第六十二話〜極上の暇つぶし〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。
山の頂上。
森に囲まれた泉。
現在、私はフユナと出会った思い出の場所にいる。
「くっ! ルノ様、このままでは……」
「静かに。今から集中するから」
本日はグロッタと二人きり。フユナは久しぶりにサトリさんと特訓に行ってしまったので朝からいない。
「しかし……」
「グロッタ、私を信じて。……来たっ!」
「待ってくださいルノ様! ま、まだ……!」
この美しい風景には似つかわしくない重苦しい空気……当然だ。私達の運命がかかっているのだから。
この状況を打開するにはここで結果を出さなければいけない。
「うわぁぁぁ!」
私の声と共に大きな水しぶきが上がった。
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バシャーン!
私が気合いの声と共に引き揚げた釣竿には魚が一匹引っかかっていた。
本日、五匹目の獲物。
「や、やったよ!」
「流石です、ルノ様!」
私達は朝から釣りをするためにこの場所へやって来ていた。
「うんうん、悪くないね。この調子ならしばらくは食糧に困らないね」
「それなら村で買えば良かったのでは?」
「それじゃだめだよ。こうして自分の力で手に入れることに意味があるんだから」
「はぁ……そういうものですか」
意識高い系なことを言ってみたものの、実際は何か暇つぶしがしたかっただけ。村に食糧の買い出しに行く事だって普通にある。
「ほら、たまにはこうしてのんびり過ごすのも悪くないでしょ」
「そうですな。わたくしは家にいても似たようなものですが!」
私も自分で言っていて思った。カフェに行ったり、温泉に入ったり、だいたいのんびりしてるな。
「お、また来た!」
「おぉ!」
バシャーン!
「「……」」
しかし今度はスライムだった。実を言うと、こうしてスライムが釣れる回数の方が多い。
「はぁ、またかぁ……」
「ゴクッ……!」
スライムが釣れるたびにグロッタが物欲しそうな目で見てくる。この子なんでも食べるからな。『さすがに岩は食べませんぞ!』ってレベル。
「んじゃいくよ。そりゃ」
「ワンワン!」
私は釣竿を一気に振り上げて、グロッタ目掛けてスライムを放り投げる。それを着地地点で大きく口を開けて捕食。
「これ、スライムからしたらかなり恐怖だよね」
「ガツガツ……!」
まぁ、本人がこうして美味しそうに(?)食べているのだからいいのだろう。弱肉強食というやつだ。
そんなこんなで十匹ほど釣り上げたところで。
「ふぅ、そろそろお昼になるかな? ちょうどいいからこれ焼いて食べようか」
「ゴクッ……! ゴクッ……! ゴクッ……!」
私がそんな提案をすると、グロッタが今日一番と言っていいほどの物欲しそうな目で見てきた。水でも飲んでるの?
「とりあえず木を集めないとね」
私は家族からの贈り物『魔杖・コロリン』を手にする。今日も先端ではコロリンがコロコロと漂っている。
「とりゃ!」
バキン!
氷の魔法で木の枝が数本折れて地面に落ちる。それで火をおこして準備をしていると……
「なんだかルノ様がそこの森を蹂躙したのを思い出しますな! ゲラゲラ!」
「あっ、せっかく忘れてたのに!」
そう、あれはグロッタと散歩に出かけた時の事。
グロッタに魔法を教わって試し撃ちしたところ、目の前一帯の森が氷の牙によって消し飛んだのだ。今はすっかり元通りになっている。
「ここは思い出の場所だからね。フユナに秘密にしとくのに苦労したよ」
「ルノ様。残念ながらフユナ様にはバレてますぞ」
「!?」
グロッタによると、フユナが特訓の一環でここに来た時に見つけてしまったらしい。私が行っちゃだめだよと釘を刺したのもあってバレバレだったと。
「うぅ……それでも何も言ってこないフユナは天使だ」
「ゲラゲラ! きっとフユナ様にとってはそんなに大切な場所でも」
「ぐいっ」
「ぎゃあああ!?」
ちょうど魚が焼けたのでグロッタの口に押し込んだ。もちろん、食べさせてあげようという好意から。
「こら、グロッタ。いただきますもしないでお行儀が悪いよ」
「理不尽すぎる!」
こうして、のんびりした釣りから一転。賑やかな昼食が始まる。もちろん『いただきます』もした。
「んー! 香ばしく焼けた皮とふわふわの身が最高だね!」
「ガツガツ!」
私達は焼きたての魚に舌鼓を打つ。自然の恵みに感謝だ。
「うまうま。もう一匹焼こうっと」
「あ、ルノ様。わたくしにもぜひ!」
「よく食べるね。スライムはお腹にたまらないの?」
「ふっふっふっ! スライムは別腹なのです!」
グロッタがいきなり女子みたいな事を言い出した。スライムはデザート扱いらしい。
「まぁ、いっか。この極上の美味しさを楽しめないなんて損だもんね。どんどん焼いちゃおう!」
「ガツガツ!」
グロッタの勢いが増した。私の分も残しといてよね?
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お昼を食べながらのんびりとしているとあっという間に時間は過ぎてしまった。
「いやぁ、美味しかったね」
「ほんとですな! これなら毎日でも来たいくらいです!」
私は当然の事ながら、グロッタも大満足したみたいだ。
「帰ったらフユナにも食べさせてあげないとね」
「???」
「ん……どうしたの?」
横を歩くグロッタが急に私を見つめてきた。照れるんですけど。
「ルノ様。食べさせるも何も、魚は残ってませんぞ」
「え……うそ?」
そんな馬鹿な。今日の目的は食糧の確保だったはずだが?
「うわ、ほんとだ。調子に乗ってお昼に全部食べちゃったんだ……」
私はもちろん持ってないし、グロッタが背負ってるリュックにも魚は入っていない。
「仕方ないか。それにせっかくならあの場所で食べたいしね」
「今度は全員で来たいものですな!」
「お、それいいね」
ピクニックはフユナとサトリさんと行ったっきりだし、この機会に家族で行くのもいいかもしれない。
「それならサトリさんやカラットさんも呼んでみんなで行こうか」
「うげ、あれも呼ぶのですか? しかし……まぁ、別に呼んでやっても……うむ。仕方ないので焼き係としてなら」
「そんなに呼びたいの?」
「そ、そんな事をありませんぞ……!?」
「ふふっ、分かりやすいなぁ」
カラットさんの話を出したら急にグロッタが饒舌になった。可愛い奴め!
そんな調子で釣りからの帰り道を歩く私とグロッタ。私達の賑やかな会話は、すっかりオレンジ色に染まった空に笑い声と共に響いていたのでした。