第六十五話〜カフェ=ギルド〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。
カランカランー!
開店して間もない店内に足を踏み入れると、静かでとても落ち着く雰囲気に包まれる。
ここは私のお気に入りのカフェ。昔からこの落ち着いた雰囲気が好きでよく来る。カフェだけあってコーヒーは美味しいし、チーズケーキなんて最高だ。フユナともよく来るし、一人で来ることも普通にある。今日がまさにそう。
そして、このお店にはもう一つの顔がある。それが……
「ようこそ……ヒュンガルのギルドへ」
「いや、無理しないでいいですよ?」
私を出迎えてくれたのは、いかにもカフェっぽいオシャレなエプロンに身を包んだサトリさん。ちなみに忘れてるかもしれないが『ヒュンガル』は村の名前である。
「ちょっと! ルノちゃんがやってって言ったんでしょ!」
「いやぁ……そういえばそんな役割もあったなーなんて思ったんですけど、やっぱり無理がありました」
なんたって、一話で『ギルドのような施設!』みたいな事を言ったっきりそんな話はまったく出てきてないのだから。
「という訳で今日もまったりとコーヒーを飲むことにします」
「はぁ……せっかくなりきってあげたのに」
「そもそも依頼なんてあるんですか? この辺は平和そのものですよ」
「一応あるよ。スライムの捕獲とか、スライムの討伐とか」
「はぁ……」
つまり依頼はほぼ無しと。そうして私が若干呆れていると突然店内に大きな声が響いた。
「おっすー!」
雷を思わせる金髪の青年。金欠のロリコン・ランペッジだ。
「おいおい、そんな紹介だと読者が(以下省略)」
以前も同じようなやり取りをしたので省略させてもらう。
「それにしても久しぶりですね。今日はどうしたんですか? 一人でカフェに来るなんて」
「ん、オレか? それはもちろん依頼を受けに来たんだ。なんたってここはギルドだからな!」
「えぇ……!?」
ちょっとした奇跡だった。こんな平和な村で、ギルドとしてこのお店を利用する人を初めて見たのだから。
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ランペッジさんが増えて多少賑やかになった店内にて。
「ふふん。実はこのように利用してくれる人もいるんだよ。ランペッジさんくらいだけど」
「ですね……利用する人、初めて見ましたよ」
サトリさんがちょっとドヤ顔で言ってきた。そこでチラッとランペッジさんに視線を向けると。
「ルノさんこそ、一人でコーヒーなんて飲んで一体何を? 依頼を受けに来たんじゃないのか?」
「文字通りコーヒーを飲みに来ました。なんたってここはカフェですからね。ちなみに私は一人じゃないですよ。サトリさんもいます」
「なにぃ!? サトリはオレのものだぞ!」
「え?」
「ちょ、ちょっと! 誤解招くような事言わないで下さいよ!」
なんだこれ。サトリさんが『バラしちゃいやぁー!』みたいな顔をしている。イチャイチャしやがって! てか、ランペッジさん……フユナは諦めたのか。
「では、お邪魔しても悪いので私はこれで……」
「待ってルノちゃん! 猛烈な誤解!」
「サトリさん。末永くお幸せに……」
「ご・か・い!」
「ぐぇぇぇ!?」
サトリさんが真っ赤になって首を締めてきた。あの、けっこう苦しいんですが。
「ランペッジさんはただの兄弟子だから!」
「ゲホゲホッ……! あ、兄弟子……?」
つまり、ランペッジさんはサトリさんよりも先にカラットさんの弟子になっていて、サトリさんにとっては兄弟子。ということらしい。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いたような聞いてないような。あまり興味もなかったので忘れてしまったのかも……」
「ひどすぎる!」
横でランペッジさんがショックを受けている。
「それで今日はお二人で式の予定でも決め」
「ギンッ!」
「ご、ごめんなさい……」
サトリさんがお姉さんみたいな目になってる。これ以上はほんとに締め落とされそうだ。
「えーと……依頼を受けに来たってことは、ランペッジさんはまた金欠になってしまったんですか?」
「何を言ってるんだ。ロッキの結晶を買うお金がないから仕方なく討伐に行くだけだ(キリッ)」
「それって金欠……」
「それにフユナちゃんがちょくちょく結晶を強奪しに来るから減りが早くて……うぅ!」
あーなるほど。ここ最近、グロッタの小屋のロッキの結晶が増えてるなと思ったらそういう事だったのか。
「そういう訳だサトリ。できるだけ報酬がいい依頼がいいんだか……」
「分かりました。スライムの討伐とスライムの捕獲、どっちがいいですか?」
「二択!?」
「はは、この辺は平和なので」
その通り。下手したらこのカフェでアルバイトした方がいいくらいじゃないかな。
「うーむ、やはり金ピカスライムでも見つけた方がいい気がするな。あわよくばコンゴウセキスライムを……うーむ」
ランペッジさんはなにやらうむうむ言って悩み始めてしまった。そしてその末に何故かコーヒーを注文。金欠なのにこんなにのんびりしていていいのだろうかとも思ったがやはりここはカフェ。この落ち着いた雰囲気がそうさせるのだろう。
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カフェの一角。私達のいる席ではまったりとした空気が流れていた。もはやギルドに来たつもりのランペッジさんでさえ寛ぎ始めてしまう始末。
「へぇー師匠がそんなものを? ぜひオレも体験してみたいものだ」
「構いませんけど入れ替わるならサトリさんとやってくださいね(にやにや)」
「ちょっとルノちゃん? まだ誤解してるでしょ……」
そうこうしているうちにいつの間にか時間はお昼に差し掛かろうとしていた。
「さてと……それじゃあ私はそろそろ帰りますね」
「んじゃわたしもそろそろ仕事に戻ろうかな」
「ならオレはそろそろフユナちゃんの所にでも遊びに行こうかな」
「ごちそうさまでした、サトリさん」
「うん、またねルノちゃん」
「華麗にスルー!?」
完全に目的を見失ったランペッジさんが変な事を言い出したような気がしたが気のせいじゃなかったみたいだ。ここははっきり言っておかないと。
「ランペッジさん! あなたにはサトリさんという婚約者が」
「きぃーー!!」
「ぐぇぇぇ!? 冗談です!? ごめんなさい!」
最後くらい笑ってくれると思ったのに……そんなにいやなのかな。
「サトリ。オレは別に構わないんだぞ? お前さえ良ければ今すぐに式を」
「きゃーーー!」←私
まさかのプロポーズに興奮する私は、わざとらしく叫んでみる。それが裏目に出たのか、サトリさんは顔を真っ赤にし……
「むきぃーーーーー!!!」
「「ぐぇぇぇ!?」」
私とランペッジさんは仲良く首を絞められました。今のは私が言ったんじゃないのに……