第七十話〜畑作り始めました①〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。
「「ぼけーー……」」
「どうしよう、グロッタ。ルノだけじゃなくてレヴィナさんまでボケちゃった……」
「そうですな。ルノ様は当然として、幸薄いレヴィナまで……」
そんな失礼なことをひそひそと話しているフユナとグロッタ。特にやることも無いのでとりあえず朝から外に出てきたのだがご覧の通り。
「二人とも聞こえてるよ。レヴィナはともかく、私はまだボケてないよ」
「ひどいっ……!?」
ボケてはいないがやることがなくてぼけーーっとしたのは事実。どうしたものか。
「そう考えると不老不死ってなかなか時間の使い方が難しいな。無限だから」
私のそんな呟きも今日の青空に吸い込まれていった。平和を究極なまでに突き詰めたような生活だな。
「わしゃわしゃ……」
「ゲラゲラゲラゲラ!」
目の前ではフユナとグロッタが戯れていてとても心が和む。うん、平和だ。
「レヴィナはさ、今まで暇な時はどうしてたの?」
同じく不老不死のレヴィナに聞いてみる。
「そうですね……知っての通り、私はずっと旅の劇団として生きてきましたので移動か演劇の二択でしたね……」
「じゃあさ、なにか演劇やってよ。お腹抱えて笑い転げるようなやつ」
「笑い転げるやつですか……ゾンビに出来ますかね……?」
そうだった。劇団と言っても、メンバーはレヴィナ一人でその他は呼び起こしたゾンビだった。やっぱり却下で。
「そうだなぁ……何か平和でーー時間潰せてーーためになるやつ」
「あ、それなら畑をつくって何か植えてみては……?」
「畑?」
「はい……平和ですし時間も潰せます。収穫出来れば食事にも使えますし……」
「あーーそれいいかも」
食べ物はどれだけあっても困らないし、自分の畑作りなんてちょっと憧れる。
「でも、何を育てます? 言ってみたものの、私は畑なんて作ったことありませんし……」
「ふっふっふっ。それならもう決まってるよ。畑といったらキャベツ! これお約束」
「そうなんですね……ルノさんは物知りですね……」
「いや、私がキャベツを好きだからってだけだよ。てへ」
「……」
まぁ、自分の畑を作って育てるものなんてだいたいその理由でしょ。どうせなら好きな物食べたいもんね。
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という訳で、イチャラブしているフユナとグロッタに留守番を任せて、私とレヴィナ、そしてスフレベルグは村に買出しに向かった。
「めずらしいですね、ルノ。村まで乗せてくれだなんて」
現在、私達はスフレベルグに乗って移動中。
「なんだか今日は空の旅を満喫したい気分でさ。村に着いたらアイスでも買ってあげるから許してちょ」
「ワタシも暇だったので全然平気ですよ」
久しぶりの空の旅はかなり気持ちよかった。どうせならこのままロッキの街にでも旅行に行きたいくらいだ。
「てか、ずいぶん静かだね。どうかした?」
さっきからレヴィナが俯いたまま一言も喋っていない。心なしか顔色が悪い気がする。まさか酔った?
「き……」
「き?」
「気持ち……悪い……」
嫌な予感が的中したのでスフレベルグに急いで村まで行ってもらった。
そして村に到着。
とりあえずスフレベルグのご褒美アイスを買ってひとまず休憩。もちろん私も買った。
「すいません。ちょっとそこの草むらに……うぷ……」
「あ、うん……ゆっくりでいいからね……?」
レヴィナが真っ青な顔で近くの草むらへヨロヨロと歩いていった。帰りは歩いてあげないとな。
「それにしても外で食べるアイスは最高だね。この前食べたばっかりだけど」
「そうですね。でもルノが作ってくれたアイスの方が美味しいですよ」
「ま、またそんなこと言って……もう一つアイス買ってあげる」
そんな時、突然『おえ〜!』と聞こえてきた。レヴィナがいる方からだ。大丈夫かな?
「アイス食べるタイミング間違えちゃったかな」
「でしたら正解のタイミングでもう一度食べましょう」
「う、うん……?」
なんか上手く乗せられた気がしたけど、レヴィナが元気になって戻って来てからまたアイスを食べた。
「さて、んじゃ行こっか。スフレベルグは小さくなっててね。とりゃ」
村の中ではさすがに大きすぎるので小さくしておく。その際、スフレベルグが『ぎゃあああ!?』などと言って大げさなリアクションをしていた。
「なんかスフレベルグのキャラも崩壊してきたね。そっちが素なの?」
「いえ、これもきっとグロッタの影響でしょう」
「あ、やっぱりそうなのね」
自覚はあるみたいだ。このままいくとグロッタが二人いるみたいになる予感がして少々不安になった。
そうこうしているうちに雑貨屋に到着。そういえばアイスの材料とかもここで買ったな。
「ルノさん、キャベツでも色んな種類があるみたいですよ」
「ほんとだ。赤、青、黄色。もはやキャベツじゃない気がするな」
でも『紫キャベツ』なんてものがあるくらいだしめずらしいことでもないのかも。
「うーん……正直、青は抵抗あるから普通のやつと黄色いやつ、あと赤いやつを買おうか」
「キャベツづくしですね……」
言われて思った。確かにキャベツにこだわる必要もないけど、最初だしこんなもんでしょ。
「よし、んじゃ帰ろうか」
目的のものを購入し、雑貨屋を出る。すると……
「ん? ルノさんじゃないか」
なぜかいつかと同じ状況になった。具体的にはアイスの材料を買った時と同じ状況。
「ランペッジさんじゃないですか。狙ってたように登場しますね」
「それは気のせいさ。ところでなんだか面白そうな匂いがするね」
餌の匂いに釣られてやってきた犬みたいなことを言い出したランペッジさん。これは先の展開が読めたぞ。ちょっと遊んでみる。
「じつはこれから畑を作るんですよ。なので私達はこれで。さよならっ!」
そう言い残し私達は走り去る。しかし雷の如き速さでランペッジさんが追いついて私達の目の前に立ちはだかった。
「はぁはぁ……どんだけ必死なんですか……」
「面白そうだったからつい」
「今日はアイス作りじゃないのでランペッジさんの出番はありませんよ。てか、アイス作りも私ができるようになったので出番はありませんけど」
「ふっふっふっ。アイス作りに関して突っ込みたい所はあるがそれより。畑仕事ならここにプロがいるぞ」
「「キョロキョロ……」」
「こ・こ!」
ランペッジさんが食い込みそうな勢いで自分を指さしている。素直に来たいって言えばいいのに。
「ランペッジさんは畑の事も詳しいんですか?」
「というか、耕すのがプロだな(キリッ)」
「ふーん……」
自信ありそうな顔でキメていたのでそらなら手伝ってもらおうかな。本人もそのつもりみたいだし。
「ルノさんルノさん。確かに耕すのは力仕事なのでぜひ協力してもらっては……?」
「そうだね。じゃあ、ぜひお願いします。報酬はフユナで」
「マジかっ!?」
「ウソです」
「ガクッ……」
面白いくらいに食いついてきた。てか、やっぱりまだ諦めてなかったのか!
「前にも言いましたがフユナと会話するには私を倒せるくらいの人じゃなきゃだめですよ」
「なら、この後の畑作りでルノさんを倒す!」
畑作りで倒される未来とやらを想像してみたがよく分からない。なんだかんだ言ってランペッジさんも色々と手伝ってくれるようだ。
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「ただいまー」
村から帰宅した私達はそのままグロッタとフユナの元へ。
「おかえりー!」
「なんだか一人増えてますな」
「今日は畑仕事でルノさんを倒しに来た(キリッ)」
フユナの前だからだろうか。いつもより気合いの入ったキメ顔でランペッジさんが前に出た。
「フユナ様。またランペッジがアホな事を言い出しましたな」
「しー! 聞こえちゃうでしょ。ランペッジさんはあれが普通なんだよ」
『アホ』の部分を否定してもらえなかった事にショックを受けるランペッジさんはとりあえず放置しておくとして。
「まずはお昼食べてからにしようか。エネルギーを蓄えないと疲れちゃうからね」
「そういうことならお昼はオレが作ろう」
「え、いいんですか?」
「任せてくれ!」
せっかくなのでにお願いすることに。私がお昼に使う材料などを持ってくるとランペッジさんはその場で手際良く調理を進めていき……
「できたぞ、みんな!」
「「……」」
目の前に出てきたのはどこか見覚えのある料理。ルノサンド……いや、これはランペッジサンドとでも言うべきか。全員、同じ事を思っただろう。
「「いただきます」」
戸惑いながらも出来たてのいい匂いに釣られてかぶりつく私達。
「どうだ、お味は?」
「く……!?」
ランペッジサンドはルノサンドより美味しかった。