第七十一話〜畑作り始めました②〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。
お昼にランペッジさんが作ってくれたランペッジサンド(ルノサンドより美味)を頂きつつ今後のことを話し合う。
「でもやることはほとんど決まってますよね。まずランペッジさんが畑となる部分を耕す。その次にランペッジさんが種を撒く。そして最後にランペッジさんが水やりをして完成。わーーい」
「おいおい。それだとルノさん達のやる事が無くなってしまうじゃないか!?」
「安心してください。私達は収穫して食べる専門です。あ、やっぱり収穫もお願いします」
「君というやつは……自分の畑を作るというのに食べるだけでは意味がないじゃないか」
「えーーでもやっぱり食べるために畑を作る訳で……」
「えーーじゃない。よし、それなら耕すのはオレとルノさんでやろう」
「いやです。それなら私はお水をあげる係をやります。それなら魔法で簡単にできます」
「いいのかな? 一家の大黒柱としていい所を見せておけば、家族の絆のさらなる発展も夢じゃないぞ」
「ふむ……確かに」
一理ある。それに耕すのだって魔法で出来ないこともない。要は使い方だ。
「分かりました。私の力を見せてあげます」
「ニヤ……これでオレの方が活躍できれば……フフ!」
「それが狙いですか……」
そういえば畑作りで私を倒すとか言ってたっけか。まんまと乗せられてしまったな。
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こうして始まった畑仕事は予想以上にキツかった。なぜならランペッジさんに『魔法は禁止』と謎のルールを課せれたから。
「ゼェゼェ……疲れた……ちょっと休憩……」
始めて数分で既に息があがってきた。普段はこんな力仕事やらないので辛い。
「こら! なにサボってる!」
パシーン! とお尻を引っぱたかれた。
「痛ー!? そんな趣味無いんですけど!?」
「フッ。これはオレの趣味だ(キリッ)」
「フユナーー助けてーー! ここに変態」
「さーて、どんどん耕すぞーー♪」
ザクザクザクザク!
ランペッジさんが100メートル走のようなスピードで耕しながら遠くに行ってしまった。逃げたな……
「ふぅ、これで少しは休める」
ザクザクザクザク!
「あ、戻って来た」
「まったく……急にあんなことを言うなんて誤解されるじゃないか」
「じゃあさっき私のお尻を引っぱたいたのは?」
「オレの趣味だ(キリッ)」
「フユナーー!?」
「さて、もう一往復いくぞーー♪」
ザクザクザクザク!
ふむ。これは畑を耕すコツ(?)を掴んだ気がするな。大体の物事はコツを掴むと楽しくなるよね。
ザクザクザクザク!
また戻って来た。
「ハァハァ……ルノさん、いつまで休憩してるんだ……」
「ところでランペッジさん。さっきはサボってすいませんでした。もう一度、気合いを入れる意味でも引っぱたいてください」
「喜んで!」
「いやぁーー!? フユナーー!」
「よし! 一気に終わらせるぞーー♪」
ザクザクザクザク!
「よしよし。これでこの作業は終わりかな。我ながらいい仕事したな」
そして今更だが『引っぱたいてください』とか私こそなかなかのド変態発言してたな……危うくグロッタの仲間入りする所だった。自重しよう。
「ゼェゼェ……お、終わったぞ……ぐふっ!」
「お疲れ様です」
何があったんだと聞きたくなるくらいに疲弊していたがあれだけのスピードでやれば当然か。
「じゃあ次は種まきですね。一番辛い作業は終わったのであとはみんなでやりましょう」
という事でフユナとレヴィナを呼ぶ。グロッタとスフレベルグは二人で戯れていたのでそのままにしておいてあげた。
「では今から種まきの作業に入ります。フユナは黄キャベツで、レヴィナは赤キャベツでお願いね。私は普通のやつで、ランペッジさんはお尻触るのでポイで」
「え、ルノお尻触られたの?」
「そうなの。ランペッジさんの趣味らしいから否定はしないけど、みんな気を付けてね」
「分かったーー!」
「ひぇ……」
まぁ、どっちにしろランペッジさんは疲労でダウンしているので心配いらないだろう。後でちゃんと労ってあげよう。
そして種まき自体は簡単で割とすぐに終わった。
「ルノ、終わったよーー!」
「ゼェ……ゼェ……」
フユナは元気だったがレヴィナはもうボロボロだった。やっぱり耕す作業は私達でやっといて正解だったみたいだ。
「最後にぱーーっと水をあげて終わりだね。これは魔法ですぐ終わるから任せて」
私達は畑を見渡せるグロッタの小屋の辺りまで行く。そこで私は『魔杖・コロリン』を構えて水の魔法を放つ。
「きれーーい!」
「おぉ……」
フユナとレヴィナが感動していた。私が放った水の魔法が雨のように降り注いで虹が出来ていたのだ。
同時に、畑にポイしたままのランペッジさんが『ぎゃあああ!?』などと言ってずぶ濡れになっていたが、ただの水なのでそんなに気にしないでおこう。
「どのくらいで収穫できるのかなーー?」
「すぐにでも収穫できればいいんだけどね。私はそんな魔法使えないしなぁ。レヴィナは?」
「私もまったく……」
「だよね……」
そんな都合のいい魔法なんて無いか。なんて諦めようとした瞬間、スフレベルグが私の背後に湧いて出た。
「うわ、びっくりした……急にどうしたの?」
「フフフ……ついにワタシの出番ですね」
スフレベルグが珍しくドヤ顔だ。なんかいい案でもあるのだろうか?
「ワタシがここに住むにあたってどんなメリットがあるか……忘れたのですか?」
「うーん……?」
メリット……正直、そんなの関係なしにいてくれて全然いいのだが、なんだったかな……?
「あ、思い出した! え、なに……あれキャベツにもオッケーなの?」
「フフフ……もちろんです」
そう、あれはスフレベルグが初めてここにやって来た時、メリットと言って魔法でロッキの結晶をたくさん実らせたのだ。
「それ、超チートだね。種さえあれば無限に収穫できるじゃん」
無論、勿体無いので食べる分だけしかやらないが、その気になれば八百屋でも始められるんじゃないか?
「ルノ。少々ゲスな事を考えているようですが商売には使いませんよ?」
「ん? もちろんだよ(キリッ)」
私の考えを見透かされているようなので、ランペッジさんのキメ顔を借りて誤魔化しておいた。
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その日の夜。私達はさっそく収穫したキャベツを使った料理を堪能していた。
「「おいしい!」」
「フッ!」
私達がベタ褒めする視線の先にはランペッジさんがいる。なんだかんだで畑作業は夕方まで続いて、いざ夕飯を作ろうという時にランペッジさんが立ち上がったという訳だ。
「それにしてもお昼といい、ランペッジさんってお料理上手なんですね」
「フユナもびっくりしちゃった」
「んぐんぐ……」
サトリさんの兄弟子というのはまさか料理の事なのだろうか。負けないくらい美味しい。レヴィナなんて夢中でほとんど喋っていない。
「ふっふっふっ! オレの料理を食べたくなったらまたいつでも呼ぶがいい!」
一瞬、悩んだがそれいいかもなんて思ってしまう自分がいた。ヤバいな……ランペッジさんの料理に心を奪われそうだ。
「ルノさんルノさん」
「ん?」
そこでランペッジさんがヒソヒソと私に話しかけてきた。
「今日はオレの勝ちなんじゃないか? (チラチラッ)」
「あーー……」
すっかり忘れてたけどそんな約束(?)もしたっけか。
「そうですね。今日のランペッジさんはすごかったです。私の負けですね」
「おぉ!? という事は!?」
「はい、認めましょう。フユナと会話してもオッケー」
「え……?」
「え?」
なんで不思議そうな顔をしてるんだ?
「あれ? 嬉しくないんですか?」
「いや……フユナちゃんをオレにくれるんじゃ……」
「何を言っているんですか。フユナは物じゃないんだから私の意志だけでどうこうできる事じゃないですよ。それに私はちゃんと『フユナと会話したいなら』って言いましたよ?」
「ガーン……!?」
「なんだったら今からフユナに聞いてみますよ。今日はお世話になりましたし」
私の言葉を聞いてランペッジさんの顔が一気に輝いた。
「フユナフユナ。ランペッジさんがフユナを欲しいんだって」
「ストレート過ぎるだろ!?」
ランペッジさんが焦っているようだけど今はスルーしておく。フユナの返事はというと……
「ランペッジさん、浮気はしちゃいけないんだよ!」
「えっ!?」
「ランペッジさんにはサトリちゃんがいるでしょ!」
「墓穴!」
ランペッジさんがその場で崩れ落ちた。『サトリはオレのもんだ!』なんて言うから……
「ランペッジさん。サトリさんとお幸せに」
私はランペッジさんの肩に手を置いてそれだけ言い残し、絶品のキャベツ料理に舌鼓を打つのでした。