第七十三話〜温泉旅行② 純愛トーク。からの露天風呂〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。
「あっ、フユナ達だ」
「ほら、言った通りだろう?」
ロッキまでの道中。私は訳あって家族とは別行動を取ったのだが、無事に合流することができた。もちろんはぐれて迷子になった訳じゃない。
「まさかほんとにフユナの匂いを追うなんてびっくりしました。ちょっと気持ち悪いですけど」
「それ以外でもいけるぞ? 例えばフユナちゃんが何か一言呟けばその声を聞き取ってだな……」
「あ、もういいです。ランペッジさん、自分を大切にしましょう」
これ以上話すと自分で自分を変態に仕立てあげてしまいそうなので止めてあげた。
「でもほんとに助かりましたよ。今までありがとうございました」
「なんで今生の別れみたいな空気なんだ!?」
「まぁ、ちょっとら大袈裟に言いましたが、私はこれでもフユナ達と温泉旅行に来た訳ですから」
「じゃあオレも一緒に」
「え、特訓のために出てきたのでは?」
「特訓はいつでもできる。しかし……ルノさん達との旅行は今しかないっ!」
「……」
ここまでの道中では、強さを求めて真剣に特訓する姿勢を見せてくれたランペッジさんを見直してたのに……
私が若干冷めた目でランペッジさんを見てると、フユナ達がこちらに気付いて駆け寄ってきた。グロッタが大きいままなのでかなり目立つ。
「ルノ、どこ行ってたのーー!」
「まったく! 『子供じゃないんだから迷子になんてならないよ』なんて言っていたルノ様はどこへ行ったのですか!」
「ご、ごめんね。ランペッジさんに攫われちゃってさ」
「ランペッジさん、またそんな事してたの?」
「相変わらずドエロですな」
「また!? 相変わらず!? いやいや今回が初めてだし! じゃなくて! オレは別に攫ったりしてないぞ!」
「ふふっ、ランペッジさんにはサトリちゃんがいるもんね?」
「その通り。サトリはオレのものだからな」
「ならもう浮気はダメだよ?」
「しまった!?」
はい、これにてランペッジさんの片想いは終了。フユナの事は諦めてもらおう。
「くっ……こうなったらフユナちゃんは別枠ということで……!」
俯きながら力強くたらし発言をするランペッジさんは置いておき、本題に入る。
「んじゃ、色々あったけどさっそく観光しようか」
「おーー!」
フユナの明るい声が響いてそれだけで癒される。
結局ランペッジさんも一緒に行動する事になり、家族+一名による温泉旅行は賑やかなスタートとなった。
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「とりあえず先にお昼食べようか」
「それならいい店を知ってるぞ!」
ランペッジさんがグイグイ出てきた。私達よりこの街に詳しいみたいだし任せてみよう。
「じゃあ、ぜひ紹介してください。私達この街にまだ二回しか来たことないので」
「任せろ! (キリッ)」
気合入ってるなぁ。正確には私は三回目だが、あれは散歩でちょろっと来ただけなのでノーカンってことで。
そうして歩くこと数分。なにやら見覚えのあるお店に辿り着いた。
「あれ、ここって……」
「ふっふっふっ。ここの『ロッキサンド』は絶品でな。ここだけの話……実はこの前ルノさん達に作ったお昼もこれを参考にしている」
この前のお昼とは『ランペッジサンド』のことだ。まさか私の『ルノサンド』と同じ生まれ方で、さらには美味しさも上とは……悔しい!
何はともあれ、お昼はロッキサンドで決定。注文した人数分のロッキサンドがテーブルの上に並べられていく。
「ふふ、懐かしいな。昔ここでオレに会うためにやって来たサトリとロッキサンドを食べたんだ」
「「「えぇ!?」」」
思わず私とフユナ、そしてレヴィナが叫んでしまう。グロッタとスフレベルグはロッキサンドに夢中だった。
「う、うそ……ランペッジさんの一方的な求愛かと思ってたのにまさかの両思いだったの……!?」
「サトリちゃんが否定してたのはやっぱり照れ隠しだったんだね……」
「シャレにならなくなってきましたね……」
私達がヒソヒソと話している前ではランペッジさんがうんうんと思い出に浸っていた。
「すいません。私は今までランペッジさんを誤解していたみたいです」
「もうサトリちゃんのためにも浮気しないでね?」
「どうかお幸せに……」
「もちろんさ。オレはこれからも(兄弟子として)サトリを大切にしていく」
「「「きゃーー!」」」
これはマジだ!いつもみたいに(キリッ)とかやらないからすごく真面目に見える。
「なんだかとてもテンション上がってきました。今日は楽しみましょう、ランペッジさん!」
「見直しちゃった!」
「この人……まさかイケメン……!?」
私達はランペッジさんの純愛トークですっかり盛り上がっていた。サトリさんの修行の一環だったとも知らずに。
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それから二時間ほど経った頃、私達はようやくお店を出た。
「ふぅ、危ない危ない。せっかくの温泉旅行がランペッジさんの純愛トークショーで終わるところだったよ」
「でも、サトリちゃんも一途なんだね。こんな所まで会いに来るなんて」
「私は追いかけられてみたいなーーなんて……」
そんな事を話しているうちに目的地に到着した。温泉と宿がセットになっていて、温泉旅行にはうってつけの場所だ。
「えーーと、二部屋空いてるかな」
「二部屋?」
ランペッジさんが不思議そうな顔をしている。
「そうですよ。ランペッジさんも泊まるでしょう?」
「まぁ、そうだが」
「なので、私達家族で一部屋。そしてランペッジさんで一部屋です」
「ぐはっ!?」
急にランペッジさんが胸を押さえ始めた。大丈夫かな?
「せっかくだからみんな一緒の部屋というのは?」
「相変わらずドエロですな!」
「破廉恥ですね」
グロッタとスフレベルグがそれぞれ一言でまとめてくれた。
「確かにランペッジさんのイケイケ度は多少上がりましたけど、私達と同じ部屋はダメですよ。色々な意味で。分かりますよね?」
「ガクッ……」
四つん這いになって落ち込んでしまったがこればかりは仕方ない。ポタポタと何かがこぼれ落ちていたけど汗かな?
「まぁ、そう落ち込まずに。また明日の朝にでも呼びに来ますから」
「そうだな。フユナちゃんの寝顔はまたの機会に取っておこう!」
「そんな機会は一生ありません」
そうして私達はそれぞれとった部屋に入っていく。
ここの宿は全体的に木で統一されていて、日本の旅館を思わせるような造りだった。前回来た時と同様に、それぞれの部屋に温泉が付いているので好きなだけ堪能できる。
「夕飯まではまだ時間あるから温泉に入ろっか。元々そのために来たしね」
「うん、入る入る! フユナ一番乗りーー!」
「あっ、ずるいですよフユナさん……!」
フユナとレヴィナが、我こそはと温泉に向かって走っていった。公共の場ではないので多少ははしゃいでも構わないだろう。
「さ、私達も行こっか」
「ははぁ!」
「温泉なんて初めてですね」
私は左右の手にグロッタとスフレベルグを持ってフユナ達の後を追った。ちなみにコロリンも杖から離れて私の周りを漂っている。
「おぉーーなかなか綺麗だね」
浴室に入ると岩に囲まれた温泉が目の前にあり、それを飾り立てるように草木が植えてある。そして上を見上げると綺麗な空が広がっていた。これはまさに露天風呂というやつだ。
「はい、三人はここね」
私は桶を三つ浮かべ、グロッタ達にはそこに入ってもらう。コロリンは元からだけど、今はグロッタとスフレベルグも小さくしてあるので溺れてしまう。マナーなんちゃらというのは異世界なので深く考えるのはやめておく。
「ふぅ、極楽極楽……」
全てを忘れられる時間だ。ぼーっと空を見上げているとそのまま意識が吸い込まれてしまいそう。
しばらくそうしていると、フユナとレヴィナが無言のまま私の隣に腰を下ろした。
「いやぁ……村の温泉とはまた違った良さがあるね」
「そうだねーー」
「うとうと……」
「レヴィナ、寝たらのぼせちゃうよ」
「わぶっ……!?」
寝そうになっているのレヴィナをつついたらズルッっと沈みそうになった。
「私も眠くなってきちゃったな……もう少ししたら上がろうか」
「うん……もう少しーー」
「うとうと……」
「ばしゃーー」
「ごぼぼっ……!?」
こうして、私達は家族水入らずの時間をまったりと過ごした。
それほど多くの言葉は交わさなかったが、この瞬間だけはそれが正確だと言うかのように全員が静かな時間を過ごしたのでした。