第六十九話〜新ジョブ『アイス職人』〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。
本日の天気は雨。ザーザーと聞こえてくる音から、結構な勢いだと分かる。多少の雨なら出かけようという気も起きたかもしれないがさすがにこれは無理だ。
「タッタッタッ」
「パタパタ」
現在、私のいるリビングには小さくなったグロッタやスフレベルグもいる。この天気なので一応室内に入れてあげたのだが、飛び回ったり、走り回ったり、なかなか騒がしい。
「二人とも、あんまり室内で暴れないようにね」
「「ギャーギャー!」」
「こらー!」
グロッタとスフレベルグが絡み合っての喧嘩を始めた。戯れているだけかもしれないがうるさいのは同じなのでやめさせる。
「ほらほら、ここは室内なんだから外と同じ感覚じゃだめだよ」
「しかしルノ様。こうも完全に外出不能だとかえってテンションが上がってしまうのです!」
「その通りです。仕事もできない。ならここで遊ぶしかありません」
いやいや、スフレベルグの仕事って何さ? と思ったが気持ちは分からなくもない。
「それならもっとお淑やかな過ごし方があるでしょ。ほら、フユナやレヴィナを見習って」
「「ふむ……」」
私の言葉を聞いて二人がフユナとレヴィナの方へ視線を向ける。
「すやー」
フユナは『双剣使い・サトりんのワクワク冒険記』をテーブルで読みながら寝落ちしている。さすがに何回も読んでるから飽きるよね。
一方、レヴィナは……
「はい……はい。そうなんです……はぁ……」
呼び起こしたゾンビと会話していた。あそこだけ妙に空気が重い。
「しまった……今日に限って全然お淑やかじゃない。いや、レヴィナはいつも通りか?」
「相変わらず幸薄そうですな。ゲラゲラ!」
「こら、そういう事言わない!」
「ぎゃあああ!? ありがとうございます! ありがとうございます!」
氷の塊をプレゼントしたらグロッタが久しぶりのドMを発揮してた。これはこれで面白いけど、変な主従関係が成り立ってしまいそうで怖い。
「そうだなぁ……それじゃ、アイスでも食べる? 私が作ってあげるよ」
「アイスですか?」
「あ、そっか……スフレベルグはアイス職人が来た時いなかったね」
そうそう。あの時は私とフユナ、あとはグロッタしかいなかったはず。
「そういえば、あれはまだレヴィナとも出会う前だったね。ほら、レヴィナもおいでおいで。二人ともいい機会だから美味しいと思って食べてみなよ。美味しいから!」
「はい。ぜひ食べてみたいです」
「はい、私もぜひ……」
「よーし、いっちょ気合い入れて作ってみようか!」
最近カフェデビューしたスフレベルグなら気に入ってくれるはずだし、ネガティブレヴィナを元気付ける意味でもちょうどいいや。燃えてきたぞ!
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という訳で前回の道具やら材料やらを引っ張り出してきてテーブルの上に並べていく。と言っても、牛乳などを混ぜるだけで仕込みは終わるし、プレートも魔法ですぐに冷やせる。
ちなみに作るアイスは前回同様、キンキンに冷やした金属プレートにアイスの液体を注いでクルクルっとするアレ。
「しかし大丈夫ですか、ルノ様?」
「ん、なにが?」
「いえ、前回のアイス作りではそれはもう悲惨な……」
「そ、それは忘れてよ……あれから私は進化したんだよ。なんたって前回、近くでランペッジさんの技を見てたんだからね」
アイス作りの秘訣は双剣にありだ。あの時ランペッジさんは双剣を振るかのように華麗な動きだった。
「よーし、準備完了! とう!」
「「ドキドキ」」
私は両手にヘラを持って双剣を振るイメージで一気にアイスを作る。右手! 左手! 二振りのヘラで出来上がったアイスは実に見事な……
「「……」」
実に見事なプレート状のアイスができました。いや、そもそも私は双剣なんて使った事がないからイメージなんて全くわかないよ!?
「なんだか前回よりさらにプレート感が増した気がする……ぐすっ」
「ゲラゲラゲラゲラ!」
「ルノ、これがそのロール状のアイスですか?」
「でも美味しいですよ、ルノさん……(パリパリ)」
「う……うわぁぁぁん!」
私は泣いた。違う……こんなはずではないのに! 私が求めてるアイスはもっとクルクル〜ってやつなのに!
「ルノ様、ここはまたランペッジを召喚しましょう」
「いやだっ! 私はまだやれるっ!」
「「「……」」」
このまま引き下がれずに半分意地になった私に、三人が可哀想な子を見るような視線を向けてきた。
結局、その後何度も失敗したが何とか形にする事ができた。改めて思ったがやはりランペッジさんはすごい……さすがアイス職人だ。
「よし……まずはこの美味しさをご覧下さい。とりゃ」
「むぐ……」
ぐいっ……っと寝落ちしているフユナの口にアイスを押し込むとガバッと勢いよく起き上がった。
「!?!?」
わけも分からず。しかし美味しいアイスを頬張って口をもごもご動かしているフユナが最高にかわいい。
「どう? 寝る子も起きる美味しさだよ。さ、食べて食べて!」
「い、いただきます……」
「ガツガツ!」
「ムシャムシャ!」
その後も私はアイスを量産してみんなに振る舞った。諦めなかったかいもあって、スフレベルグもレヴィナも気に入ったみたいでどんどん食べていた。
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こうして、雨の日のどんよりした空気にもかかわらず我が家ではまったりとした時間が流れていった。
アイスパーティーも一段落して、今はみんなでコーヒーを飲んでいる。
「ふぅ。アイスの後のコーヒーは最高だね」
「それにしても驚きました。ルノにこんな特技があったなんて」
「ほんとですね。ぜひ、また今度作ってください……」
「ふふん、任せなさい。いつでも作ってあげるよ!」
手作りアイスが予想以上に好評だったので私はすっかり舞い上がっていた。やっぱり自分が作ったものを褒められるのは嬉しいね。
「ドヤ顔で失敗したときはどうなるかと思いましたけどな! ゲラゲラ!」
「はい、お仕置き!」
「ぎゃあああ!? 本当にぎゃあああ!!」
氷だとお仕置きにならないので鼻先を火で軽く炙ってあげた。
「まったく。最後は上手くいったんだから最初の失敗なんてチャラだよ。今日から私はアイス職人になるっ!」
まさに私が『氷の魔女』から『アイス職人』にクラスチェンジした瞬間だった。
これなら今後、金欠になった時などはわざわざ討伐に行かなくてもアイス屋をやって稼げるな……なんて、少しだけゲスい事を考えた私でした。