第六十八話〜フユナのカチコチ成長記その3〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。
窓から差し込む朝日と、寝室に吹き込む心地よい風がわたしをやさしく目覚めに導いてくれる。
「んーー……!」
いつもより少々早い起床。ルノとレヴィナさんはまだ熟睡中。わたしはこんなにいい天気なので寝ていては勿体無い気がしたので起きることにしました。
「よいしょ……」
「うぎゃ……」
「よいしょ……」
「ぐぇ……」
わたしが最初に起床した日はいつもルノとレヴィナさんを跨いでいきます。そうしないとベッドから出られないので。
「ふぅ。いつも起こしちゃわないかとドキドキしちゃうな」
幸いな事に今まで起こしてしまったことはありません。
「せっかくだしグロッタに朝ご飯でもあげてこようかな」
こうして今日もわたし。フユナの一日が始まるのでした。
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「グロッターごはんだよー!」
「ワンワン!」
グロッタの小屋に朝ご飯を持っていくと元気よくこちらに向かって走ってきました。この子はいつも早起きです。
「ガツガツ! フユナ様の愛情を感じます!」
「またそうやって変な事を言ってー」
「そんなことありませんぞ! ルノ様など、朝は目が死んでいて僅かな光すらもありません!」
「ぷっ! そういう時は寝ぼけてるんだよ」
「それだけではありません。この前など朝から虚ろな目でお湯を飲んでいて、まるで老人のようでしたな! ゲラゲラ!」
朝からグロッタは実に楽しそう。しかし残念なことにグロッタは寝室の窓からこちらを除く視線には気付いていません。
「それ、ルノに聞かれたら怒られちゃうよー?」
「その心配はありません! 今日のルノ様は老人でありながら寝坊というレアな」
「グロッタグロッタ」
「???」
「ちょいちょい……」
わたしは自宅の二階の寝室がある所を指差しました。グロッタもやっと気付いたみたいです。ルノがこちらを笑顔で見守っていることに。
「ちょいちょい……」
今度はそのルノが別の方向を指差しました。具体的にはグロッタの真上。
「……? ……ぎゃあああ!?」
それにつられてチラッっと上を見たグロッタに氷の塊が落ちてきました。それはまさに天罰でした。
「さーてと、朝ご飯でも作ろうかな(ニコニコ)」
そう言ってルノは満足そうに消えてしましました。
「あーあ。グロッタはおしゃべりなんだからー!」
「うぐぐ、しかし朝から氷を頂くというのもなかなか……」
「……」
これはアレですね。ルノがよく言っている『どえむ』というやつ。
「んじゃフユナも朝ご飯食べるから行くね。ばいばーい!」
「ははぁー!」
いつものように別れの挨拶をするわたしとグロッタ。グロッタは少し堅苦しく見えるかもしれないけどこれが普通です。
そして、場所は変わってリビング。ルノが朝食を作ってくれているらしく、とてもいい匂いがします。既にテーブルに座っているレヴィナさんも待ち切れない様子。
「あ、フユナ。もうできるから座っててね」
「うん、分かった」
手洗いを済ませていつもの席に座る。テーブルの真ん中にはルノが作った氷の台座に『魔杖・コロリン』が立て掛けてあります。
「レヴィナさん、おはよう!」
「おはようございます、フユナさん……」
「コロリンもおはよう。つんつん」
レヴィナさんに挨拶をしてから杖の先端を漂っているコロリンにも挨拶をしてつついてみる。空中でコロコロ転がって相変わらずかわいい。
「はーい、二人ともできたよ。今日の……今日の! 朝ご飯はルノサンドだよ」
「わーい、美味しそうー」
「ごくっ……」
ルノが何故か『今日の』を強調しています……確か昨日とその前の朝ご飯もルノサンドだったような気が……?
「「いただきまーす」」
でもわたしはそんな事は気にならないくらいルノサンドが大好きなので嬉しいです。美味しくいただきました。
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朝食を終えて再びグロッタの小屋に戻ったわたしは、最近の日課になっている『ある事』をするためにグロッタを誘いました。
「んじゃグロッタ。今日も行こっか」
「はい!」
わたしはグロッタに跨って村に行くために移動を開始します。
「それにしてもフユナ様のおかげでわたくしの小屋も随分と立派になりましたな!」
「うんうん。いつか結晶でいっぱいにしてあげるね」
ここ最近の日課とは村にいるランペッジさんからロッキの結晶を頂く事。ランペッジさん曰く『修行のためにロッキの結晶をかけていろいろな人と勝負している』とのこと。
「でもこの前頂いたちゃった結晶で最後みたいだったけど大丈夫かな?」
「それなら心配いらないのでは? 昨日、ルノ様と金ピカスライムを捕獲してお金が入ったらしいのでまた仕入れてますよ」
「ふむふむ」
グロッタの言う通り、わたしの心配は杞憂でした。村に着くと、いつもの場所にランペッジさんがいます。どうやら先客がいるらしく、既に戦闘中。
「はっ!」
「ぐわっ!?」
しかし、それも一瞬。ランペッジさんの見事な一本でした。
「おはようございます、ランペッジさん!」
「今日も結晶を頂きに来たぞ(ニヤニヤ)」
「んなっ……!? 今日もやるのかい……?」
「はい! よろしくお願いします!」
わたしが挨拶すると観客の人達が『頑張れー!』『結晶キラーが来たぞ!』などと声援を贈ってくれました。
「い、いいだろう! こーい!」
という訳で勝負開始。
わたしが打ち込むとランペッジさんはそれを弾いてから攻撃してきました。わたしも負けじとそれを躱してお返しとばかりに片脚を氷漬けに。
「うおっ!?」
「隙ありー!」
「ごふっ!?」
一本。魔法を使ったこの攻めはここ最近のわたしの必勝パターンです。
「フッ、なかなかやるな。今日はフユナちゃんの勝ちだ(キリッ!)」
「いつも負けてるだろうに(ボソッ)」
「グロッタ! そういう事は言っちゃいけないの!」
「ゲラゲラ!」
結晶が欲しいのもありますが、実はこれはわたしにとってもいい修行になっているのです。今日もありがとうございました、ランペッジさん。
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そして帰りの道中。
「ふんふふーん♪ これでグロッタの小屋がまたひとつ立派になるね!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
そんなにお礼を言われると恥ずかしいけど、グロッタの小屋が立派になるのはわたしも嬉しい。
「それにしてもフユナ様も強くなられましたな」
「うん? そうかなー?」
「えぇ。ここ最近のランペッジは昔ほどの余裕は無くなってきているような気がします」
「ふーん?」
グロッタが言うには、最初の頃は手加減しながらやっていたのだが、わたしの成長によってここ最近は割と本気でやっているらしい。
「理由は分かりませんが、アレもフユナ様を鍛えているのかもしれませんな!」
「たしかにサトリちゃんとの修行に付き合ってくれることもあるしね。やっぱりランペッジさんはすごいなぁ」
「もしかしたらフユナ様に惚れているのかもしれませんぞ!ゲラゲラ!」
「もう……そんな訳ないでしょ。ランペッジさんにはサトリちゃんがいるんだから」
「しかし、サトリは否定してましたよ?」
「グロッタは分かってないなー! あれは『照れ隠し』だよ!」
「な、なるほど! そいうことでしたか!」
こうしてサトリちゃんとランペッジさんの関係を再確認しつつ、今日もわたしの日課は無事に終了したのでした。