第六十六話〜デートのお誘い〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。
荒ぶるサトリさんから逃げるようにカフェを出た私とランペッジさんは、村の入口までやって来ていた。
「はぁ……なんで私までこんな目に……」
「ルノさんはほんとにサトリと仲がいいな?」
ランペッジさんが話題を変えようとしている。許せん……
「まぁ、これでも長い付き合いなのでそれなりには」
「そうかそうか!ところでルノさんはこの後は暇かな?」
「え、ごめんなさい」
「まだ何も言ってないぞ!?」
「なんとなく分かりますよ。この流れはデートのお誘いでしょう? フユナに発情したり、サトリさんにプロポーズしたりしたくせに次は私ですか……」
「ひどすぎる!?」
そう言いながらランペッジさんが仰け反る。押したら倒れそう。
「せっかくだから討伐に付き合ってもらおうと思っただけなんだが……」
「あれ? でも結局依頼は受けなかったじゃないですか?」
「うむ。だから単純にお金になる金ピカスライムでも捕まえようかと思ってな」
「ふむふむ……」
どうやらこの辺りの人間は金欠になるとみんなその結論に至るらしい。まったく、みんな単純なんだから。ほんとに。
「まぁ、別にいいですよ。どうせこの後は家に帰るだけだったので」
「ほう? それならオレも一緒に」
「討伐に行きましょう」
そういう事になった。
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急遽、討伐に行くことになった私とランペッジさんは森に入るや否やスライムに襲われていた。特にランペッジさんが。
「く! 今日はスライムの数が多いな……ごふっ!」
「きゃーーー! スライムがこっちに来るぅ!」
「こ、こら! なんで戦わないんだ!?」
そう言いながらも私に襲いかかってきたスライムを倒してくれるランペッジさん。その手にはサトリさんと同じ双剣『カラット・カラット』が握られている。色は透き通った黄色。
「いや、スライムに襲われるランペッジさんがなかなか面白くて見学してました」
「一緒に来た意味なし!?」
「でもほら。かっこいい姿を見せればもしかしたらそれがフユナの耳に入るかも……」
「まったく、仕方ないな(キリッ)」
「表情までは伝わりませんけどね」
顔までキメるランペッジさんに少し同情しつつ討伐の事を考える。まぁ、スライムしかいないし任せっきりでも大丈夫だろう。
「それにしてもランペッジさん、なかなかやりますね」
助けに来てくれた時もそうだが、スライムにたかられてた時も凄まじいスピードで次々に倒していた。まるでサトリさんを見てるみたい。
「ふっふっふっ。スライムなどに遅れは取らないさ」
「さっき『ごふっ!』って言ってましたよね?」
「あれはわざとだ(キリッ)」
「やっぱりそっちの趣味が……? グロッタと同じドMですね」
「ち、違う!」
そういえばランペッジさんって、グロッタとキャラが若干被ってる気がする。
「それにあの時もわざと自分の雷をくらってたじゃないですか。まさにドM……」
『あの時』とは、ランペッジさんが突如家に訪ねてきてロッキの結晶を譲ってくれと言ってた時のこと。(22話)
「む、やっぱり気付いてたのか」
「もちろんですよ。みんなランペッジさんのことドMだって思ってますよ」
「そ、そこじゃなくて!」
「???」
なんだろう。その他に気付いたことなんてないのだが……
「実はわざと自滅したのには訳があってだな。オレはルノさんやフユナちゃんのような子が相手だと攻撃できな」
「スタスタ……」
「またしても華麗にスルー!?」
ちょっと期待していたのに大した理由ではなかった。けっこう強いだろうに。
その流れでしばらく歩くと、またしてもスライムの大群に遭遇した。
「きゃーーー! スライムぅーーー!?」
「ぐはっ! ごふっ!?」
うーん、やはり強いなんて気のせいだろうか。それともドMの衝動が抑えられないだけ?
ランペッジさんがスライムに袋叩きにされていると、その中の一匹……雷のスライムが雷を落とした。あれは痛そうだな。なんて思った瞬間、ランペッジさんが雷の如き速さでそれを回避した。そして……
「はっ!」
ズバッ! ズババッ!
スライムが次々に切り倒されていった。まるで雷が地面を駆けているようだった。
「おーー!」
「キリリッ!」
「お……おぉ……」
あのキメ顔がなければフユナに伝えてあげても良かったのに。
「ていうか……やっぱり戦い方がサトリさんに似てますね」
「ん? それは逆だぞ」
「逆?まさかのドSですか?」
「話の流れ的に絶対違うだろ!?」
「てへ」
「まったく……サトリが言ってただろう? オレが兄弟子だって」
そういえばカフェでそんなこと言っていたな。ということはつまり……?
「サトリさんがランペッジさんに似ているということですか? ドMの部分以外」
「そういう事だな。これでも昔はサトリの兄弟子として一緒に特訓したりしていたんだぞ?」
もはやドMの部分を否定しなくなったランペッジさんが意外な事を言ってきた。
「へぇ。じゃあやっぱり強いんですね」
「フッ。ぜひフユナちゃんに伝えといてくれ(キリッ!)」
「え、それはごめんなさい」
「ひどすぎる!」
ランペッジさんの戦う姿がサトリさんと重なるのはそういう事だったのか。帰ったら少しくらい話題に出してあげよう。
「そんなことより、金ピカスライムが全然いませんね?」
「ふむ……そうだな」
すると先程のようにスライムの大群が現れた。そしてその中の一匹だけ金色のスライムがいた。
「あ、あれは!」
金ピカスライム発見。ここで初めて私は臨戦態勢に入った。
「ルノさん、任せてくれ!」
ランペッジさんがそう言ったのと同時に、私は『魔杖・コロリン』を構えてコロリンを突撃させる。
「ずどーん」
コロリンは狙い違わず金ピカスライムに向かっていき……
「ごふっ!?」
「あっ」
金ピカスライムを捕獲しようとしていたランペッジさんの背中に激突し、そのまま吹き飛ばしてしまった。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「……」
フワフワと戻ってきたコロリンを杖の先端に戻してランペッジさんの生死を確認する。しかし返事がない。ただの屍のようだ。
「仕方ない。このまま埋めて……」
「冗談だろ!?」
「あ、起きた」
ドMの衝動が抑えられなかったみたいなので埋めてあげようと思ったのに。
「いやいや! 背中にくらったのは完全に不意打ちだぞ!?」
「て、てへぺろ」
こうして無事に金ピカスライムを捕獲することができました。
どうやってかって? 吹き飛んだランペッジさんが抱え込んでいました。すごい根性だ。
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私達が村に帰ってきた頃にはすっかり夕方になっていた。
「うまうま」
「……」
金ピカスライムを捕獲したお金を山分けし、現在の私はとてもホクホクだ。ちなみに捕獲した金ピカスライムはサトリさんの所で引き取ってもらった。初めてギルドらしいことしたな。
「これでしばらくは大丈夫そうですね?」
「ま、そうだな」
未だに背中をさすっているランペッジさん。私も多少の罪悪感はあったので回復の魔法をかけてあげた。
「さて、それじゃあ今日はこの辺でさよならしましょうか」
「うむ、今日はありがとう。助かったよ」
「いえいえ、こちらこそ」
「それじゃ、フユナちゃんにもよろしくな! (チラチラッ!)」
「ちょびっとだけ話題に出しますよ」
「沢山出してくれ!?」
「あはは……」
こうして何だかんだで楽しい一日は終わりを告げた。サトリさんとランペッジさんの意外な関係も知れたしこういうのもたまにはいいかも。
その夜。
「それでね、ランペッジさんが『サトリはオレのものだ!』とか言い出してさ。それなのに今日は私をデートに誘ってきて……」
「え? サトリちゃんとランペッジさんって……」
「そうなんだよ。ここだけの話……あの二人はそういう関係でね。サトリさんもまんざらじゃなさそうな顔してたよ」
「そうなんだ……それなのにルノを……」
そんなまったくプラスにならない話題で終わった事はランペッジさんは知る由もなかった。
ちなみにフユナに変な誤解をさせた私は後日、サトリさんにみっちりと叱られたのでした。