第七十二話〜温泉旅行① 迷子になった〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。
「ねぇねぇルノ。温泉行きたい」
「ん?」
朝食を終えてコーヒーを飲んでいたところでフユナがそんなことを言ってきた。
「うん、いいよ。めずらしいねフユナから温泉のお誘いがあるなんて」
今まで何回も温泉には行っていたが、私が行きたいから行くみたいな感じだった。もちろん、フユナも喜んではいたが。
「レヴィナさんと温泉のお話してたら行きたくなってきちゃったの!」
「へぇ……レヴィナも温泉好きなの?」
「はい、身も心も休まるというか……とにかく最高です……!」
心なしか、レヴィナの言葉にも熱がこもっている気がする……なるほど。
「んーー……それなら久しぶりにロッキの街まで行く? 村の温泉でもいいけど、どうせならちょっとした旅行気分でさ」
「うん、行きたーーい!」
「わ、私もぜひ……!」
「んじゃスフレベルグに頼んでくるね。飛んでいけばすぐに着くし」
「えっ……!?」
「え、どうかした?」
「いえ、その……」
レヴィナがなんだか言いにくそうにモジモジしている。その仕草はなかなかかわいいけど……
「トイレならあっちだよ。今さらそんな恥ずかしそうにしなくても……」
「ち、違いますよ……なんでそうなるんですかっ!?」
「うわっ!? じ、冗談だって! あはは……」
すごい剣幕で怒られてしまった。
要するに前回。村に行く時に、スフレベルグの背中に乗せてもらったところ、レヴィナは思いっきり酔ってしまったのでそれは遠慮したいとのこと。
「まぁ、それならのんびり歩いて行こうか。今から出発すれば問題ないしね」
「ぜひそれでお願いします……」
その後、グロッタやスフレベルグにも声をかけて、家族全員で行くことになった。最初は日帰りのつもりだったのだが、本格的な旅行になりそうだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「えっと、お金は持ったし、着替えもオッケー。あとは……」
「そんなに沢山持っていくのーー?」
「旅行みたいですね……」
「はっ……!?」
どうやら私は旅行気分で予想以上に舞い上がっていたらしい。
「べ、別に楽しみで舞い上がってる訳じゃないから! ほら、もしかしたら向こうで楽しすぎて泊まりたくなるかもしれないでしょ? 一応だよ?」
「ルノ、かわいーー」
「ふふ……」
「ほら、変な事言ってないで準備できたから行くよ! ……あ、ちょっと待って、忘れ物」
「くすくす!」
「ほんとに楽しみなんですね……」
こうして、準備して家を出るまで一時間ほどかかった。いや、別に気合い入れて準備してて時間かかったた訳じゃないから。
私達は外に出てグロッタの小屋の前に集合した。
「よいしょっと。重い?」
荷物はグロッタの背中に括り付けて行くことに。
「いえいえ、このくらい無いも同然です! ルノ様を乗せた時の方が重」
「あれ? なにか付いてるよ。(ブチッ)」
「ぎゃあああ!?」
「あ、毛だった」
「悪魔!」
何はともあれこれで荷物はオッケーだ。
「スフレベルグはどうする? そのまま歩いてもいいけどちょっとシュールだよね」
「でしたらまた小さくしてもらえますか? それでグロッタの背中にでも乗っていきます」
「うん、分かったよ。とりゃ」
「ぎゃあああ!?」
「またやってる……」
文面だけだとグロッタと区別つかないからこれ以上似たような事をするのは勘弁して欲しいな。
「んじゃ出発するよ。みんなはぐれて迷子にならないようにね!」
「はーーい!」
「今の舞い上がっているルノ様が一番心配ですな(ボソッ)」
「そんな訳ないでしょ。子供じゃないんだから迷子になんてならないよ(ブチブチッ)」
「ぎゃあああ!?」
そんな風に思っていた。この時は。
出発してから一時間後。
私達の目的地の『ロッキ』は山を一つ越えた場所にあり、現在はちょうど中間地点くらい。遠くには既に街が見え始めている。
「んーー! いい景色だね。これならロッキまで飽きないから良いね」
しーーん……
「こんなに空気が美味しいとここでお昼食べたくなっちゃうよね。あ、でもお昼はロッキに到着してから食べるつもりだったから持ってきてないや。てへぺろ♪」
しーーん……
「……? みんなちょっとテンション低くない? 私、独り言ってるみたいで虚しいんだけど(くるっ)」
あまりにも静かなので振り返ってみんなの様子を確認してみる。
「あれ……」
本当に独り言だった。
『子供じゃないんだから迷子になんてならないよ』そんな言葉を得意気に言っていた私はどこへ行ってしまったのか。
その頃、フユナ達はというと。
「まったく! 『子供じゃないんだから迷子になんてならないよ』なんて得意気に言っていたルノ様はどこへ行ってしまったのやら!」
「今日のルノは子供みたいに舞い上がってたからねーーくすくす!」
「ルノさんは一人で大丈夫でしょうか……?」
「いざとなれば箒に乗って飛べるのでそんなに心配することもないでしょう」
「うん、ルノなら大丈夫だよ。はぐれちゃった所に『ロッキに行ってます』って書いといたしね」
「そ、そうですね……」
こうして、家族達はルノを信じてロッキを目指した。
そして、その書き置きが残された場所に何とか辿り着いた人物がいた。
「みんなの薄情者ーー!」
私はその場で泣き崩れました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うぅ……捨てられた……」
地面には可愛らしい文字で『ロッキに行ってます』と書いてあった。この字は多分フユナだろう。
「まぁ、ここは信頼されてるということにして進むとしよう。みんなが先に到着して待たせちゃっても悪いからね」
そんな決意を固めて歩きだそうとした時。
「おや? ルノさんじゃないか」
目の前に金欠の双剣使い・ロリコン浮気ランペッジが現れた。
「おい、その評価はちょっとあんまりじゃないか?」
「じゃあもしここにいたのがフユナだったら?」
「もちろん頂く(キリッ)」
「さらにサトリさんまで合流したら?」
「ハーレムだな!」
「きゃーー! 誰か助けてーー!?」
「冗談に決まってるだろう?」
「全然説得力ないんですが……」
なんたってこの人はサトリさんのことを『オレのもんだ!』なんて言っていたくらいなのだから。
「でも今日はタイミングが良かったです。実は家族全員でロッキまで行こうとしてたんですけど……」
「迷子になったのかい?」
ランペッジさんが書き置きを見ながら可哀想な人を見る目で見てきた。
「ち、違いますよ? みんなが迷子になったんです(キリッ)」
「ふーん……」
「そしてこれはもちろん、私がみんなのために書いたものです(キリリッ)」
「ふーん……」
あ、この目は完璧に信じてない目だな。まったく失礼な。
「ところでランペッジさんは何故こんな所に? まさかフユナの匂いを追って……?」
「くんかくんか……もちろんオレもロッキに行くためだ」
「ちょっと……嗅がないでください」
どうやらランペッジさんもロッキに行くらしい。私達と出会った時のように、ロッキで結晶をかけて特訓するんだとか。
「それなら仕方ないので一緒に行きましょう」
「ルノさん。迷子になったらだめだぞ?」
「何のことですか?」
こうして、家族との楽しい時間は何故かランペッジさんとのデートになってしまった。
その道中。
「ランペッジさんはなんでそんなに特訓するんです?」
「お、興味あるのか?」
「いえ……暇なので」
「ひどすぎる!」
「でも興味はありますよ(棒読み)」
「……」
ランペッジさんはしばらく考えた後にこう言いました。
「もちろん強くなるためさ」
「ふーん……」
「……」
「……」
「え、終わり!? もっとこう理由を聞くとか」
「理由は?」
「よくぞ聞いてくれた」
聞いてほしそうにしてたでしょうに。とは話が進まなくなるので言わないでおこう。
「実はオレはまだ師匠から一本しか取ったことがなくてな。まだまだ修行が足りないと思った訳さ」
「師匠って……カラットさん?」
「そうそう。しかもその一本を取ったのは数年前。現在のオレは昔よりさらに強くなってるはずなのにそれからは一本も取れてないんだぜ?」
「ほうほう。確かにカラットさんは化け物でしたね。私も魔法を見せてもらったことありますよ」
「でもそういう意味じゃルノさんも化け物らしいな。師匠が褒めていたぞ?」
「女の子に化け物なんて失礼な」
「ははっ、師匠にそこまで言わせるなんて羨ましい限りだな。でもあの人は槍の扱いも半端じゃないんだ。こっちは双剣を使ってるのに手数で圧倒するんだぞ? 双剣を使うオレの立場がないってもんさ」
「はぁーーすごいんですね」
そんなこんなで、ランペッジさんとの会話は意外と盛り上がった。ほとんどが『強さ』に関するような熱苦しい会話だったが。
「いや、でも助かりましたよ。みんなとはぐれたときはものすごくテンション下がってましたから」
「やっぱり迷子だったんだ?」
「違いますよ?」
こうして私は無事にロッキに辿り着くことができたのでした。