくらいに顔が真っ赤になっていた。けっこう恥ずかしかったらしい。
「くっ……恥かかせやがって! そっちがその気ならこっちも行かせてもらうぞ! 後で文句言うなよ!? (ビュン!)」
「はっはっはっ! やってみやが」
バキャ!
「んげっ!?」
試合終了。
理不尽なまでの速さで背後まで回り込み、後頭部を一撃。
「はっはっはっ。文句を言う暇も無かったな?」
何これ。誰これ。ランペッジさんがイケメンに見えてきた。
「ま、まだ全然本気じゃなかったんだね……」
フユナですらも見たことの無い速さだったらしい。
そう、それはまさしく『雷の如き速さ』だった。
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「ふーー! 危なかった危なかった!」
そう言いながらランペッジさんが私達の元に戻ってきた。次の決勝戦の前に少しの休憩時間を貰ったらしい。
「ほんとですよ……バナナで転ぶなんてずいぶんと楽しませてくれますね?」
「でも、カッコよかったよ。ランペッジ……さん……くすくすっ!」
「二人とも笑ったら失礼ですよ……ぷっ!」
もはや、私達の中で先程のイケイケだったランペッジさんは消滅していた。
「フッ、笑ってられるのも今のうちさ。すぐに優勝してやるぞ!」
それに関してはあまり心配無かった。きっと出場者の中にこの人より強い人はいないだろう。
「はい、頑張ってくださいね」
「ランペッジさんなら優勝できるよ!」
「はっはっはっ! 任せとけーー!」
そう言ってランペッジさんは元気よく去っていった。
「全然疲れてないみたいですね……」
「だね。まぁ、さっきの試合もそうだけど一人だけずば抜けてるからね」
「こうなると逆に自爆してくれないかと期待してしまいますな!」
その気持ちはちょっと分からなくもない。
「ま、でも優勝だろうね。次は決勝だし、たくさん応援してあげよう」
そしてやって来た決勝戦。どうやら最後の試合という事で、対戦者の紹介から入るらしい。
「えーー、ではまず! 準決勝ではバナナの皮で転ぶというギャグをかましながらも、一瞬で試合を決めたこの人! ロリ……雷光・ランペッジーー!」
「うぐっ……!」
『わははは!』と観客から笑いがこぼれた。ちょっとだけ同情してしまうような紹介だった。しかも一瞬、ロリコンって言おうとしたぞ。
「そして、決勝まで勝ち上がってきたもう一人はこの人! 魔女でありながら、槍一本で対戦者をことごとく薙ぎ払ってきた燃える太陽!」
そんな紹介と共に、観客たちの熱気も最高潮に達した。
「ん……魔女?」
私の疑問の答えが出る間もなく『その人』は登場した。
「赤毛の鍛冶師・カラットーー!」
「な、なんだってーー!?」
微妙にギャグっぽい叫び声をあげるランペッジさん。決勝戦はまさかの師弟対決となったのでした。